龍介から出た…
「龍…。これは何…。」
しずかがやっとという感じで聞くと、龍介は、真っ白になった顔で、腰にバスタオルを巻きながら答えた。
「いや…、くしゃみして、目え開けたら、あったんだよ…。」
「と…、兎も角…。えー、洗い終わったの…?」
「うん。」
「じゃ、出ておいで…。」
「こ…、これは…?」
龍介は、風呂場の床に転がる龍介を指差しながら聞いた。
そう。
なんと、龍介の身体が、そこにうつ伏せで転がっているのである。
ここに龍介は居るのに、身体だけ増えた感じだ。
しずかは、転がっている龍介を仰向けにしようと顔を覗き込み、虫を見た時並みの叫び声を上げた。
「ぎゃあああああ!!!目が無い!!!」
思わず見てしまった3人も叫ぶ。
「ぎゃああああ!!!気持ち悪いいいい~!!!」
そして触ったしずかは更に衝撃的な事を言った。
「こ、これ、中身も無いわよ。龍の外側だけ。皮と髪の毛だけね。」
中には空気でも入っているのか、見た目はちゃんと立体的だったが、試しにしずかがクルクルと巻いてみると、シーツの様に巻けてしまった。
自分の身体がシーツ状に巻かれてしまった龍介は、もう泣きそうである。
「これは…。きいっちゃんかしらね…。超Xファイルだわよ、龍…。」
「そ、そうだな…。」
そしてまたくしゃみで、龍介の皮が出た。
「うわあああ!!!嫌だ!なんか嫌だ!凄え嫌だ!!!」
気持ちは分かるので、しっかりしなさいとも言えず、しずかは2つ目の龍介の皮もグルグル巻きにして、2つとも抱えて、龍介に服を着て出て来る様に言うと、瑠璃を呼び、寅彦の部屋に入った。
「寅ちゃん…。龍からこんなもんが出るんだけど…。」
見た寅彦も、瑠璃も、勿論真っ青になって悲鳴を上げる。
「んぎゃあああああ~!!!何だよ、しずかちゃん!これ、龍の抜け殻じゃねえかああああ!!!」
「いやあああああ!!!目の無い龍なんて、怖すぎるうううう~!!!」
「あたしも、久々にくらっと来たわ…。ツー訳で、これはきいっちゃんかしらね…。」
「そうなんじゃねえかな…。うちの叔父さんに頼んだら、龍の命が風前の灯火に…。」
しずかがより青くなり、瑠璃が泣き叫ぶ。
「加来君、それだけは止めてえええ!!!」
「わ、分かってるから、きいっちゃん呼ぼう。」
「お願いします…。私は蜜柑のお仲間帰して来るわ…。」
寅彦は亀一にメールを打ちながら、呆然とグルグル巻きにされた龍介の抜け殻見ている瑠璃に言った。
「しずかちゃんが動揺するとこなんて、虫以外で見た事無えな…。これ置いてっちまうし…。」
「本とね…。だってこんな事って…。ああ!龍が1番ショック受けてるはず!私、行って来る!」
「だな。そうしとけ。」
龍介を探すと、龍介の部屋で1人ぽつんと、本棚の前にいつもの片膝を立て、片脚を伸ばした状態で、呆然と座っていた。
龍介の前には、またもや抜け殻が転がっている。
「龍、大丈夫…じゃないよね…。」
瑠璃が龍介の隣に座ると、龍介は涙目で瑠璃を見つめた。
「くしゃみだけでなく、咳でも出るらしい…。」
「咳でも?そうなんだ…。本当、なんだろうね…。今、加来君が、長岡君を呼んでくれてるからね…。」
「うん…。」
瑠璃が手を握ると、龍介は不安そうに握り返して来た。
ーこんな龍、初めて見るわ…。でも可愛い…。
「瑠璃…。」
「なあに?」
「あの布が原因だろうか。」
「あ…、落武者さんの頭の下にあった?」
「そう。いくら古くたって、手に取っただけで、粉になるなんてさあ…。なんか妙だよな…。」
「そうね…。私もそれは思ったわ…。」
龍介は瑠璃の頭の上に、自分の頭を乗せた。
ーあら!?なんか恋人同士みたーい!
多分、立派な恋人同士のはずだが、龍介のせいで、小学生のお友達付き合いから脱していないもんだから、こんな事でも嬉しい瑠璃。
ところが、なんだか様子がおかしい。
「瑠璃、ごめん…。だるくて動けなくなって来た…。」
「えっ!?大丈夫!?」
龍介の顔を見ると、さっきよりももっと顔色が悪くなっていた。
「凄え…腹減った気がする…。」
ーお腹が空いたくらいで、こんなになるって、なんか変ね…。この抜け殻が出てるせいなのかしら…。
そうは思いつつも、瑠璃は龍介その場に寝かせ、食事を取りに走った。
そして龍介は驚いた事に、4人前の食事を平らげると、眠ってしまった。
寝顔の顔色は悪く、しずかと寅彦、瑠璃に双子は、そのまま龍介の寝顔を心配そうに見つめ続けていた。
「ごめん!遅くなった!龍は!?」
亀一が来た。
取るものも取りあえず、蔵からそのまま急いで来てくれたらしく、一応形だけ整える為に着せられている軍服のままだ。
「きいっちゃん、ごめんね。有難う…。」
しずかの心配しきった顔を見て、亀一は真剣に言った。
「俺がなんとかするから、しずかちゃんまでそんな顔すんな…。
龍太郎さんも凄え心配して戻りたがったんだけど、今、どうしても手が離せない実験に入っちまっててさ…。
任されて来たから、絶対俺がなんとかする。だから、安心しとけ、しずかちゃん。」
「うん…。宜しくお願いします。」
「ん。」