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4 魔法

 おはようございます。


 私は白崎一家の長女、遥と申します。なんとか一歳になりました!


 しかし、持病はさっそく発症しました。

 この病気は走ると喘息、跳ぶと吐き気、長時間話すと眩暈、寝ていると血、というより七色の結晶が涙のように目から出てきます。

 病弱にもほどがあります。これではまともに生活することすら困難です。


 光にかざすと鮮やかな色が反射して美しい結晶。

 一儲けできそうですがその前に苦しくてベッドから出ることが出来ませんので売るもなにもできません。

 ずっとすぐ隣にある書庫で寝っ転がって自分の病気について調べています。


 王都にある大きな病院でも検診を受けましたが異常はあるがどこかは分からないという診断でした。

 この世界には、現代の日本のように進んだ医学はないのだ。どこもさじを投げるこの病気は家で自然治癒するしかないのです。


 ただ、どこの病院でも言われたことは私の命は長くないこと。だから、自分の部屋を書庫の隣に移してもらい、役に立たない医者を頼らずに自分で調べるという結論に至った。

 白崎の歴史をもつだけあって膨大な量の書物があります。


 さて、生まれたときから両親と思っていた金髪の美男美女ですが、白崎の家に仕える使用人の方であったそうです。

 【白】崎なのに金髪なのはおかしいと思っていたのですが、私の両親はとてもまんまると肥えていて贅沢な暮らしをしていました。

 それでいいのか、両親よ! 私は彼らを見て血の気が引くほどでした。 


 さきほど話した白崎という名字ですがこのゲームでは各色で名字が構成されていまして、攻略対象は皆名字に色が入っています。

 他にも赤とか青とかあります。また、それに伴って髪の色と瞳の色が決まるのです。

 例えば白崎の私は天使の羽のように美しい白髪に白い瞳です。


 白崎の名を持つ者なのでお父様も白髪です。

 若くして白髪なのは少し可哀想な気もするのですが、まんまるとしたお姿を見る限りでは外見などを気にしていなさそうです。

 私としては両親によってもたらされる私自身の世間体が気になるのですがね。

 更に彼らは私のお見舞いに全く来てくれないのですから私がグレるのも分かる気がします。


 本のインクの匂いが充満しているここは落ち着く。

 家の造りが西洋風なのもあるのか、吹き抜けの上ではステンドグラスが美しい色彩を放って本を七色に照らす。

 照らされた本は色と文とが混じり合って新たな物語を築いている。


「あー……」


 なるほど。この構図が展開されているのか。

 ではこのリミットを外した式を逆算して、組み合わせることによってこうなるはず……医学書を探していたはずが、また、つい脱線して魔法学書に手を伸ばしてしまう。

 本を目の前に広げて寝ころびながらに唸り込む赤ん坊。それは私です。

 小さな体は大きな書庫には似合わないだろう。


 火と水に手伝ってもらって書庫にいる。

 彼らは隣の部屋に行くことすら困難な私を運んでいってくれるので大変助かっている。

 更に私の具合を常に心配して一緒に医学書を読んでくれているのだ。

 そのうち何かプレゼントでもしたいと思う、生きていれればの話ですが、なんて。


 家だけでなく、書庫も金持ちだからか尋常ではなく広い。

 二階まであるので読破は五年くらいかけてやっとできるくらいだと思う。今はとにかく医学書を全部読破しなければいけない。


 日本とは言葉も違うので文字を読むことは難しく思えたのですが、火と水が丁寧に教えてくれたおかげで文字を読むだけならできるようになった。

 しかし、火の教え方は大雑把過ぎて何を言っているのか分かりませんでした。やっぱり頼れる姉御の水さまさまですね。


 そして何より、驚くほどに書庫にいることが人に見つかっていない。

 使用人も誰も気にしないのだ。

 つくづく親の愛を受けていないこの娘が哀れになったし、蝶よ花よされなくても傲慢に育つことに納得できた。

 愛情が欠落しているのです。誰か愛を。


 ……寂しくはないんですよ。私はもう三十にもなる大人なのですから。そんな思いも虚しく赤ん坊は正直で目に見えて落ち込んだ。


 項垂れるとフローリングにほどよく埃がたまっていたので心地よさが増した。

 この家は使用人が一生懸命掃除するので他の部屋は綺麗すぎるのだ。でも、潔癖なのはきっと私の病弱のせいだろう。

 悪化すると困るから、そんな愛を感じて心が温かくなった。


「うー……」

(姫様! 私たちがいるのでそんなお顔なさらないでちょうだい。きっと生きれますよ。姫様には笑顔が一番似合いますわ)

(そーだぜ。姫笑え笑えー! 死ぬときは一緒だから安心しろよー)


 自慢げに言う精霊。二匹は私を励まそうとしてくれているようだ。

 精霊たちの優しさに堪えていた涙腺が崩壊する。書庫へ連れて行くだけでなく、こんなことまでしてくれる。

 

