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3 生まれの朝

6月13日 文字数増量

6月21日 病弱設定追加

「……ー……」


「ー……かー……」



 瞼をゆっくりと開き、ぼやけた視界に入るのは美しく垂れる金の髪。

 豪華なシャンデリアの眩い光が金色の髪に反射し繊細な輝きを放っている。視線を左に向けると、開かれた窓の風にカーテンが揺れる。

 そして、カーテンの隙間から覗く美しい満月が私を見て微笑んでいた。


 まばたきを何度かしてみるが、視界はあんまり良くない……。ぼやけて特徴的な色しか見えないのだ。

 シャンデリア等西洋風の建物であることは分かる。明らかに私の知っている日本ではない。さっきの暗闇の世界でもない。

 ただ目の前に見えるのは輝く金髪。

 では、ここは? 答えは否、出るはずもなかった。だから、視界が良くなるまで待ってみようと思う。


 この部屋は西洋風だが甘ったるい匂いが漂っている。

 甘い匂いに癒されながら幼い頭をこれでもかというほど働かせると、ここまでくる経緯を思い出した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「オルジィさん、行きたい場所決まりました!」

『へぇ……なるほどね、後悔しないならそれでいいけど。覚悟はいいかい?』

「うん!」

『いい返事だね。じゃあ、飛ばすよ。到達地:幸学園、対象:迷子の魂、この小さな魂に神の加護を付与する! ……いってらっしゃい、元気でな』


 その後に聞いたのは美しい鈴の音。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 あぁ……こうもなると結論は一つしかない。


 私は転生したのだ。どうりで体が思うように動かないはずだ。適応するまでに時間が掛かるのかもしれない。

 魂としてさっきまで過ごしていて、名前と同じで肉体の動かし方も忘れてしまったのでしょう。我慢、我慢。


 さて、さっきも言ったようにオルジィさんに私が望んだのは【幸学園~君と切ない運命~】の世界に行くこと。

 ここにくれば嫁に会える上に、生であのお声が聞けると思うと心は躍りまくり。 この嬉しさを共有する仲間がこの世界にいないことが私の一番大きな悩みでしたが。


 今世の私は、誰でどのくらいの大きさなのであろうか。声だけでも知りたい。

 そんな思いを秘めてわくわくと胸を弾まながら声を発することにした。今世の私の声はハスキーなのかはたまた可愛らしい声なのか。

 前世では何の特徴もなかった声にうんざりとしていたので尚更胸が弾む。


「あー……うー」


 私の耳に聞こえたのは呻くような幼い声。口がかたかたと小刻みに震える。

 あれ!? 舌が回らないし口も動かないよ! 確かに可愛い声が良かったから…いやいやそうじゃなくて。


「うーあ」


 呻き声とはまた違った絞り出すような声。

 もう一度発音するが、そう。世に言う赤ちゃん言葉というものしか発せられない。

 どうやら私は赤ちゃんとして転生してしまったみたいです。オルジィさんには二歳くらい、とお願いしたのですが私を無駄死させたようなおっちょこちょいな神様に期待するのではありませんでした。

 このままでは私の立ち位置が誰で、場合によっての死亡フラグの対処法を見つけられないではないですか!

 小さなゆりかごでじたばたと手を動かす。


「あー」


 私はまだ現実を受け入れられずずっと喋っていますが進展しません。

 それどころか、私の両親であろう美しい金の髪の美男美女はお互い見つめ合って笑っています。

 自分より若そうなそれも二次元の美男美女が両親であることには違和感を覚えます。


 小鳥のような声で彼女は語り掛ける。これは比喩ではない。

 本当に何を言っているのか分からないから本当に小鳥の声にしか聞こえないのだ。だから、彼らはずっと私に喋りかけてはくれるのですが私には何を言っているのかさっぱり分かりません。

 しかし、二歳から転生しなくて良かったとほっ、としていたりもします。言葉も分からないまま二歳なのは流石に心が痛みます。

 今更ながらオルジィのドジに感謝です。まずは言葉の習得が優先されますね。


 窓を見ると満月が上を見ろと指示しているように感じました。

 おかしいですね、この世界にきて副作用があるのでしょうか。私は満月の指示をきかずに考え込んでいた。

 痺れを切らしたかのように上から何か聞こえる。


(いないなーい、ばぁ! 笑え笑えー!)

