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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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初日

翌朝、堺のインドカレーをパンで挟んだという、若干捻った朝食を食べた一行は、厳戒警備体制で、MI6本部に向かった。


会議は矢張り揉めた。

対ISISで、一大空爆作戦を行う、その為に、龍太郎に強力な爆撃兵器を開発して欲しいというG7の提案に、龍太郎が真っ向から反対したからである。


「空爆ってのは、シリアの一般市民が居るところに落とすんだろ。ISISも全滅するが、善良なシリア人や女子供まで死んじまう。んなもんは簡単に作れるが、俺はそんな殺戮兵器なんざ作りたかないね。」


竜朗が流石に渋い顔で諌めた。


「それはそうだが、ISISの奴らは、一般市民に混じって生活してんだから、仕方がねえだろ。同盟国なんだから、歩調は合わせねえとなんねえの。

大体、じゃあ、ISISはどうすんだい。例のミサイル攻撃だって、結局は、ISISに呼応しちまった国や人間の手引きで起きた事だぜ?

後を絶たねえ人質問題はどうすんだ。テロは。

このままにしといたら、安保改正しちまった日本でだって、テロは起きるぜ?」


「そもそも、なんでISISなんか出来ちまったのか、どうして呼応しちまう国が出てんのか、それは俺たちG7の今までの搾取型で威圧的なやり方が端を発してんだろ。そこから改めて、話し合いを…。」


当然、アメリカの国防長官が黙っていない。


「話し合いなんか出来ると本気で思っているのか。ISISと。それが出来ないから、攻撃になっているんだ。そもそも、ISISは国などでは無い。話し合いで収まるものではない。」


それにと、イギリスの国防長官が継いだ。


「移民の中にISISのメンバーが入り込み、受け入れ先の国でテロを起こすという事も考えられる。そうなると、自国を守る事で、こちらも精一杯になる。事実、日本は移民の受け入れは拒否してるじゃないか。その分、しっかりサポートしてくれないと、困るんだが。」


「じゃあ…。シリアの一般市民はどうなるんだよ…。」


龍太郎が絞り出すように言うと、重い沈黙が流れた。

その沈黙を破り、アメリカ国防長官が言った。


「それは我々も心を傷めている。しかし、その為に、世界中を脅威に晒すわけにはいかない。君も軍人なら分かって欲しい。」


ドイツの国防長官が、間を取り持つ様に、続けて言う。


「私も出来うるならば、加納一佐同様、話し合いで、交渉していきたい。しかし、ISISは、ならず者集団である事、これも、間違いない。

交渉の道は探りつつも、自軍の損失が最小限で抑えられる空爆攻撃を続行していくしかないのではないかと思っています。

加納一佐、納得行かない部分は私もありますが、ここは連携を崩さず、協力して事態を打開して行くしかないのではありませんか。」


竜朗が、龍太郎をギロリと見て、頷いた。

うんと言えという合図だ。


「ー分かりました…。一応開発はしていきます…。」




龍彦と夏目は会議場の端っこで、その様子を警備しながらずっと見ていた。


「ーあいつは…、いい奴過ぎてしんどいから、あんななのかもな…。」


龍彦の呟きに、夏目がニヤリと笑った。


「しずかさん以外で、あの人の理解者って初めて見たかもしれません。」


龍彦はハッとなって、慌てた風で、手を仰ぐ様にブンブンと横に振った。


「違うよ?俺は!」


「そうでしょうか。」


「うん!」


「ではそういう事にしておきましょうか。」


「いや!そうなんだって!」


夏目は面白そうに笑うと、珍しく微笑んだまま言った。


「龍介と同じですね。見方が優しい。自分が被害に遭うとか関係無しで、人を公平な目で見られる。大きいんだな。器が。」


「そうかねえ…。」


「はい。だから俺は、珍しくあなたには頼ってしまうのかもしれない。」


「そりゃ光栄だ。鬼の夏目に頼られるとは。」


鬼と聞いて、夏目の顔が元の仏頂面に戻ってしまった。


「そりゃ、若い時の話でしょう?」


「いや。図書館でも、鬼と呼ばれていると、さっき、加納さんから聞いた。」


「なんでです。」


「射撃訓練で。平気で先輩に檄は飛ばすは、鬼の様にこなすわ。君の訓練について行くのは、実戦並みに消耗するって。」


「うーん…。普通にこなしてるだけなんですが…。」


龍彦は笑顔の裏で、ドン引いていた。


ー普通にやってて鬼呼ばわりされるって、この子はどうなっとるんだあ~!!!この子の普通って一体~!?




