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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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ガシャ!!!ガシャ!!!ガシャ!!!

基地の中に居た、ホログラムでは無い、首の無い落ち武者は、鎧をガシャガシャと言わせて、基地から出て来た。

龍介は思わず、3人を後ろ手に庇ったが、亡霊相手では自信が無い。

しかし、落ち武者は、龍介の1メートル手前でピタリと止まった。


「か、帰ろう…。」


念のため、龍介と翔は身構えながら、落ち武者の方を向いたまま後ろ足で林から出ようとしたが、そうすると、落ち武者もまた歩き出す。

しかし、止まると、矢張り、1メートル位の間合いを取って、止まる。


「取り敢えず、お前らだけ、うちに帰ってみな。」


「にいにどおすんの!?」


苺が聞くと、龍介は仕方無さそうに笑った。


「瑠璃に聞いてみるよ。」


龍介の予想通り、落ち武者は、3人の事は追い掛けず、龍介と1メートルの間合いを取ったまま立っている。


「なんだろうな…。なんか用があんのかな…。」


呟きながら、瑠璃にLINEを入れていると、鎧がガシャリと言った。


「ー頷いたのか…?首が無えから分かんねえな…。」


ーガシャ!!!ガシャ!!!ガシャ!!!


「ご、ごめん…。怒ってんの?」


ーガシャ!!!


「す…すんません…。ちょっと話が通じる人に連絡してみるから待ってて。」


ーガシャ…。


落ち武者は座った。

こっちの言う事は通じるらしい。

瑠璃にLINEを入れて、返事待ちをしていると、蜜柑達から話を聞いたらしい、しずかと龍彦が走って来た。

2人して、粗塩の入った袋を持っている。


「うおおおお!これは凄えな!こんな凄えの、塩で効く!?しずか!」


「いやあ、どうなんだろ!?取り敢えず、投げつけてみようか!?」


勇ましい事この上無いが、龍介は笑って止めた。


「ちょっと待ってみて。なんか取り憑こうとか、そういう感じでも、無さそうなんだ。瑠璃経由で、お袋さんに聞いて貰ってるから。」


「そうなの…。」


しずかと、龍彦は、龍介を挟むようにして隣に座って、必然的に、落ち武者と向かい合った。


「この辺でも、戦があったんですか?」


龍彦が聞いた。


ーガシャ。


しかし、龍彦は龍介と同じセリフを言ってしまう。


「頷いてんのかな。首無えから分かんねえな。」


ーガシャ!!!ガシャ!!!ガシャ!!!


「ええ!?怒ってんの!?」


「お父さん、それ言っちゃ駄目らしいぜ?俺も怒られた。」


「そっかあ…。ツー事は首関係なんだろうか、用事と言うのは…。」


ーガシャ。


今度は3人で肩を寄せ合って相談。


「今の、頷いたんだよな?しずか。」


「だと思うけど、龍、どう思う?」


「じゃねえかな、多分…。あ、瑠璃から返事来た。お袋さんと一緒に来てくれるって。」


「心強いけど、申し訳ないわね…。」


「ところで母さん、相原翔って…。」


「ああ、翔君。転校初日からお友達になったのよ。うちにもお仲間と一緒によく来るわよ。今までは、龍と時間帯が合わなかったのね。」


「そもそも蜜柑のお仲間というのは…?」


「ラッキーな事に、蜜柑が今回入ったクラスは、うち関係の子が他に3人居てね。翔君と、一義君と、花梨ちゃん。その3人と、龍達みたいな感じで、つるんでるの。」


「ー蜜柑はどこでもやってけるから、逆だったら良かったのになあ…。」


「そうなのよね…。今更変えてもらえないし…。」


「そんで?どんな関係の職業?」


「翔君ちは情報局。一義君のお父様は海自でさあ…。」


何故か笑い出すしずか。


「何?」


「いえね、上杉さんて仰る、龍太郎さんの同期なんだけど、すんごい声が大きいの。観艦式でマイクいらないのよ。海上で。」


「ーそら凄えな…。」


「戦艦大和マニアで、面白い人なんだけど、まあ、その人の長男。一人っ子だったかな。

花梨ちゃんのお父様は、図書館の人。柏木さんの下だって、爺ちゃんが言ってたわ。」


「ふーん…。じゃあ、翔の親父さんは、お父さん知ってる人?」


「ああ。知ってる。相原は奥さんが病気になったとかで、大分前に内勤申し出て、本部にずっと居る様だ。戻って早々、『是非蜜柑ちゃんの許嫁にうちの息子をおおおお!』って言われて、何事かと思った。」


