第一の難関開始
プライベートジェットで、厚木から飛び発った一行だったが、飛んでから暫くして、龍彦はパイロットに言った。
「ヒースローには行くな。」
「えっ!?飛行計画書はその様に提出してしまっていますが…。」
「流れてたら困る。というか、流れてる可能性の方が高い。英軍の空軍基地に話は通してある。そっちに降ろせ。」
「了解しました…。」
パイロットに緊張が走っているのを見ると、龍彦は笑って肩を叩いた。
「大丈夫だよ。流石に撃ち堕とされやしねえよ。」
ほっとしかかったパイロットだったが、龍太郎の一言でまた顔色を失くす。
「俺だったら、一発ドッカンと撃ち墜として終わりにすっけどな。」
龍彦が嫌そうな顔で睨む。
「奴らはバレバレの手は使わない。プライベートジェットとはいえ、こんなでっかい民間機撃墜したら、いくら領空内でも隠しようがねえだろ。
この人は素人さんなんだから、脅す様な事言うな。」
「つーか、真行寺。」
「なんだよ。」
「俺がステルスで護衛に着くという話はなんでポシャったんだ。」
竜朗の眉間の皺が、これでもかという程寄った。
「だから、おめえが護衛についてどうすんだって話だったろうがっ!」
「けど、アレに乗ってた方が安全ですよ。お父さん達も一緒に乗れば良かったんです。」
「そもそも、あのステルスはイギリスにはまだ内緒の代物だろうが!どこに着陸すんだっての!」
「この機会にお披露目したらいいじゃないですか。」
「アメリカとの密約があんだろっつーの!色々とその辺は難しい問題があんだよ!」
「難しくするから、問題が起きるんじゃないんですかあ?」
「いいから、お前は黙ってろお!!!」
竜朗と龍太郎の親子喧嘩は、何かにつけて続いていたが、無事、英軍空軍基地に到着。
龍彦と夏目は相談する事もなく、CーBDーT(超防弾盾)を広げ、3人を全方位からそれで囲んで、迎えの車に乗せた。
「割れないか?残りの奴らは、」
龍彦が車に乗り込むなり、堺に聞くと、堺は申し訳なさそうに頭を下げた。
「はい。6人に関しては徹底マークしてますが、夏休みのせいか、日本人が予想以上に多く入ってまして。申し訳ありません。」
「仕方ないな。はい、お前もこれ着る。」
龍彦は龍太郎に乱暴に防弾ヘルメットと、防弾ベストを着せた。
「俺もお!?」
「あんた着なくてどおすんだよ!」
「コレ、重いんだよ。」
「嫌なら改良しやがれ!てめえが作ったんだろうが!」
「はああ…。真行寺って、本当、龍の優しくない版…。」
真行寺は龍介のお怒り顔の時の様な不敵な笑みを浮かべた。
「俺はお前以外の人には優しい男だぜ。」
そう言いながら、真行寺の目つきが変わった。
前方のビルの屋上に、怪しい光を捉えていたのだ。
「堺、車、左車線に移動。」
「は、はい。」
返事はするが、理由は分からない。
分からないまま、車を左側の車線に移動させると、龍彦は窓からこっそりという感じで、シートの下から出した狙撃銃で、前方のビルの屋上に居る何かを撃った。
無線で直ぐに連絡。
「デビット、確認してくれ。」
「只今確認に向かってまーす。あら、流石ドラゴン。日本人のスナイパーだったわ。弾は、BDー58971よ。」
龍太郎が笑いだした。
「凄え。よく見つけたな。」
「笑ってる場合か。BDー58971で撃たれたら、この防弾ガラスはつき破られちまうだろ。」
「マズイもん作っちまったかなあ。」
「敵側に渡るとな。兵器ってのはそんなもんだろ。世の中平和に出来てねえからな。」
龍太郎が不意に真面目な顔付きになった。
「ー危ないね…。情報局の人ってのは、こんな誰も信用できない状況下でいっつも仕事してんのか…。」
いつもひねた事しか言わない龍太郎が、本音で心配しているのは龍彦にも分かったが、龍彦は敢えてそれには返事をしなかった。
その後、もう一度同じ様な事があり、スナイパーは龍彦が排除し、無事に龍彦の自宅に到着した。
大体の用意は堺がしておいてくれたので、龍彦は、全員を部屋に入れずに、リビングで、警備会議を始めた。
「今回は、これ以上は無いという位の警備体制で行く。先ず、防弾ヘルメット及び、防弾ベストは、お三方には必ず着用して頂きます。
そして我々も。1人の死者も出さない事が、敵への我々の覚悟を持った意思表示でもあり、復讐でもある。
絶対死なない様に。
車、及び、乗る警備の人間は変えない。
だから銃火器の位置なんかは、其々、やりやすい様に変えて良し。
但し、警備されるお三方は、乗る車は固定にしない事。みっともなくてもなんでも、我々と同じ格好をして頂き、誰が誰やら一見して分からない状態で乗って下さい。
車列の先頭は必ず俺。
1番後ろは夏目君。これも固定で。
これは俺の予想でしか無いが、敵が狙って来るのは、移動時とここに居る間が1番可能性が高い。
会談場所の天下のMI6に襲撃掛けるとは思えねえからな。
とは言え、この三日間は一瞬足りとも気を抜かない様に。
何か質問は?」
「はーい。」
龍太郎が手を挙げた。
龍彦が嫌そうな顔で、解散と言って、無視した。
「おーい!俺の質問はあ!?」
「どうせ、メシの心配だろ。」
龍太郎はマジマジと龍彦を見つめた。
「なんで分かるの?」
龍彦は世にも悲しそうな顔で煙草をくわえながら呟いた。
「俺も知りたくない…。因みにメシは堺が作ってくれる死ぬほど美味いインドカレーだ。」
「三日間…?」
「三日間…。」
「インド人もびっくりだな…。」
「言えてんな…。」