いよいよオープンですよ!
今回は、饕餮さま作【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々】の十八話、鏡野 ゆうさま作【七海の商店街観察日誌 in 希望が丘駅前商店街】の七海の商店街観察日誌②、ふたつのお話の璃青視点をお送りします。あの時璃青は、こんな風に感じておりました……。
※それぞれの作者お二方には了承を得ております。ご協力ありがとうございます!
四月、大安吉日に、雑貨屋【Blue Mallow】、無事オープン。叔母にも昨夜、連絡済み。
さぁ、今日から店主として頑張りますよ!
オープンして間もなく、【居酒屋とうてつ】の女将さん、籐子さんが早速お買い物に来て下さった。店内に並んだ和食器をひとしきり眺めていたと思ったら、どうやらいくつかお気に召して頂いたようだ。
「璃青さん、こんにちは」
「あ、籐子さん。いらっしゃいませ!」
「今日は璃青さんにお願いがあって来たの」
「お願い、ですか?」
「この食器を各百個欲しいの。最低でも五十は欲しいんだけど」
その言葉に耳を疑い、うっかり「えぇっ?!」なんて叫んでしまった。いきなり商売人失格だわ。冷静にならなくちゃ。
「うちとしては嬉しいんですけど、ただ、今は在庫が無くて……」
急ぎではないと仰ったけれど慌てて取引先に在庫を確認すると、なんとか近日中に確保できることがわかった。
「籐子さん、先方に在庫があるそうなので、すぐにご用意出来ますよ」
「あら、助かるわ!璃青さん、ありがとう」
「どう致しまして」
「食器の分は、とうてつ名義で請求書をちょうだいね。あと、これは今買って帰るわ」
「わかりました!お買い上げありがとうございます。」
彼女が本日お買い上げの簪は、その場で挿していかれると言うので値札を外してお渡しした。
オープン早々の大口の注文に手も足も震えてしまいそうだけれど、気を引き締めて頑張らなくちゃ。
その翌日、今度は可愛らしいお客様がやってきた。引っ越してきて間もない頃に顔見知りになった、女子高生の七海ちゃん。開店してからは初めて来てくれたんだけど、どうやら雑貨よりも石の方に目を惹かれるのかな。
「これでアクセサリーとか、作ってもらえるんですか?」
彼女は天然石を色々見比べたあと、わたしの元へやってきた。
「少しお時間は頂きますけどお作りしますよ。誰かにプレゼントですか?」
「最近、残業続きのお父さんの誕生日が近いんでネクタイピンをって思ってるんですけど、石をね、健康運にしたらよいのか魔除けにしたら良いのか迷っちゃって……」
うーん。デザインによってはふたつの石を使ってもいいんだけど、それだと学生さんのお財布に優しいお値段ではなくなってしまうのよね。それに、この組み合わせだと、少ーし石のバランスが気になるのよねぇ……。
「二つって無理ですか?あ、バイトとお年玉をためているので少しぐらい高くなっても大丈夫です」
「そうですねえ。たぶん3千円ぐらいからで作れると思いますよ?ただ、健康と魔除けの両方となると石が二つになってしまってバランスが悪いかなって」
なるべくご希望には添いたいんだけどね。
「うーんと、じゃあ魔除けは次の誕生日ってことにして健康重視でっ」
「んー……そうですね、だったらガーネットとかどうでしょう。そんなに色も派手派手しくないし、タイピンのワンポイントとして使えると思いますよ。あと、できたらお父さんの顔を拝見したいです。どんな感じのデザインが似合うかとかあるので」
「ちょっと待ってくださいね、多分、携帯に一枚ぐらい入ってる筈なんだ」
普通はあまり写真とか見せて貰ったりなんてしないと思うんだけど、わたしも素人のようなものだから、許してね。
「お父さん、こんな感じなんですけど」
と、見せられたのは、人の良さそうなマイホームパパ、という風情の男性。
「優しそうなお父さんですね」
「いつもお母さんのお尻に敷かれて喜んでるちょっと変なお父さんですよ」
「そうなんですか?」
「ラブラブなのは良いことなんだけど、お母さんはいわゆるツンデレ嫁みたいな感じで、そんなお母さんのお尻の下でニヨニヨしてるんです」
それを聞いて、ぷっ、と吹き出しそうになるのを必死で堪えた。“仕事はちゃんとできる人なんです”と付け加えていたけれど、この子、面白すぎる!
「よく女の人が元気な家は栄えるって言いますから。良いことなんだと思いますよ?」
「鏡野家が栄えてもあまり大したことなさそうですけどね」
や、やめてー!
受け答えにいちいち吹き出しそうで、声が震える。涙目になっちゃう。
よし、ここはひとつ一旦ここから離脱しよう。そうしよう。
「ちょっと石を探してきますね。家の在庫に手ごろなガーネットが残っていたと思うので」
「お願いします」
く………っ。
肩が震えてないといいけど。
あ、丁度いいのがあった。うん、こんなのもいいかも。さて、また戻ったら吹き出さないように気をつけよう。
「実はこれ、他のアクセサリーを作っていて残った石なんですけど、どちらかと言うと渋い感じの赤だからネクタイピンにしてもそんなに変じゃないと思うんですよ、どうでしょう? 余り物で申し訳ないんですけど」
「綺麗な石ですねー、これでお願いしても良いですか?」
「分かりました。じゃあデザイン、ちょっと一緒に考えてみましょうか」
「え?一緒に?」
「私が幾つか候補を出すのでそこから選んでもらうような感じで。そうすればぐっと手作り感が増すでしょう?」
「なるほどー」
会話をしながら、テーブルの上に自由帳にしているスケッチブックを開き、簡単にデザインを描き出してみる。七海ちゃんは、わたしの手元にも興味津々。
「お父さんの誕生日はいつ?」
「えっと来週の日曜日。それまでに間に合いそう?」
「うん、大丈夫。金曜日には完成させておくから取りに来てくれる?お支払いはその時で」
色々希望を聞いているうちに、ふたりはいつの間にか打ち解けていた。ユニークでお父さん思いの優しい女の子。この商店街って、子供たちも良い子に育つのね………。
「じゃあ宜しくお願いします」
「はい。頑張って作るから楽しみにしててね」
本当に頑張るから待っててね。余り物なんていったら申し訳ないんだけれど、その分学生さんのお財布にもやさしいものを作るから。
あら、表で今、奇声が聞こえた気がしたんだけど、気のせいかしら??またあの青いゆるキャラかな?
うーん、気になる。