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ご挨拶、その3

今回ご協力頂いたのは『美容室 まめはる』さまと、『篠宮酒店』さま。

それぞれ春隣 豆吉さま、篠宮 楓さまに快く承諾していただきました。

ご協力ありがとうございます♪

 一度自宅に戻って、一人で昼食をとる。

 まだ挨拶を交わしたばかりの皆さんのお店に食べに行くのには、ちょっとだけ勇気が足りないから。


 一人分のパスタを茹で、市販の小分けになっているたらこソースで和え、品数の少ない野菜サラダを作る。家から仕事に通っていた頃は、少なくともお休みの日は自分と母の分を作っていたし、パスタソースだって、ちゃんと手作りしてたのにな。


 こうしてもそもそと食べていて思ったのだけれど、一人ってやっぱり寂しい。でもこの寂しさに、早く慣れないといけないんだよね。ホームシックでメソメソなんてしてられない。商売が軌道に乗るかもわからないし、まだ気を抜くことなんてできないでしょ。


 二リットル入りのボトルに作ってあった冷茶をグラス一杯飲み干し、次に挨拶をするお店をチェック。『美容室まめはる』さんと、『篠宮酒店』、気を取り直して行ってみますか!





「こんにちはー。お仕事中にすみません」



 店内でお客様の髪をカットしているらしい、お店の方に声をかけた。

 この方が“千春さん”だよね。叔母からはトップスタイリストだと聞いていたけれど、物腰の柔らかい人好きのする、わたしと同年代くらい?の印象の女性だった。



「はい。いらっしゃいませ」

「突然すみません。今日は引越しのご挨拶に伺いました、澤山と申します。黒猫さんのお隣になるんですが、この度雑貨屋をオープンすることになりまして。住居もそちらになるので、今後ともどうぞよろしくお願い致します」

「ご丁寧にありがとうございます。黒猫さんのところには、時々友人と飲みに行ったりしてるんですよ。開店したら寄らせて頂きますね!」



 第一印象の、キリリとしたイメージは、一気にフレンドリーなものになっていた。そのうちわたしの髪も、お願いできるかな。



「ありがとうございます。それで、あのぅ、元々オーナーになる予定だったうちの叔母から完全予約制だって聞いていたんですが、オープン直前にこちらで予約させて頂いてもいいですか?」

「勿論です」



 今は彼女が接客中ということもあり、予約日に関してはまた後ほど連絡させてもらうことにして、お茶をお渡しして店を出た。


 うん、心機一転、ヘアスタイルも開店と同時に新しくできるなんて、幸先のいいスタートが切れる気がするぞ。




 さてと。お次は『篠宮酒店』さん。

ええと、ご夫婦と息子さん、別に暮らしている娘さんが一人、か。ふむふむ。



「こんにちはー。お仕事中に失礼しまーす」



 店内にずらりと並ぶお酒の数々に圧倒されながら、カウンター辺りまで進んでみる。



「いらっしゃいませ」



 色白な美人さんに迎えられてこれまた圧倒されてしまった。年齢がまったく分からないわ……。

 一体おいくつなのかしら?



「あ、お客でなくてすみません。私、この度こちらの商店街で雑貨屋をオープンするので挨拶に伺いました。黒猫さんのお隣なんですけど……」

「あら、わざわざありがとうございます。そう、黒猫さんのお隣でそういえば改装工事されてたわね。雑貨はどういうものを扱われるのかしら?」

「一応、和雑貨を。焼き物の器とか、小物類とかですね。それから店舗の片隅で、わたしの趣味の天然石を置かせて頂くつもりです。簡単なアクセサリーを作って頂ける作業スペースもご用意するんですが……」



 そこまで言うと、女性は目をキラキラとさせてわたしを見た。



「まぁ!うちの娘はアクセサリー作家なのよ。あなたとは気が合いそうね。あぁ、でも娘は家を出てしまっているの。なかなかこっちに帰ってきてくれないのよ……」



 わわ、オーナーさんの奥様でしたか?



「あの、失礼ですが、篠宮オーナーさまの奥様でいらっしゃいますか……?」

「はい、篠宮 雪と申します。よろしくお願いしますね」

「は、はい。こちらこそよろしくお願い致します。申し遅れましたが澤山 璃青と申します」



 なんだか段々営業トークみたいな挨拶になってきちゃったなぁ。慣れって怖い。

 お茶をお渡ししてふんわり笑顔にしばし見惚れていると、お店の入り口が急に賑やかになっていた。




「ただいま、雪。おっ、お客さんだったか。いらっしゃい!」

「燗さんお帰りなさい。あのね、こちらのお嬢さん、黒猫さんのお隣で雑貨屋さんを開店される、澤山さん」

「初めまして、よろしくお願い致します」

「おう!よろしくな!」



 元気の良いご主人と、可愛いらしい奥さん。並んでいるお酒を少しだけ見せて頂いている間、お二人が仲睦まじくおしゃべりしていた。



「あのぅ……。あまりお酒は強くないんですけど、緊張でここ数日寝つきが悪くて。下戸が飲めるような、度数の弱いお酒ってありますか?」

「そうだなぁ。とりあえず梅酒なんかどうだ?初心者向けじゃねぇか?」

「あ、小さい瓶のがあるんですね。じゃあ、今日はこれ、頂いていきます」

「慣れてきたら美味しい日本酒を教えてあげるわよー」

「はい、ありがとうございます」 



 かくして梅酒をお買い上げ。琥珀色でなんて綺麗。息子さんには今回はお会いできなかったけれど、そのうちきっと会えるよね。



 お店を後にして、手さげの袋に入れてもらった梅酒の小瓶をぶつけないように注意しながら自宅に向かう。とりあえずこれを置いてきたら、後もう一軒。

 今日は、最後に本屋さんに行って終わりにしよう。


 まだお茶屋さんとか、他にも挨拶しなきゃならない所があるのよね。ご隠居さまとか居たりしてね。ふふふ。



 二階にある自宅に帰るべく、ふわふわな気持ちで住居スペースに続く階段に向かおうとしたところで、階段脇に設置した真新しい郵便受けに、真っ白な封筒が飛び出しているのに気付いた。

 家族の中でわたしの分だけ住所変更と転送を届け出たばかりで、これが一番最初の郵便物。


 見覚えのある差出人の名前に、わたしは表情を失くし、呆然と通りに立ち尽くしていた。





千春ちゃんが接客していたのは、どうやら千春ちゃんのお知り合いの方だったようです。プレオープンでのお仕事だということみたいですね。璃青のお店は4月に開店。千春ちゃんのお店は5月の開店を目指している、そんな時のお話です。



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