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《肩こり同盟小話》ランチ女子会ーお好み焼きの正しい頂き方ー

このお話は鏡野ゆうさまの【桃と料理人】二十八話、二十九話とのコラボとなっております。また、本日は2話同時更新となっております。こちらを先にお読み下さい。

 ゆきくんから贈られた花束はまだテーブルの上で瑞々しく咲いている。貰った翌日はフラワーベースにそのまま飾っていたけれど、実家にいた頃にお花の教室に通い習っていたことを思い出しながら、ガラス製の変形の鉢に、小さな剣山をいくつか使って活けてみた。


 パチン、パチンとはさみを入れ、茎は少し短くなってしまうけれど。

 密集していた花々を解放して、茎を切ってあげたことで水あげもよくなるはず。


 名前の分からない、けれどその香りから恐らくキク科だろうピンクの花も、しゃんと立っていてとても清楚。薔薇もカーネーションもあえて短くしてみたけれど、お店に飾るわけじゃないし、洋風の生け花もいいな。また、どこかお教室を探そうかな。




 それはそうと杜さんに投げかけられた宿題。

 日中何をしていても、気付いたらふとあのカクテルの、広く使われている方の意味ばかりを考えてしまう。だから、花言葉を解読することに戸惑いがある。


『できない相談』。


 あなたは、わたしの気持ちにとうに気付いていて、それに先回りするつもりで“いいお隣さんでいましょう”そう言っているの………?


 




 女子会、じゃなかった、【林接骨院】予約当日。今ではすっかり仲良しになった桃香ちゃんと会うのが楽しみなあまり忘れそうになるけれど、今日はあくまでも治療が目的。

 だから服装はシンプルに、アクセサリーもなしで。


 うーん。ただの女子会ならロングスカートで行くところなんだけど。

 下はいつも治療に行く時と同じ黒のスパッツでいいかな。上は……レース使いの裾フレアなチュニックで。これ、襟の背中側にレースが付いていて、ちょっとだけセクシー?な感じなんだけど、恥ずかしいからロングカーディガンで隠してしまおう。髪は治療の邪魔にならないように、緩く結んで、と。



 さてと。お出かけ前にメールしておこうかな。



『今から家を出ます』

『はーい、了解です!』



 お好み焼きかぁ。どんなメニューがあるのかな。



 マンションに到着すると、なるほど開店日らしくお祝いのお花が沢山飾られている。中からはお好み焼きの焼ける香ばしい匂い。あー、久しぶり。


 うっかり立ち止まっちゃったけど、桃香ちゃんは既に店先に佇んでいた。風邪を引かせたら大変。中で待っていて貰っても良かったかな。



「桃香ちゃん、お待たせです~」

「おはようございます、璃青さん。なんか久し振りですよね、こうやって顔を合わせてお話するの」

「ですよね~」

「お腹すいてます? 私、ペコペコ」

「私も。ここで食べる事を見越して朝ご飯は少な目にしていたから」



 なんてね。実は今朝もカフェオレだけだったなんて、とても言えないけど。


 暖簾をくぐると、もう結構な数のお客さんで埋まっていた。繁盛してるなぁ。



「いらっしゃい、お座敷席の方を空けておいたけどそこで良かったかしら?」

「はい、向き合って座った方が話もしやすいので有難いです」

「良かった。じゃ、奥の席にどうぞ」



 女将さんに案内されてお座敷へ。

 厨房にチラリと見えたのが、ここのご主人かな?何だろう、凄くコワモテなのに、何故か親しみを感じるなんて………。

 ああ、誰かに似てるんだけど、思い出せない〜!

 あれ?桃香ちゃん、なんだか怯えてる?まさかあのご主人が怖いなんてことないわよね。さて、注文、注文。



「桃香ちゃん、何にする? トッピングがいっぱいあって迷っちゃう」

「私、豚玉とかイカ玉しか思いつかないですよ。あと~~広島焼き風とか?」

「二人で別々のを頼んで半分こってので良いよね」

「うんうん、それがいいです」



 私も豚玉とイカ玉しか思いつかないんだけど。これからここの常連になったら色々チャレンジしてみたいな。

 お好み焼きの大きさも考えずに、食べたいものが次々浮かんできてしまう。


 座るとすぐにおしぼりを持ってきてくれた女将さんに「奥で焼いたのを持ってくることも出来るけど、ここで焼く?」と提案された。



「あ、焼いてみたいです。璃青さんは?」

「私もせっかくだから」

「飲み物は? 今日はオープン記念だからそれぞれドリンク一回分は無料サービスでつけてるんだけど」



 昼間からアルコールなんて、という家で育ったわたしにはちょっとした冒険なんだけど……。夏祭りの時でさえ、昼間は飲まないようにしてたから。でも、生苺サワー、美味しそう。ま、たまにはいいわよね。



「じゃあ、この生苺サワーで!桃香ちゃんは?」

「えーと、ウーロン茶?」

「私だけ飲んじゃって良いの?」

「どうぞどうぞ。私も飲みたいんだけど今は飲めないんで……」



 あれ?どうしたのかな?体調不良?