 私が折れそうなとき、落ち込んでいるときには励まして背中を押してくれる。

 たかが魔力を食べさせてあげるだけなのに献身的過ぎる彼ら。この二匹がいてくれたからこそ今の白崎遥がいる。

 私は彼らに白い歯を見せると彼らも嬉しそうに笑った。


 生きるためにも、もう一度お勉強に戻りますか。


「あー」

(次はあの本ね! 分かったわ)


 何故か言っていることが通じるので精霊の凄さを実感して、本をまた目の前に広げてもらう。


 その時二階から叫び声が聞こえた。


(なぁ! これ姫様の症状にそっくりなんだけど、あってるか)


 そう叫んで、二階から降りてくる火。

 私が歓喜する前に水が驚くほどの速さで火の持っていた黒い本を奪った。

 ページを見て、私にも分かるようにか内容を朗読し始めた。


(魔力発作病、別名無限魔力放出病。魔力発作病は稀に魔力を自身の器よりも持ちすぎた者がかかる病。今までの記録では三人ほどしかその症状をもったものはいなかった。三人は全員若くして亡くなっている。症状は、目から結晶が出たり、基本的な運動能力が異常なほど低下……これね、間違いないわ。よくやったわね、火)

(だろだろー俺を褒めろ)

(はい、続きね)

(スルー!? ひどくね)

「あー」


 興味津々で水に顔を近づけながら言う火。

 彼は私が助かる方法かもしれないものを見つけて、興奮しているのか声色もいつもより高く、早い。

 水は悲しそうに一息ついてから言った。


(対処法としては、器をその魔力に合わせて広げること。しかしこれには精神力と時間が必要。未だに成し遂げられたものはいない……)

(そーか)


 二人はその答えを聞いて俯いた。深刻な話題だけど、空気は読まない。

 私は並大抵の赤ん坊じゃないんですよ、だから心配しなくても大丈夫です。


「あー!」


 沈黙をやぶったのは勿論私だ。

(そ、そうよね。私たちが諦めちゃ駄目よね! 器を広げる方法なら天上にあったはずよ)

(あ、そうだな。あったな! 俺探してくる)

(私も着いていくわ!)


 そうして二人は慌ただしくステンドグラスの中に吸い込まれていった。

 二人とも天上という精霊たちの住処に戻ったので、私は一人になった。

 天上との扉が近くにあったことに驚いたが、精霊は天上への扉を見せないはずだが見せてしまうほど急いでいた様子に微笑ましくなったりもした。

 でも、一人は危険で、発作が出たとき合図を送れないのだ。今はとりあえず、発作がでないことを祈ります。



(姫様、ただいま戻りましたわ)

 ふいに部屋が涼しくなったので水だけが帰ってきたようだ。

 いつもは火が暑苦しいので適温なのだが水だけになると寒い。逆に火だけになると暑い。

 つまり、彼らは二人で一人、ニコイチなのだ。


「うー?」

(火はもうすぐ帰ってきますわ……ほら)

(わりぃ、遅くなった。って寒!)


 火は寒そうに二の腕を擦った。更に水の冷たい視線というダブルコンボだ。これは寒い。

 でも、私も寒かったので火が来てくれたことがありがたかった。彼は手に持っていた古びた本を嬉しそうにちらつかせる。多分あれが助ける方法なんだろう。


(それは?)

(姫様この言葉使えるのですね!? いえ、その前にこの本は魔導書(グリモア)と呼ばれる魔法付与書です)


 知らぬ間に覚えれたこの言葉、赤ん坊の記憶力に脱帽した。しかし、疑問は絶えない。


(魔導書?)

(ええ。本来使えないはずの知恵を授かることができる魔導書です)


 淡々と答える水。後ろで火が説明したそうなので可哀想でもある。

 しかし、火の説明では分からないだろうから、あえて口にしない。

 なるほど。魔導書ってアニメでよく出てくるあの魔導書のことなんだ。

 私は早く早くとせかしたが、水はその本を手放さずに言った。火は空気と化した。


(……姫様。魔導書はこの世界でいう禁忌であり過ちです。勧めた私達が悪いのですが、見合う精神力がなければ心が壊れてしまいます。やめるのならやめてもいいですよ)


 そんなこと言われれば正直、怖い。体も震えている。

 でも、一度死んだこの身、早死にするくらいならグリモアだろうがなんだろうが魂なんてくれてやる! やらずに後悔するなんて絶対嫌だ!


(やるよ)

(左様ですか……神のご加護がある姫様ならきっと大丈夫ですわ。私達は)

(信じてるからな!)


 ここぞとばかりに叫んだ火。空気を脱出できて嬉しそうだ。そんな様子を見て、私は静かに微笑んだ。

そして私は手渡された魔導書を開いたー


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