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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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これが伝説の男のやり方だあ

落合達が自転車でやって来た。

龍介が手を挙げると、配置についていた子が、秘密基地の居住区の方の、元ポチの小屋の外灯を点ける。


「うわ!電気点いた!」


「なんか怖え~!」


騒ぐ他の子に、落合が若干震える声で意気がる。


「大丈夫だよ!ほら、お前先に行って、ドア開けんだよ!」


しかし、結局他の子を行かせるのだから、情けない。


ドアは、わざわざ音が出る様に細工されているし、蜘蛛の巣状の糸を一杯付けてある。

可愛いログハウス風の秘密基地はおどろおどろしい雰囲気になっているのだ。

落合に指図された子が恐る恐るドアを開けると、ギギギーっという音がした。

全員が入った所で、再び、龍介の合図により、2人が足音もなく駆け寄り、ドアを思い切りバタンと閉め、外から鍵を掛けた。


「うわあ!何!?」


「開かない!鍵が!」


中の様子は、室内に仕掛けた監視カメラで、外の全員が、大きなモニターに写して、林の中で見ている。


「木村、もう泣いてる!」


「落合も泣きかけてんじゃない!?」


その泣きかけている落合、半泣きになりながら、叫んだ。


「宝物取って、ドア壊して帰ればいいだろ!ほら!開けろよ!」


しかし、誰も開けない。

みんな既に泣いている。

仕方がないので、落合が部屋のど真ん中に置いてある、これも龍介が汚れた感じに加工した木の箱を、震える手で開ける。

龍介が蜜柑の頭を撫でると、蜜柑がニヤリと笑って、スイッチを押す。

すると、木の箱の中からは、蛇や蜘蛛、トカゲなどの、相当気持ちの悪い爬虫類達がうねうねと蠢き、出てきた。


「ぎゃああ~!!!助けてえええ~!誰かあ~!ママあああ~!」


12歳にもなって、ママと叫ぶ落合、相当恥ずかしい。

そして、間髪を容れず、今度は苺がスイッチを押すと、壁という壁から湧き出る様に、ゾンビのような血だらけの落ち武者の亡霊が…。

ホログラムだが、素晴らしい出来栄えと、薄暗くしてある室内のお陰で、本物にしか思えない。


「うわああ~!!!ママ!ママあ!助けて!ママあ!!!」


ママと叫びまくって、大声で喚き散らすいじめっ子達。

特に、落合の怯えようは凄まじく、あまりに情けない姿なので、見ている方は、大爆笑である。


「そろそろいいだろう。開けてやれ。」


龍介の指示で、また別の子が鍵を開け、ドアを開けると、5人は転がり出て来た。


そして、笑いながら仁王立ちしている、龍介とクラスメートを見て、やっと罠だったと気付いた様だ。


「お、お前らか!。タダで済むと思うなよ!?」


落合がそう言うと、怯える子が出たが、龍介はすかさず言った。


「それはどうかな。」


そう言って、マックブックの画面を落合に見せる。

さっきの入って来た時から今までの、落合達の醜態の一部始終が録画されている。


「お前が苺であろうが、誰であろうが、また悪さして虐めたら、この画像をばら撒く。それでもいいんならやれよ。」


「きょ…脅迫すんのかよ!高校生が小学生を!」


龍介はニヤリと笑って、別の書類を出した。


「脅迫でもなんでも無い。これは証拠ビデオだ。お前らの住居不法侵入罪のな。」


「は…。」


「これは、お前らが、うちの土地家屋に、勝手に侵入して騒ぎまくっていたという被害届だ。これとさっきの証拠ビデオを付けて、弁護士に警察に提出して貰う。それから、こっちも。」


