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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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頭を探して…

翌日、心配する龍彦を仕事に行かせ、龍介は、蜜柑と苺と一緒に落ち武者を連れて、鸞の家の近くの雑木林に行った。

瑠璃も心配だからと来てくれている。


「龍、大体この辺りだわ、池のあった所って。」


瑠璃が指し示したのは、鬱蒼と草が生えた、若干ジメッとした感じの土の部分だった。


「ここ?」


落武者に聞くと、やっぱり。


ーガシャ。


頷いてんのか分かんないは、もう言わないが、ここと言われたら、掘り返すしかない。

しずかに防虫スプレーを、病気になりそうな位掛けられてきた4人だが、それでもこのヤブ蚊や虫の多さは閉口する。


「んじゃ掘るぞー。」


「にいに、後1、2分でカズと翔が来るから。その前に、はい、みんなガスマスク。あ、落武者さんはいいね、頭無いから。」


ーガシャ!!!ガシャ!!!ガシャ!!!


もう定番ギャグになりつつあるが、言われた通りガスマスクを被ると、蜜柑は、凄まじい噴煙を巻き起こし、薬品を噴霧した。

飛んでいた虫から隠れていた虫まで全部ボトボトと落ちて、この雑木林内の全ての虫が死滅。


「みかーん!これ本当に使って大丈夫な薬品かあああ!」


「にいにらしくもない。チマチマ退治なんかやってられっかい。あ、来た来た。」


翔と、眼鏡を掛けた、超天然パーマのモサモサ頭の少年がやって来た。


「すみません。遅れて。」


二人で謝るが、まさか来てくれるとは思って居なかったので、龍介は嬉しそうに礼を言った。


「あ、上杉一義です。宜しくお願いしますって、蜜柑!またこういう過激な事してえ!もう、こんな事もあろうかと持って来て良かったぜ。」


一義は、挨拶の途中で薬品を出し、噴霧し始めた。

どうも、蜜柑の撒いた強力な殺虫剤の中和剤の様だ。


「へえへえ。すんませんね。まぁ、いいじゃん。カズがこうして常にフォローに回ってくれるんだから。」


「誰が好きでフォローに回ってるかあ!お前があまりに過激だからだろうがあ!」


「うるさいわねえ、さっさと掘る。」


「かああああ!」


文句を言いながら、龍介と3人で掘り始めた。


「ごめんな、いつもご迷惑を…。」


「い、いえ、いいんです。親の因果が子に報いです。」


「は…。」


「いや。うちの父、しょっちゅう大事な物壊しては、加納さんに直して頂いたり、父仕様に改造して頂いているようなので…。」


「そ、それは、そうだったとしても、お前さんには関係無えだろ?いいんだよ、そんなの気にしなくて。」


「いえ、世の中、そんなもんかと。」


一人っ子の割に、えらい苦労人の様である。


蜜柑がドリルを作ると言ったのだが、一気に掘って、落武者の頭蓋骨を砕いてしまったら、元も子もない。

手動で男3人で掘り進み、苺は、地中をセンサーで写しだし、モニタリングしている。


「にいに、頭蓋骨っぽいのが、約2メートルの深さの所にあるよ。」


「2メートルで確かか?」


「確かです。他にカルシウム的な物質の塊は無い。」


「蜜柑、無駄だと思うが、一応聞く。ドリルは一回転でどんくらい掘るんだ。」


「無駄ってなんじゃい。まぁ、ざっと3メートルですな。」


蜜柑の事だから、その3メートルも一気に、凄まじい破壊力とスピードで掘り進む物なのだろうから、掘ったら、頭蓋骨など粉々になる。


「やっぱ役に立たねえじゃねえかよ。じゃ、頑張ろう。」


「はい。」


蜜柑が作るものは、昔から威力が桁違いに凄すぎる。

そこは龍太郎の血を受け継いでいると思うし、大したものだとは思うが、一般レベルでの使用には向かない。

そこを全く考えないのが、蜜柑である。


