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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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可愛い龍介くん

龍介にまりもからの相談事を話すと、翌日の土曜日、学校帰りに装備を整え、まりもの家に行く事になった。


勿論、まりもの心の声は大暴走。


「きゃあああ!加納君がうちに来るなんてえええー!

ジュースがいいかな?コーラかな?

寒いからあったかい物の方がいいかしら?

ココア?紅茶?大人っぽくコーヒー?」


他のメンバーは苦笑しているだけで済むが、龍介は心の声のターゲットだから、対処しなくてはならない。

眉間に皺を寄せながら、ドスの効いた声で答えた。


「コーヒーで結構だけど、取り敢えず仕事にかかる。キャサリンはどこだ。」


「あ、赤ちゃんになっちゃったら、引っこみ思案になっちゃって…。

そこに登ったきりなの。

キャサリンー?降りといでー?」


キャサリンは猫用タワーの1番上の、穴の中に居るらしい。

龍介がそっと手を伸ばした。

猫用タワーは2メートルほどなので、176センチの龍介が手を伸ばせば届く。


「キャサリン。何もしないからおいで。大丈夫だよ。」


キャサリンが顔をのぞかせた。

龍介の手を嗅ぎ、龍介の手の上に乗ったので、そっと抱きかかえながら降ろす。


「わあ、可愛いね。」


女の子達がそっと覗き込むと、龍介の脇に顔を突っ込んだ。


「羨まし過ぎるわよ!キャサリン!」


勿論、これはまりもの声である。


龍介はキャサリンが安心するように、まりもから借りた膝掛けでキャサリンを包んで抱っこすると、キャサリンにだか、まりもにだか分からない口調で聞いた。


「夜はずっとこの家ん中に居んのか?」


やけに優しい口調なので、多分キャサリンに話しかけているのだろうが、まりもが答えるしかない。


「そこに、猫用ドアがあるでしょう?あそこから、遊びに出てるみたい。」


まりもの家は、京急線青物横丁駅から少し歩いた住宅街にある一軒家だ。

一階のリビングの大きな窓の横に小さな扉が確かにある。


「キャサリンはここを通って、どこ行ってんのかな…。

散歩中のどこかでこんな小さくなっちまったんだろ?

道案内してくれないか?」


キャサリンは、にゃーんと小さく返事をした。


「いい子だ。」


龍介が頭を撫でると、嬉しそう。


「いいなああああ!キャサリン!」


龍介は情けなさそうな顔をして、亀一達を促し、玄関に行き、キャサリンを放した。

キャサリンは龍介が後ろからちゃんと付いて来てくれているかどうか確認しつつ、住宅街を通り、駅の方向へ歩きつつ、途中のちょっと小汚い家の、庭なんだか、畑なんだか、単に手入れしていないんだかという敷地の前でピタリと止まった。


龍介はしゃがみ込み、キャサリンに聞いた。


「ここで小さくなっちまったのか?」


「にゃーん…。」


龍介はそのままその敷地を見た。

猫が好みそうな、草で出来たトンネルの様な物がある。


「ここに入った?」


「にゃーん。」


どうもそうらしい。

龍介はそのまま四つん這いになり、その草で出来た小さなトンネルを覗き込んだ。


「なんかあったか?龍。」


亀一が声かけると、そのまま答えた。


「マシン的なもんは無えな。でも真冬なのに、小さな白い花が凄えいっぱい咲いてる。すんげえ綺麗。」


「気温が違うとか?」


「いや、そんな変わんねえ…んん…なんか…。」


「どした、龍?出て来い?」


龍介はゆっくり出て来たが、若干顔色が悪く見えた。


「どうかした?龍…。」


瑠璃が心配そうに聞くと、めまいを起こし、その場にうずくまった。


「龍!?」


みんなで心配そうに囲み、龍介に触れようとした時だった。


「え…。」


龍介がどんどん縮んで行く。


「いやああ!龍!?龍!?」


瑠璃が叫び、全員で叫ぶが、止まらない。

そして、龍介は5歳児位の大きさでやっと止まった。

紺色のアバクロの裏ボアジャケットは脱げて、ジーンズも脱げてしまい、ダボダボの濃グレーのラグジャーの中に、小さな可愛い龍介が居る。


「なんだこりわあ!」


龍介が叫んだ。

だが、声は今の低めのいい声では無く、可愛い子供の声の上、上手く喋れていないもんだから…。


「可愛いいいいい〜!!!」


瑠璃は思わず、この状況下で全てを忘れて、龍介を抱きしめて頬ずり。


寅彦は言葉を失い、亀一は呆然とし、まりもに至っては訳の分からない事を叫びまくっている中、鸞1人が冷静に言った。


「確かにものすんごく可愛いけど、これは異常事態だわ。

キャサリンと同じ事が、龍介君の身に起きたと言って間違い無さそうね。

龍介君はこうなる前、白い花がいっぱい咲いてると言ってたわ。

他にあの中に変わった物は無かった?」


小さい龍介が一生懸命答える。


「無かった!ちろいはにゃだけっ!」


「ちろいはにゃ?」


鸞の冷静さに助けられて、我に返った亀一と寅彦が笑い出した。


「多分、白い花だ、鸞ちゃん。この頃の龍は、何言ってんだか、しずかちゃんと先生しか分からなくてさ。」


ムッとする小さい龍介だが、寸詰まった可愛い顔で亀一を睨み付けても、いつもの迫力は全く無く、可愛いだけである。

しかも、瑠璃に抱っこされ、威厳も全く無い。

鸞にもクスッと笑われ、今度はお口がへの字で、尚更可愛い。

もう、瑠璃は何もかも忘れて可愛いを繰り返しながら、抱きしめる事しかしていない。

小さい龍介は、組長の意地で必死に言った。


「きいっちゃ!ちろいはにゃをちらべろっ!くれぐれも、お前らはちゅいこまねえように注意!とりゃはグリャンパにれんりゃく!この家のちとにはなちちゅけてもりゃえ!ちょんで、このくちゃのトンネリュはふうちゃ!その上で、防護服着てちゃぎょうちろ!分かったか!?」


亀一と寅彦はゲラゲラ笑いながら頷いたが、鸞は首を捻りまくって、ズバリと言った。


「いいえ。何言ってるんだか、全然分からないわ。可愛いけど。」


寅彦が笑いすぎて目に涙を浮かべながら通訳。


「真行寺グランパに報告して、この家の人に話をつけて貰い、この草のトンネルを封鎖して、その上で、きいっちゃんは防護服着て、白い花を調べろと。要約すると、そんな感じ。」


「成る程。龍介君、悪いけど、司令官が何言ってんだか分からないんじゃ話にならないわ。

私が引き継ぐから、あなたはそこで瑠璃ちゃんに抱っこしてもらって、暖めて貰っていなさい。寅、この家の人の事調べてくれる?」


そして、可愛い龍介がムッとしている中、鸞副組長の下、捜査が始まった。



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