もう1つの書類は、苺が落合に壊されたり、落書きされたりした私物の写真と、申請書の様な物の様だ。


「こっちは、うちの苺が被害を被った物品の証拠写真。これと一緒に、お前と親を相手取り、損害賠償並びに、慰謝料の請求の裁判を起こす。」


一応、事態の深刻さは理解出来たのか、落合は真っ青な顔で、何も言い返せない。


「パ…パパに…。」


「パパは今、お忙しい様だがな。」


そう言って、今度は、落合の家の前の監視カメラ映像をリアルタイムで見せる。

国税局査察部が来て、家の前はごった返していた。


「パパは脱税容疑で、取り調べ中の様だ。

さあ、どうする。パパも自業自得だが、パパの場合は、会社も潰れるだろうし、社員にも迷惑がかかる。家族も路頭に迷う。

そんな大変な時に、お前まで人様を、てめえの不満のはけ口にして虐め続けて、挙句の果てに、警察や裁判所にまで訴えられて、その上、こんな恥ずかしい動画までユーチューブで流されて、大変な状況の親に迷惑かけるのか。

それでもお前は、まだ人の事、虐めて楽しむのか。それとも、もうやめるか。どっちだ。」


落合はビービーと泣き出したが、龍介は追求の手を緩めない。

落合の腕をガシッと掴んで、目を見据えて言った。


「しっかりしろ!てめえは長男だろうが!こういう時にやるべき事やらんでどうすんだ!」


「や…やるべき事って…。」


「親父支えてやんだよ。その為には、先ず自分の事から片付けろ。」


「どうやって…。」


何にも自分で考えられないらしい。

考えつくのは虐めだけなのかもしれない。

龍介は情けなくなりつつ、怒っていた。


「だからっ。虐めっ子はやめるのか、やめねえのか!。」


「そ、それはやめます…。」


「なら、丁度、クラスメート全員いる。

お前が虐めた奴全員にきちんと謝れ。

但し、許してもらえるとは思うなよ。

お前がやった事は、たった一回謝った位で、許して貰える様な、可愛いいたずらじゃねえからな。

それでも、謝れ。申し訳ないと、心から思って謝れ。」


「ーはい…。」


落合は1人1人に頭を下げて、謝り始めた。

他の4人も龍介に言われ、一緒に謝るが、龍介が言った通り、皆、許した顔はしていない。

彼らは、先生の目を盗み、苺にした様な嫌がらせを始め、口でも酷い言葉で罵り蔑んで来た。

このクラスは、5年生からの持ち上がりだから、虐めた子の数も、相当数に登る。

苺は最後に謝られた。


「うん。いいよ。」


龍介と蜜柑が片眉を吊り上げた。


「苺!許しちゃダメでしょ!?」


「苺、本気か!」


「うん…。だって、反省してるみたいだし、謝ってくれたのに、許さないと、可哀想だから…。」


龍介は苺を自分の方に向かせ、目線を合わせた。


「苺、こいつがきっちり反省してるかどうかなんて、分からねえ。それに、俺が許して欲しくない。」


「にいにが…?」


「苺がこいつに虐められてるって知って、母さん達がどれだけ辛い悔しい思いしたと思う?