蜜柑が大型扇風機をかけてくれ、多少は涼しいものの、今日は晴れて凄まじい蒸し暑さだ。

1メートルも掘り進むと、汗だくで、汗が目にまで入る。


「一回休憩しよう。」


龍介が言うと、瑠璃が早速、しずかが持たせてくれた魔法瓶から、冷たいお茶を注いで分配。


「悪いねえ、君たちにまで、付き合わせて。」


龍介が言うと、二人共首を横に振ったが、特に翔は凄まじい勢いで否定した。


「お兄さんには、是非俺の事を買って頂き!」


次のセリフは大体の想像がつく。


「蜜柑との結婚を後押しして頂かないとお!」


やっぱりと苦笑しながら、龍介は、雑木林に入って来る人影に目をやった。

女の子だ。

花柄のワンピースを着て、長い髪をツインテールにしてと、小学校時代の瑠璃のようである。


「陣中見舞に来ましたあ。どうですかあ?」


なかなか可愛い女の子だ。


「にいに、花梨。」


蜜柑に紹介され、龍介に、若干緊張した面持ちで挨拶する花梨。


「三条花梨です。宜しくお願いします。」


「蜜柑の兄です。いつも蜜柑がお世話になってます。」


「はい。ほんとに。」


龍介は驚きながらも、その素直な返事に笑った。


「ごめんな、ほんとに。」


「あ!いや、とんでもないです!お互い様な部分もあります!」


言えば言う程墓穴を掘っていく様だ。

どんどん慌てて、真っ赤になったり、真っ青になったり、忙しい。

いたたまれなくなったのか、瑠璃に挨拶すると、全員にアイスを配って、蜜柑の隣に座った。


「ああ、もおやだあ。凄いかっこいいんだもん。余計な事しか言えなかったよお。」


「だから言ったじゃん。うちのにいには世界一かっこいいって。」


「いや、妹の欲目かと思ってさあ。ああ、ビックリ。素敵過ぎ。あれじゃ、翔じゃ役不足だわ。」


「でしょお?」


けちょんけちょんの翔、涙ながらに呟く。


「いいんだ。いつか俺の良さが分かって貰える日が…。」


しかし、一義がとどめのような事を言う。


「来るかもしれんし、一生来ないという事も。」


「お前はどうしてそう、後ろ向き思考なの!」


「お前が前向き過ぎるんだろう。人生そんな甘くはないぞ。」


龍介は呆気に取られた顔で、一義を見てしまった。


ー一義、その若さで一体何があったんだ!?


「しかし、ごめんな、苺さん。俺たちがボコボコにしたせいで、余計酷くなったと…。」


一義が謝ると、花梨も謝った。


「本当、ごめんなさい。私、そういう奴許せなくて、かなりやっちゃったから、女にやられたって事で、火に油を注ぐ形になって、余計いけなかったのかも…。ごめんね…。」


苺は笑顔で、そんな事ないよ、有難うと言っているが、瑠璃と龍介には、色々な衝撃が走りっぱなしである。

先ず、一義。

人生を斜めに達観しているようなその口ぶり、一体、何があった。

そして、花梨。

そんな可愛い瑠璃の様な顔で、男2人を差し置いて、ボコボコにしたとは何事か。


「流石蜜柑ちゃんのお仲間ね…。ある意味、龍のお仲間より、特異かもね…。」


「そ、そうだな…。」


でも、3人共、落合の虐めが余計酷くなった事を気にして、今回の事も手伝ってくれている様だから、いい子達には変わりない。


「ところで、その落ち武者って、どこに居るんだ。」


一義が言うと、花梨も頷いた。

どうも、2人には見えないらしい。


「そこだよ。」


蜜柑が教えたが、首を捻っている。


「まあ、結構凄え見た目だから、見えねえ方がいいよ。」


龍介が言うと、素直にハイと返事をしたが、一生懸命、指差された場所を見ている。


アイスを食べて、作業再開。


「あ、あの…。お兄さんの彼女さんですか…?」


花梨がスススッと瑠璃に寄って来て、聞いた。


「う、うん…。一応…。お嫁さんにって言ってくれてる…。」


聞いた途端、身悶えする花梨。


「いいなあああ!!!どうしたら、あんな素敵な人に好きになってもらえるんですかあああ!?