午後の会議も終わり、再び車に乗せて帰る。

MI6の駐車場は地下だが、敵に入り込まれているとも限らない。

例によって、全方位をCーBDーTで囲み、体型の似ている3人を警備側から加えて、同様に警護してカモフラージュして車に乗り込ませる。

車には無事に乗れたが、問題は道中だ。

はっきり言って、奴らにはチャンスはこの道中しか無いのだし、総力を挙げて、この機に暗殺を企てて来たのだとしたら、否応無く、道中で仕掛けて来るはずだ。

龍彦も夏目も、そう睨んでいた。


「真行寺さん、後方から不審車が。銃持ってます。」


龍彦の無線に夏目から連絡が入った。

夏目は、龍彦に見込まれて、1番後ろの車で、佳吾を警護している。

マスクで顔の半分は隠れているが、その目は、龍彦と一緒に頭に叩き込んだ、戸籍のない、X配下の人間の物だった。


「運転者は佐藤純一、助手席の銃を携帯している奴は、岡野慎也と名乗る人物かと。」


「青山、止めろ。」


青山達別働隊は、警備車両から何台か離れた所を、(まば)らに走ってサポートしている。


「青山、任せて大丈夫か。多分、囮だ。」


龍彦が聞き、青山の返事と同時に、後方から日本人の乗った車が現れ、真ん中の竜朗が乗った車の横についた。

目ざとく、龍彦と夏目はその車両の窓から銃が出たのに気づく。

2人同時に銃を持った人間、運転手、タイヤを打ち合わせしたかの様に分担して撃ち、襲撃者の車は、街頭に突っ込んで停まった。


「柏木君。」


「回収します。」


龍彦は息つく暇もなく、警備体制を立て直しながら無線で佳吾を呼んだ。


「分かってる。」


言ったか言わないか、まさに間髪を容れず、佳吾が座席の下から狙撃銃を素早く出し、夏目側でない護衛の人間を避けて、ビルの屋上のスナイパーを撃つ。


「局長、言って下さい!?」


避けられた護衛が言うと、更に彼を押し潰す様にして、もう1人、スナイパーを撃ってから言った。


「言うより早い。それより君もエージェントなら、気づきたまえ。下でバタバタやってる間に、スナイパーが撃つ。実に理に適っている。敵の思考は常に先に読まなければ。目前の事案に対処しつつ、次は何が来るかと、常に頭を働かせなさい。」


「は…、はい…。」




龍彦達がなんとか戻って来ると、龍彦は先ず、地下室に行った。

ここには半死半生で捕らえられた者と、死んだ者達、全てのXの仲間達が集められている。


「未だ10人か。口は割ったか?」


青山に聞くと、青山は首を横に振った。

1番初めの囮と思われた男2人組の内、運転者の方は、目を離した瞬間に、青酸カリのカプセルを飲んで、自殺。

片方の、銃を構えていた方の若い男は、自殺はしていないが、相当暴れた様で、青山の顔にも怪我があった。


「大丈夫か。」


「はい。これ位、夏目との日々に比べたら…。」


涙目。


ー夏目君…、一体どういう学生生活を送っていたんだ…。


夏目は全く気にした様子も無く、龍彦に言った。


「死ななかったって事は、口を割る可能性があるって事でしょうか。」


「俺もそう思う。やってみよう。未だ2日もあるからな。」


初日から練りに練った襲撃が来た。


残りあと2日…。


















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