ちび龍介の受難
鸞の指示で、取り敢えず花のある家から離れ、真行寺を呼びつつ、拠点を近くの寺に移し、家を調べ終えた寅彦が言った。
「あの家は無人だな。
3カ月前まで、お婆さんが1人で住んでた様だが、老人施設に入った様だ。
身寄りも他に居なくて、目下のところ、廃墟的な位置づけ。」
「じゃあ、特に家主に断る必要は無い訳ね。
で、そのお婆さんはそんな危険な物を作りそう、又は関係しそう?
関係者に、そういった怪しい花の栽培をしそうな人は居る?」
「ざっと見たところ、その可能性は低い。
関係者は、電話の相手から行くと、近所のお婆さん友達って感じで、怪しげな相手は居ねえな。
カードで買い物は皆無の様だから、購入履歴は当たれねえけど。」
「そうね…。でも、あの庭の感じでは、園芸が好きという感じでも無さそうね。
この3カ月ほったらかしにしても、荒れ果て過ぎてるわ。
もっとずっとやっていなかった感じね。」
龍介を心配そうに見ているキャサリンを抱いた、まりもも言った。
「あのお婆さんが庭でお手入れしているところは見た事ないよ?
1年前に亡くなったおじいさんがやってるのは、よく見たけど。」
「そう。じゃあ、龍介君とキャサリンを若返らせたあの花は、自然発生的な物と考えた方が良さそうね。」
防護服を着た亀一が言った。
「そいじゃ、処理プラス採取して来るぜ。」
「きいっちゃん、1人で平気?」
「大丈夫。」
そして、鸞は小さい龍介の頭を撫でて、にっこり。
「原因が分かれば、元通りになる方法も、きっとあるわ。元気出してね。」
頷く龍介はトロンとした目をしていた。
「龍、おねむ?」
瑠璃が聞くと、一生懸命怒る。
「ガキあちゅかいしゅるなあ!」
「がきあちゅかい…あ、ガキ扱いするなね?
可愛いんだからもおおお〜!。
仕方ないのよ、龍。
頭は今の龍でも、身体は5歳なんだから、すぐ疲れちゃうのよ。
抱っこしててあげるから、ねんねしよ?」
瑠璃は一体、この状態の龍介をなんだと思っているのか。
あまりの可愛さに、大事な事を忘れてしまっているようだが、このまま戻らなかったらどうしようとかは、今のところ、考えないらしい。
半べそをかいてるような、お口への字の可愛い顔に、更に瑠璃は理性を失う。
「本と可愛いんだからもおおおお〜!」
ずっと見ていたまりもが勇気を出して言った。
「唐沢さん…。すんごく可愛いとは私も思うけど、不安とか心配にはならないの?加納君がこのままだったらどうしようとか…。」
瑠璃はいい笑顔できっぱり言った。
「無いよ!私、龍がこのままでもいい!そしたら、ずっと私が可愛がって面倒見てあげる!ねー?!」
ーねー!?じゃねえよ!
何を言っても可愛いと言われるし、怒った顔まで可愛いで済まされ、亀一達には笑われるし、鸞には何を言ってんだか分からないと言われるし、龍介はもう黙っている事にした。
「でも、お洋服がこのままじゃねえ…。」
瑠璃は龍介を抱っこしながら、龍介から脱げてしまった物を畳みながら言った。
「当然パンツも脱げちゃったみたいだし…。」
「パ…パンツ!?」
驚くまりもに平然として、龍介のトランクスを見せる。
「ほら、可愛いの。赤いギンガムチェック。」
パンツを奪い取って怒鳴る龍介。
「みちぇてんじゃねえよ!」
「みちぇて…見せてんじゃねえよね?もう、可愛いの。はい、龍はねんねよ。いい子いい子。」
しかし、こうして瑠璃の胸に抱かれているのは、かなり居心地がいい事もまた事実。
そして、瑠璃の言う通り、確かに疲れやすい。
あったかいし、背中をトントンされて、すーっと眠りに落ちたところに、真行寺がカイエンでぶっ飛んで来て、転がる様に車から降りて駆け寄って来た。
「龍介えええ!大丈夫かああああ!」
龍介が目を擦りながら真行寺を見た。
イケメン爺さん台無しに綻ぶ真行寺の顔。
「かっわいいなあ!こんなだったのか、お前!」
瑠璃から受け取り、頰ずりするように抱っこ。
「ぐりゃんぱ…。」
なんだか嫌な予感がしないでもないが、一応呼んでみると、更に狂喜する真行寺。
「んああああー!可愛いっ!もういいよ、戻んなくて!本と可愛い!食いたい位可愛い!」
「ですよねー!」
龍介の事をマトモに心配してくれる人は、あまり居ない様だ。
「ああ、そうだ、服な。全部脱げちゃったって寅から聞いたから、取り敢えず買って来たから。
龍彦のは、幼稚園の園服と七五三の羽織袴しか無かったからさ。」
平均の5歳児より小さめらしく、全体的にブカブカだったが、車で真行寺に着せて貰い、なんとか服は着た状態になった。
流石真行寺セレクト。
アメカジ風なお洒落な5歳児になっている。
寅彦と鸞が来た。
「真行寺さんが連絡を取って下さったお陰で、寅次郎さんの所の人が迎えに来て、研究室を貸してくれる事になったそうです。
きいっちゃんが行って、寅之君と調べるそうですから。」
「ああ、有難う。」
「柊木さん、そんな訳で、原因物質は分かったから、それの対処法が分かり次第、ご連絡するわ。」
「有難う…。加納君、ごめんね。こんな事頼んだばかりに、加納君まで小さくなってしまって…。」
「きにちゅんな!」
真行寺の膝の上で笑う龍介。
いつものかっこ良さは全く無いが、まりもはキャサリンを抱いたまま身悶えした。
「可愛い〜ん!やっぱりこのままでもいいかもしれない!」
「でしょお!?」
「そうだろう!?」
ー全くこいつらはー!なんなんだ、グランパまでー!ちっきしょ!覚えてろよ、こんちくしょー!
龍介の心の叫びは誰にも届かず、ムッとした顔で、また可愛いと言われる始末。
そして、帰宅したらしたで…。
「うおおおお!懐かしいじゃねえか、龍!ああ!可愛い!元戻んなかったらどうするって、聞いた時にはエライ心配になったが、もうどうでもよくなる可愛さだな、おい!」
そう言って、竜朗まで抱っこしてスリスリ…。
ー爺ちゃんまでええー!もうヤダ!絶対元戻って、復讐してやるううー!!!!