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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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受難の亀一

亀一が加納家に駆け込んで来た。

まだ髪も濡れてるし、ジーンズのベルトもちゃんとしてないのだが、竜朗や寅彦が何か言う前に、叫ぶ様に言った。


「しずかちゃんは!?」


しかし、もう既に風呂場に走って行ってしまっている。

竜朗と寅彦が焦った様子で、追い掛ける。


「いや、だから、おい!亀一!どこ行くつもりだい!」


「風呂場ですよ!」


「そらまずいって!」


聞く耳持たず、亀一は風呂場のドアを開けた。


「待ったか!?タンザワッシー!!」


しかし、そこには、タンザワッシーはまだ来て居らず、しずかが年の割に美しい乳を振り乱して、ナイロンタオルを斜めにして、ガシガシと背中を洗っている所だった。

真っ白になって、固まる亀一としずか。


「何やってんだコラあ!早く出て来な!」


竜朗に外から怒鳴られ、しずかとバチッと目が合った瞬間、タンザワッシーがザッパーンという音と共に現れたが、


ーゴン!!!


「だ、大丈夫!?あ、龍を助けに来てくれたのね!?」


「あおん!」


また胸を張ろうとして、


ーゴン!!!


「気を付けてね。屋内だから…。」


しずかが泡だらけのまま、タンザワッシーの頭をさすりながら、ゆっくりと振り返った。


「きいっちゃん…。事情は分かったんだけど…。」


「ご…ごめん…。一回出ます…。」


「ええ。そうして…。」


しずかは、サイズ的に浴槽から出られないタンザワッシーと風呂場で話した様で、適当に洗い流して急いで出て来ると、全員に言った。


「この葉っぱを胸に貼っておくと、全部出て治るって言ってるみたいだったわ。直ぐ貼って来るね。」


しずかについて行き、龍介の部屋に入ると、寝ているにも関わらず、咳をしたのか、抜け殻はまた五体位転がっていた。


「これじゃ持たねえよ…。」


竜朗が泣きそうになりながら、抜け殻をグルグル巻きにする。


しずかがタンザワッシーがくれた葉っぱを、龍介の胸に貼り付けた。

しずかはそのまま葉っぱの上に手を置いて、龍介の顔を見つめている。

全員が同様に、不安に駆られながら見つめていると、龍介の顔が赤くなり出し、苦しげに眉間に皺が寄り出した。


「龍!?どしたの!?」


「苦しいのか!?龍!」


竜朗も駆け寄り、苺蜜柑が心配の余り泣き出すと、龍介が目を開けながら言った。


「なんか…、出そう…。気持ち悪い…。」


「寅!洗面器!」


竜朗に言われ、寅彦が走ったが、龍介は横向きになって、苦しそうに咳き込み始めた。


「いいわよ。吐いちゃいなさい。」


しずかが背中をさすりながら言ったが、胃から吐く感じでは無い様だ。

今までに無い、酷い咳き込み様。

呼吸も出来なくなってきていそうだった。


「大丈夫か!?息できてるか!?気道確保した方が!?」


亀一がそう言って、竜朗としずかが龍介の体勢を変え、亀一が気道確保の為に、筒状に空にしたボールペンを構えた時だった。


ゲホお!という様な苦しそうな咳と共に、龍介の口から、びしゃびしゃと音を立て、大量の何かか出た。


「ぎやあああああああ!!!!」


竜朗も含め、全員がそれを見て、叫んだ。

寅彦は洗面器を落とし、倒れそうになっているし、亀一も泣きたくなったし、しずかは卒倒寸前。

双子は手がつけられないショック状態。

珍しく、竜朗までどうしたらいいのか分からない状態になっていたが、意外な事に、龍介が物凄く元気に叫んでいる。


「うわああああ!なんなんだ、これはああああ!何故!?どうして!?なんか嫌っ!凄え気持ち悪い!俺から出たなんて認めたくない!」


そのお陰で、全員我に帰れた。


「これは…、レントゲンを拡大したら分かった、龍の抜け殻のミニサイズだよ。ほら。」


亀一がそう言って、1つ摘んで見せると、納得したが…。


「これが龍の肺の中にびっしりと入っていた訳!?嫌よおおお!気持ち悪いわよおお!!!」


しずかは竜朗に抱きつき、竜朗もヒシと抱きしめた。

竜朗も、あまりの不気味さに、抱きつきたい気分だったのかもしれない。


「でも、どうだ、龍、気分は。」


亀一が聞くと、顔色もすっかり良くなったいつもの顔で、にっこり笑った。


「凄えいいよ。なんか前より元気な気がする。」


「試しに咳してみな。」


咳をしたが、何も出ない。

葉っぱも剝がれ落ちているし、治った可能性が高そうだ。


「一応、レントゲン、撮ってみよう。」


出掛けるとなり、しずかは竜朗に抱きついたまま聞いた。


「こ、これ、どうするの…。きいっちゃん…。」


「お…、俺に聞くのか、しずかちゃん…。」


「ーだって…。」


「1つは、分析に欲しいけど、後は…。」


「す…、捨てておくの…?」


「だ…、だって、この大量の抜け殻だって、捨てなきゃだろ…。同じじゃん…。」


「ま、まあね…。でも、これ、普通ゴミで捨てられないわよ…。」


龍介が元気になって、やっと元に戻った竜朗が言った。


「これらはうちの奴らに燃やしてくれる様、頼んどくから。そんじゃ、研究所行くか。」


「お父様は駄目よ。ここで護衛されて大人しくなさってて。私が行きます。」




再び研究所へ行ってレントゲンを撮ると、肺は綺麗になっているだけでなく、付き添ってくれた医師は驚くべき事を言った。


「龍介君て、気管支炎起こしやすいんですよね?

このレントゲンだと、そういうのも分かるんですよ。

何ヶ月前に気管支炎起こしたとか、起こしやすいとか。

それが無くなってますよ。

かなり健康な呼吸器になっています。

丸で、全部洗い流したみたいにね。」


亀一としずかは顔を見合わせた。


「あの落ち武者…。助けてやったのに、なんて事しやがると思ったけど、もしかして、龍の体質を改善してくれたの…?」


「ーだと思うな…。前に気管支炎になった時、タンザワッシーの葉っぱで良くはなったけど、その後も気管支炎にはなりやすいままだったから、タンザワッシーの葉っぱでは、体質は改善されねえはずだ…。」