ああ、でも、瑠璃さん、可愛くて、綺麗だもんね…。優しい感じだし…。」


「花梨ちゃんも可愛いから大丈夫よ。

それに、私、どうして龍が私の事好きになってくれたのか、よく分からないの。」


「そうなんですか。」


「うん。私は好きだったけど…。」


すると、聞いていないと思っていた龍介が、穴を掘る手を休めずに言った。


「性格的に、女の嫌な所が無く、落ち着いてて、でも、いい部分で女らしく、優しい上、姿形が好みだから。」


花梨は瑠璃の顔を見て、仰け反ってしまった。


ー凄いにやけ方だあ…。原型をとどめてないぞおお…。


しかし、龍介の次のセリフで、悲しげな表情に一変する。


「それと、そのデコッパチ。」


「龍…、デコッパチやめて…。」


「なんで?可愛いのに。」


花梨はまじまじと、瑠璃のおでこを見つめ、失礼な事に、指を差して笑い出した。


「うははは!本当だあ!お見事なデコッパチですね!」


「だろお?ここまで綺麗に出っ張ってんのは、そう無えだろ?」


「うん!確かに凄いいいライン!」


「分かってんなあ、花梨ちゃん。気に入ったぜ。」


「やったあ!お兄さんに気に入られたあ!」


「ううう…。なんなの、この人達…。」


蜜柑が慰めているつもりなのか、瑠璃に言った。


「おでこ出っ張ってるのが、可愛い、大好きっていうのは、遺伝だから、仕方ないのよ、瑠璃たん。おかたんのおでこも、可愛い可愛いって、お父さんはしょっ中、撫で撫でしてるよ。」


「い…遺伝…。」


「そう、遺伝。」


モニターに集中して、しっかり仕事をしていた苺が叫んだ。


「にいに!そろそろ出る!」


「了解。じゃあ、こっからは慎重にスコップ横にして、削り取って行く感じで。」


「はい。」


そっと土を削り取って行くと、白っぽい物が見え出した。

焦らず慎重に削って行くと、待ちに待った頭蓋骨が出た。


「落ち武者さん!これか!?」


ーガシャ!!!ガシャ!!!


なんとなく、喜んでいる風で、頭蓋骨を龍介から受け取る。

一義と花梨には、頭蓋骨が浮かんでいるようにしか見えない。


落ち武者は、頭蓋骨を幸せそうに抱え、それを身体の上に乗せると、骨に肉がつき、ちゃんとした人の姿の幽霊になった。

龍介達も、穴から出て、落ち武者を見守る。


ーかたじけない…。


そう言った様に聞こえた後、落ち武者は笑顔とキラキラとした光を残して消えた。


「ああ、良かった、良かった。じゃあ、土戻すか…。」


そう言いながら、龍介は穴を覗き、頭蓋骨の下にあった、布切れを発見した。

戦国時代の布だと思うと、矢も盾もたまらず、日本史好きとして、思わず穴に戻って、それを手にした。

日頃、慎重な龍介には珍しい事だ。

ところが、布は、龍介が手に取ると同時に、粉状になって消えてしまった。


龍介は残念そうに、消えてしまった布切れが乗っていた掌を見つめている。


「にいに、残念だったねえ…。」


しかし、苺が声を掛けると、仕方なさそうな感じで笑った。


「まあね…。じゃ、戻そうか。」


穴も元に戻すと、しずかから、みんなでおいでというLINEが来たので、全員で加納家に戻った。

龍介は昼飯よりシャワーが浴びたいと言い、1人風呂場へ行った。

そして、シャワーを浴びている最中、くしゃみをした。

龍介はアレルギーでは無いが、別に珍しい事では無い。

龍介は物凄いスピードで、なんでもがあーっと泡立てて洗うので、泡が鼻に入ったりすると、くしゃみが出る事もよくあるからだ。

なのに、どういう訳か、龍介は叫んだ。


「なんだこれはあああああ~!!!」


全裸が予想されるので、女性が駆けつけるのは憚られ、翔と一義が走ったが、着いた途端に同様の叫び声を上げている。


「うわあああ!!何コレええええ!!!」


これは翔だ。


「どうしちゃったんですか!これはああああ!」


これは一義。


一体、何が起きたのか、やきもきしたしずかも駆けつけ、脱衣所のドアに手を掛けて叫んだ。


「どうしたの!?入るわよ!?」


そこには、流石のしずかも目を点にする物が転がっていた…。








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