(可愛いものね、赤子は。こら火、貴方が笑え何て言ったらこの子泣いちゃうでしょ)


 ふと、考え込んでいた私の頭上から聞こえてきた声。はっきりとした発音。

 日本語に近いこの言葉なら私にも分かるので、目線だけあげることにした。日本語への親近感を覚えたので。口は動かないけど…。


(あれ、こいつこっち見てるぜ! 水!)

(あら? ほんとね)


 喋っているのは青い浮遊物と赤い浮遊物。彼らは蛍の光が赤、青に点滅しているような光を放っている。

 眩しさだけなら浮遊物の頭上にあるシャンデリアにも負けないかもしれない。ふわふわと漂う妖精のようなものは私の視線に気が付くと騒ぎ始めた。

 私に赤い浮遊物、とりあえず赤とでも呼ぼう。赤は私に話しかけた。


(お前、俺が見えるのかー?)

「あー」

 

 呻き声を赤にかえす。

 即答だ。するとまた赤と青は驚いて嬉しそうに笑った。

 何故笑ったのか分からない私はきょとんとするしかない。


(やっと見つけたわね、私達の月に祝福されし姫様)

(月の姫!)


 状況が分からない。立ち位置も分からない。この精霊? が見えるってことは特殊な人材ってことだよね。…あぁ。そうだ、思い出した!


 この世界で精霊が見えるのはヒロインと…本編が始まる前に息子以外全員死ぬ白崎一家だけということを。オープニングの時にいたようないなかったような気もする。


 この由緒正しき白崎一家は精霊が見え、由緒正しいのに、両親は強欲であった。

 領地の統括は両親に代わって執事がやっていたので、当然ながら領地統括は上手かったのだが病弱な娘がヒステリックかつ傲慢に育ち何故か息子を除いた一家全員で死ぬ。

 息子は勿論攻略対象だ。ヒロインには親がいないはずなので消去法でいくと、私は白崎一家の娘であろう。

 名前は私の弟の攻略対象が昔話をしていた程度なのでなかったはずだ。完コンプした私が言うと説得力が伊達ではない。


 にしても、あのつんけんした傲慢で病弱なお姫様なのか。

 第三者から見ても酷い姉だった。健康な弟を羨み、その魔力をぶつける。

 しかもたちが悪いのは物理的ではなく、心理的に追い詰めるのが彼女にとっての快楽なのだ。

 こんな私は何歳でもう一度、一生を終えるのだろうか。


 なかなか鬼畜なところに転生させてくれた神様に文句を言いたかった。

 傲慢で恨まれることと、更にいつ死ぬか分からない病弱設定がつくのだから、死亡フラグは間違いなしで確定だ。

 ……こうなったら蝶よ花よ、ではなくて今の精霊が見えることを駆使して一家壊滅を防がなければ! まずは持病をなんとかしなければなりませんが。 


 強い意志を瞳に込めて力の入らない両手を握った。

 私の前にいるのはふわふわと飛ぶ赤と青、精霊となると火と水か。両親には見えていないようです。

 この世界はすべての者を照らす光、暗黒の底に貶める闇、癒しの水、焼き尽くす火、構築する地の五つの属性がある。

 私は火と水の精霊が見えることからこの二つの属性を持っていることは確かであろう。

 傲慢病弱姫もなかなかスペックが高いみたいです。


(姫様、雰囲気が変わられましたね)

(俺たち姫様が死ぬまでずっと一緒にいてやるからな!)


「あー」


 私が返事をすると大きく回転して粉を振りかける二匹。

 とても愛らしくて前世であれば飼いたいほどです。精霊が私の頬に口づけた。こうやって精霊は人の魔力を食らうので今のうちは大人しくあげるとしましょう。


 この二匹が仮の姿が解ける時はどんな風になるのでしょうか。それまで生きていれば嬉しいのですが。

 思い出したように私は笑って金髪の両親にも愛想をふっておきました。

 二人も嬉しそうです。良かった良かった。


 今は、精霊と話すためにも言葉が喋られるようになりたいです。

 だから病弱ではなく、健全に育つためにも泣いてお寝んねの繰り返し。

 決して私がぐうたらしたいとかいう訳ではないんです。赤子はそういう仕組みなのですよ!

今日もお腹が減ったので泣きたいと思います。


「おんぎゃあああああああ!!」

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