「じゃあ、あのままほっといても大丈夫だったのかしら…。」


「多分…。抜け殻が出続けても、ギリギリ死ななかったのかも。

だから、タンザワッシーは龍の危機とは思わなかったから、こっちが来てくれって思うまで、来なかったのかもな…。

葉っぱ使わずに、そのまま自然に任せてたら、あんな苦しい思いして排出しなくても済んだのかもしれねえ。」


「そっかあ…。ああ、でも、良かった…。」


「ご心配おかけしました。」


龍介が2人に向かって、ぺこりと頭を下げると、しずかは笑いながら亀一を睨んで言った。


「そうよ。きいっちゃん、一生懸命心配して、考えすぎた挙句、私の裸見たんですからね。」


「えええ!?きいっちゃん!?何してんの!?栞さんが居るだろう!?何もおばちゃんの裸見なくてもいいだろお!?それとも未だ母さんに未練が!?」


「ちっがーう!!!タンザワッシーと加納家の風呂場で約束してたから、急いで入ったら、しずかちゃんが風呂入ってたんだよ!」


「そうなのよ。ごめんなさいね、お見苦しいものお見せして。」


「いえいえ、なかなかどうして、大変お美しいお身体で…。」


全部言い終える前に、龍介の蹴りが飛んだ。


「なんかいヤラシイぞ、きいっちゃん!」


「6歳までは一緒に風呂入って見てたんだから、いいじゃねえかよお!」


「今、6歳じゃねえだろおがああああ!!!」


「うるせえ、このマザコン!」


「俺はマザコンじゃねえええ!!!」


「んな怒りなさんな。きいっちゃんのお陰なんだからね。」


お決まりの元気のいい喧嘩も出来る様になり、龍彦の帰宅前に解決出来て、ほっとしながら亀一も帰宅出来た。


「良かったわねえ、龍君。」


夕食の席で優子が言うと、亀一はしみじみと頷いた。


「本とだよ…。龍が機能不全に陥ると、俺の能力まで半減する事も分かったし、もう龍が寝込むのは嫌だ。」


栞が景虎を抱いて、果汁を飲ませながら笑った。


「本とね。びしょ濡れの裸同然の姿で飛び出して行った時は、龍介君が居ないと、本当に駄目になっちゃうんだ、この人って思った。」


「んな事言ったってさあ…。マジで、このまま死んじまうかもしれねえと思って…。」


「そうだよね。本当に良かったね。ね、景虎。龍介君、元気になったって。また遊んで貰えるね。」


「あー!」


笑顔で元気良くお返事出来た景虎だったが、口の周りはジュースだらけ。


「凄え飲み方だなあ…。」


亀一がそう言って、景虎を受け取り、笑いながら拭いてやると、一丁前に、ムッとした顔をした。


「なんだ、一丁前にムッとした顔なんかしやがって。」


亀一が景虎の頬をツンツン突くと、ケタケタと笑った。

亀一のいいお父さんぶりに食卓も和む。

そこへ突然、呼び鈴が凄まじい勢いで連打。


「なんだ?」


「僕出るよ。丁度ご馳走様だったし。」


拓也が席を立った。


「ーいや、万が一がある。俺が出る。お袋。」


「はいはい。」


テーブルの下から各々銃を出し、優子は玄関からの死角に潜み、亀一は銃を後ろ手に持ち、玄関を開けた。