蜜柑だって、そうだ。

なんでうちの大事な苺が、こんな馬鹿に虐められなきゃなんねえんだ、こんな酷い目に遭わされなきゃなんねえんだって、凄え辛くて悔しかったんだ。

だから、蜜柑はこいつボコボコにしたんだ。

本当だったら、俺だって、こんな奴、全殺しにしてえよ。

お父さんも、爺ちゃんも父さんも、みんなそうなんだ。

だから、可哀想だからって、あっさり手打ちにして終わらせないでくれ。

苺がもうどうでもいいって思ってんなら兎も角、沢山傷付けられたのに、こんな簡単に許すって言わないでくれ。」


「ーそっか…。ごめんなさい…。じゃあ、正直に言うね。」


「そうしてくれ。」


苺はキッと落合を睨み付けて、ビシッと言い放った。


「私はあんたがした事、一生忘れない!あんたがそういう人だという事も忘れないから!」


謝られた他の子全員が頷いて、誰ともなく、苺と手を繋いだ。

それは意外と重い言葉だった。

落合がこの先、どんなに改心しようとも、苺や虐めた相手の子達は、落合の事は信用しないという事だ。

落合はその重さを分かっているのか、いないのか分からないが、神妙な面持ちで、項垂れた。

しかし、今日の龍介は仏心は出さない。


「お前が今後、誰かを虐めたら、それがどこの誰であろうとも、この動画をお前の所属校、勤め先にいつでもどこでも流すし、この被害届と、訴えを提出する。

俺の情報網舐めると、痛い目にあうぜ。

常に見てるからな。」


「はい…。」


謝りながらトボトボと帰って行く、落合を見て、他の子達は狂喜乱舞している。


「流石伝説の男だあ~!」


「かっこいい~!」


落合を負かしたと、未だ興奮冷めやらず、きゃあきゃあ言っている子供達は、その内、苺を囲んで、褒め称え始めた。

苺は、しずかの再婚で転校する前は友達がいたのだが、帰国したら、その友達が全員別のクラスだったのもあり、なかなか友達も出来なかった様だったが、この調子なら、なんとか上手くやっていけそうである。

取り敢えずほっとしながら、龍介は声を掛けた。


「ご苦労さん。多分、もう何もして来ねえとは思うけど、万が一、誰かが被害に遭ったら、直ぐに苺経由で知らせてくれ。

じゃ、おうちの人が心配するから、同じ方向同士で固まって帰る様に。1人で帰らない様にな。」


「はーい。有難うございました!」


そして残った、双子と、翔…。


「お兄さん、基地の件ですが。」


「使いてえの?」


「出来ましたら…。お使いでないのならと。」


「ああ…。ここはうちの土地だけど、この基地は一応、5人の持ち物なんでさ…。ちょっと相談さしてくれる?」


「はい。勿論です。」


「で、君は…。」


「はい。相原翔です。」


「いや、名前は珍しく覚えたんだけど、蜜柑の友達…?」


「いいえ!」


翔は力強く否定した。


「えっ!?違うのに、なんで!?」


「俺は蜜柑と結婚する事になっているんです!」


「はあ!?」


蜜柑が飛び上がって、翔の頭を平手打ちした。


「だから、そんな事、私は認めてないっつーの!」


「蜜柑が転校して来た時、俺の嫁が来たって思ったんだよ!」


「勝手に決めないでよ!あたしは、にいにみたいな人がいいの!」


「ーうっ…。」


翔は真っ青になって、龍介を見た。

これに勝てる訳が無い。

しかし、見られた龍介も真っ青である。

すると、苺が冷静に言った。


「蜜柑、にいにみたいな人が、世の中に他に居るわけないじゃん。居たとしたら、精々にいにの息子くらいでしょ。」


「んな事言ったって、苺だって、お父さんがいいとか言ってるじゃん!お父さんみたいな人だって多分居ないよ!?若い人だと、にいに。お年寄りならグランパ位じゃん!」


双子は龍太郎の事は、もとから、おとしゃんと呼び、龍彦の事は、お父さんと呼んでいる。


「うーん…。まあ、そうね…。」


真っ白になっている翔。

理想が高過ぎる妹達…。

龍介は、翔がこの年で、嫁とか言うのにも衝撃を受けていたが、なんでそれが蜜柑という事にも、蜜柑を知る兄としては些か疑問も感じ、そして、苺の好みが龍彦と、これまた年上過ぎる好みなのにも衝撃を受けて、実の所、パニックに陥っていた。

そして、こういう時、竜朗のあのクセが便利な事を思い出す。


ーき…聞かなかった事にしよう…。


龍介は秘密基地を振り返った。

未だホログラムが出ている。


「い、苺、ほら撤去して飯食いに帰ろうぜ。ホログラム、未だ出てるぞ。」


「え?切ったよ。私。」


「ーえ!?だって、ほら、アレ…。」


そして、双子と翔も秘密基地を振り返って、それを見た。


「えええええー!?」


要するに、基地には…。






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