「そりゃ驚くよな…。でも、奥さん病気なの?」


「鬱になっちまったらしいんだ。相原がいつ死ぬとも分からん危険な仕事している上、相原の赴任地はロシア。英語も通じねえし、日照時間も少ないって事で、鬱になる要素満載。かなり厳しい状態になっちまったらしい。

多いんだ。奥さん普通の家庭の人だとさ。

で、日本帰って来て、最近はすっかり良くなって、また生物の先生してるらしいぜ。」


「ああ、そうなんだ…。で、蜜柑を嫁にって、本気かね…。」


龍介の困惑は、しずかと同じものであるらしく、しずかも困惑しきった顔で言った。


「本とよね…。苺なら分かるけど、なんで蜜柑なんだか…。」


ところが、龍彦は擁護に入った。


「なんでだよ。蜜柑ちゃん、すっごく可愛いじゃないか。」


「顔はね?でも、中身は龍太郎さんと龍を足して割ってないのよ?相当つるんでるんだから、中身ももう分かってるんでしょうに、なんで蜜柑なんか…。奇特な子だわ…。」


「出会った瞬間に、これが俺の嫁だ!って思うのは間違いなく運命なんだ。

それ、貫いても失敗は無い。

俺もしずかの事、そう思ったもん。」


「あら。私、全然そんな事思わなかったけど。」


龍彦は悲しそうに目を伏せた。


「相変わらず淡白なんだから…。」


「まあまあ、お父さん。

じゃあ、蜜柑がいよいよもって、嫁の貰い手が無いとなったら、翔に頼むって事でいいじゃん。お父さん並みの執念があるなら安心だ。」


「龍介…、執念でなく、情熱と言え…。」


龍彦にジト目で睨まれて、どうしようかと笑って誤魔化している所に、瑠璃と、瑠璃の母が来た。


「うわあ、凄い物目の前にして、和気藹々と家族の会話してる!流石しずかさんち!」


瑠璃の母が笑いながら驚いている。


「亜樹子さん、すみません。お忙しい時間に…。」


「いいえん。うちはお夕飯早いし、瑠璃がいっつも助けて貰ってる龍介君の頼みですもの。来なきゃ女が廃るってもんです。

じゃ、早速…。」


落ち武者の前にしゃがんで、何か話している様子の瑠璃の母。

暫く会話した後、振り返った。


「なんか、首を探して、500年以上彷徨ってらっしゃるようよ。

そしたら、さっき、仲間がいっぱい見えたので、来てみたんだけど、仲間じゃなかったから、帰ろうと思ったら、なんだか頼りになりそうなのがいるなと思ったんですって。」


本物のお化けですら騙されるホログラムを作った苺は大したものだが、頼りになりそうなのとは…。


「ーそれって…。」


龍介が、恐る恐る自分を指差した。


「うん。龍介君。」


笑い出す龍彦としずか。


「凄えな、龍介。お化けにまで頼りにされんのか。」


しかし、瑠璃の母ー亜樹子の発言で、龍彦の笑いも止まる。


「そっちって、つまり、真行寺さんでもいいって。」


1人笑い転げるしずか。


「やーい!」


「やーいじゃねえだろっ。唐沢さん、その首、どこにあるとか目星は?」


龍彦が聞くと、亜樹子はまた落ち武者と話して、首を捻りながら答えた。


「なんか、それが、この方が仰る風景っていうのが、(いにしえ)の風景のようで、今の景色とは全然違うから良く分からないんですけど、森の中の洞穴っていうのかな…。

え?横穴式住居なんですか?

横穴式住居ですって。

その中で、襲われて、首を刎ねられて、首が…。

ちょっと。どこ吹っ飛んだんだか、ちゃんと言ってよ。

ええ?池に落ちた?

今、池なんか無いんだけどなあ、この近辺…。」


龍介は瑠璃を見た。


「手に入る最古の地図に無えかな?池の痕跡…。」


「あ、見てみるね。」


流石瑠璃。

しっかりパソコン持参で来ていた。


「あ…、これかな?鸞ちゃんのおうちの近くの雑木林に、江戸時代には、小さな池があったみたい。」


「じゃあ、落ち武者さん、明日そこに調べに行くから、今日はそこに居て貰っていい?あなた連れて帰ると、卒倒しちゃう男がいるんでね。」


それは勿論、寅彦だ。


ーガシャ。


すると、瑠璃の母が笑いながら言った。


「首無いから、頷いても分かんないわよお!あはははは!」


ーガシャ!!!ガシャ!!!ガシャ!!!


理解者だと思っていたであろう、亜樹子にまで言われ、落ち武者、なんとなく、泣いて暴れている様に見えなくもない。












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