 

 わたしは女将さんが離れたのを見計らって、そっと身を乗り出した。



「ねぇ、何処か悪いの?」

「ああ、そうじゃなくて。えっとですね………」



 また身体を壊しかけてるんだと思っていたわたしには、それは衝撃的な告白だった。



「本当?!」

「そうなんです、分かったばかりなんですけどね。夏バテだと思ってたらできてたと」

「おめでと~」

「ありがとうございます、なんだか小っ恥ずかしいですね、こういうのを誰かに話すって」

「そんなことないよ、おめでたいことなんだから恥ずかしがることないじゃない」



 桃香ちゃんに、赤ちゃんが………。


 ジワジワと喜びがこみ上げる。身内でもないわたしがこんなに嬉しい気持ちになるなんて、何だか不思議な感じ。もしかして、わたしに妹がいたらこんな感じなのかな?他人のわたしでさえこんなに嬉しいんだもの、嗣治さんはもっと嬉しいわよね。



「それでとうてつさんで見かけた時にお疲れモードだったのね、納得」

「え、璃青さん、そういう時は声をかけてくれればよいのに。滅多にお話しできないんだから」

「いえいえ。旦那様とのラブラブな時間をお邪魔しちゃ悪いと思って」

「邪魔するなんて。私と嗣治さんは一緒に暮らしているんだからお店にいる時ぐらい誰かに邪魔してもらわないと~~」



 邪魔なんてできないわよ。お二人の間には入り込めない空気があるもの。



「でも安心した。仕事が忙しくて疲れがたまっているんじゃないかって心配していたから」

「まあ仕事は相変わらずなんですけど、そんな事情なので随分と減らしてもらって楽になりました。璃青さんの方は? この時期だと秋物や冬物のアクセサリーが出るから大変なんじゃ?」

「そうなのよねぇ。目も肩もガチガチでね、林さんには桃香ちゃんに声をかける前から通ってるのよ。お蔭で随分とマシな筈なんだけど」



 雑貨屋の店主が片手間にやってるハンドクラフトなんて、大した仕事をしてるわけでもないんだけど。



「自分のお店で売るものだから自分のペースで出来るだけマシなんだけどね」

「お店で売ってるのって全部が璃青さんの手作り?」

「まさか! あれだけの数を一人で揃えるなんてとても無理よ。お知り合いのハンクラ作家さんにお願いして仕入れている物もたくさんあるの」

「ハンクラ作家さんのネットワークも凄そうですね」

「一番遠い人で広島に住んでる人だったかな。皆それぞれフリーマーケットとか通販サイトやブログで知り合いになった人が多くてね、お店を構えている人はまだ少なくて、お互いに作ったものを委託しあったりしているのよ」

「へぇ」



 あ、そういえば篠宮さんちの吟さんもハンクラ作家さんだったよね。いずれうちのお店でも作品を置かせて貰えないかなぁ。

 なんてことを考えていたら、女将さん登場。



「お待たせ〜。ところで二人とも、焼いたことはあるのよね?」

「えっと~~……何回かは自宅のホットプレートで」

「私はフライパンで……」

「あ、じゃあコテで焼いている途中でお好み焼きをパンパンしちゃう派?」

「え、パンパンしないんですか? このコテってその為にあるんじゃ?」



 あ、女将さん、チッチッチッ、なんて指を振ってる。あら、パンパンしちゃダメなのね。


 そうして時折鋭い視線を厨房から感じつつ、女将さんご指導のもと、我慢に我慢を重ね、なんとかパンパンせずに焼き上げたお好み焼きは、ふっくらと美味しそうだった(後にこの女将さんのご指導が、実はご主人の代弁だった、ということが分かったのだけれど)。



「お好み焼きはピザやホットケーキみたいには切らずに四角くなるように切っていくのよ、お二人さん。こんな感じで。まあ最初の四等分ぐらいは普通に切れば良いけど。ま、あとは御自由に。コテに拘らずに割り箸で普通に食べたら良いからね」



 との、女将さんのアドバイスによって切り分けられたお好み焼き。それぞれが取り皿に取って、まずは一口、口に運んだのだけれど。



「「あつっ」」


「璃青さん、もしかして?」

「桃香ちゃんも?」



 二人して猫舌だったのね……!



「じゃあ神神さんの小籠包なんて食べたら飛び上がっちゃいますね」

「そうなの。猫舌だって分かっているから熱いものは避けてるんだけど、火傷してでも食べたいものもあるから悩ましいのよね」



 だからって、冷めるのを待って食べるなんてお店の人に失礼だし、もう涙目になってでも食べるしかない。それに美味しいものを我慢するなんてできないもの。



「そういう意味では職場にもっていくお弁当は私にとって安心安全な食べ物なんですよ」

「お弁当持って行ってるんだ」



 偉いなぁ、お弁当かぁ。節約家?それにちゃんと栄養のバランスを考えてるのかな。



「まあ何ていうか……放っておくと何を食べるか分からないって嗣治さんが作ってくれているんです。結婚する前からなので、もうかれこれ一年以上になるかなあ」

「結婚する前から?」

「はい。なにせ私、嗣治さんの職場の前で行き倒れていたところを助けてもらったのが馴れ初めでして」



 あら、桃香ちゃんと知り合ってから、もしかして初の恋バナじゃない?これは聞き逃せないわ。



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