「よお…。」


そこには、悔しい事に、年を取って、更に格好良く、いかしたオッさんになっている龍彦が、ニヤリと笑って立っていた。


「あ…。こんばんわ…。」


亀一はてっきり、龍介が世話をかけたと、龍彦がわざわざ礼を言いに来たのかと思ったのだが…。


「ヒッ…!な、なんですか!?」


龍彦が玄関を閉めるなり、出したのは日本刀…。

格好は超スタイリッシュな淡いグレーのイギリス的なスーツ。

ちょっとネクタイを緩めているのも、またかっこいい感じになっている。

ダニエル・クレイグの007の様に決まっているが、構えは一分の隙も無い、お侍さんそのもの…。


「てめえ…。しずかのおっぱい見たってか…。」


「す、すみません…。決してわざとでは…。」


「わざとであろうがなかろうが、知ったこっちゃねえんだよ!!!」


丸で瞬間移動の様に、ザッと移動し、斬りかかって来たので、亀一は避ける事も出来ず、真剣白刃取りである。

優子は呆気にとられていたが、慌てて、龍彦の手を抑えた。


「ええっと…、あの、真行寺さん、ごめんなさい…。亀一も龍君の危機で慌ててて…。」


ところが、龍彦の手は全く緩まない。


「お、お袋…、なんとかして…。」


「これは、なんともならないんじゃ…。大体あんた、ガッツリ見ちゃったって、それ、やっぱ、問題なんじゃないの…。」


「ちょっとおお!?今、それ言わなくたっていいだろ!?」


「ガッツリ見ただと…。てめえ、やっぱ命が惜しくはねえんだな…。」


「惜しいですう!俺には妻と子がああ!それに、6歳までは一緒に風呂入ってた仲じゃないですかあ!」


「てめえはもう、6歳の毛も生えそろってねえガキじゃねえだろうがあ!ガキまで作れる大人だろうがああああ!」


「ひいいいいい!!!ご勘弁下さいいいいい!!!」


「勘弁なるかあああああ!!!」


玄関がバタンと開いて、龍介としずかが立った。


「龍彦さん!?やめなさいってばああ!」


「お父さん!きいっちゃんには俺が蹴り入れといたって言っただろ!?」


「蹴りぐらいで済むかああああ!しずかのおっぱいは俺のおっぱいだあああああ!!!」


「龍彦さん!お願いだから、これ以上醜態を晒さないで!」


「お父さん!やめなさいって!」


2人がかりで日本刀から手を外そうとするが、流石この道20年以上、前線で活躍してきたスパイ。

その手は全く緩まない。

亀一の真剣白刃取りの手は震えだして来て、非常に危険な状態になっている。

しずかは諦めた様子で、手を離すと、龍介に目配せした。

龍介は頷くと、龍彦の背後に回り、首に腕を回すなり、龍彦を落とした。


「きいっちゃん、怪我無えかあ?」


「お、お陰様で…。」


「大変お騒がせ致しました。」


龍介としずかは、長岡家の人に深々と頭を下げると、龍介が龍彦を担ぎ上げ、しずかが日本刀を拾い、何事も無かったかの様に去って行った。












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