《肩こり同盟小話》会合、もしくは女子会。
今回は、肩こり同盟の続きです。
このお話は鏡野ゆうさまの作品【桃と料理人ー希望が丘駅前商店街ー】の二十六話、二十七話とのコラボとなっております。桃香ちゃんサイドのお話も是非お楽しみ下さい!
昨夜、透くんに貰った花束は、結局独り占めしたくて店頭に飾るのはやめてしまった。飾る場所に悩んだ挙句、今はダイニングテーブルの上で、鮮やかに咲いている。
誕生日の翌朝、わたしはぼんやりと、目の前のガラスのフラワーベースに生けた花をつついていた。
「ねぇ透くん。わたしにこの花の意味を教えて」
至近距離で見つめる花たちは、ものも言わずわたしの溜息で微かに揺れる。
彼は、どんな気持ちでこの花束をオーダーしたの?考えても考えても、確かなことは何も分からない。
もういっそ、本人に聞いてみる?
「いけない!開店の時間だわ」
彼の真似をしてドリップしてみたコーヒーはちょっと失敗して苦い。パンも喉を通らないから、ミルクを入れてカフェオレにしたコーヒーだけを飲み干すと、階下の店舗の鍵を開けるために立ち上がった。
とはいうものの、平日の午前中はあまり人通りもないから少し奥まった作業テーブルで秋から冬に向けた新作のアクセサリーを作って過ごす。
あー。肩が張ってるなぁ。
肩こりはお店をオープンしてからというもの、日に日に酷くなる一方で、今は時々こっそりお店を閉めて休憩してはお隣のビルの三階に通っている。
お隣の三階、【林接骨院】に通うようになってから、もう数ヶ月。といっても週一くらいのペースで通えていればこんなに悪化せずに済んでいるのかもしれない。
でもわたしって、どうもそういう時間を作るのが下手なのよね。もうそろそろ行った方が良さそうなレベルなんだろうけど……。
痛みの中に痺れのようなものまで感じて、さすがに治療に行こうという気になってきた。
そうだ、桃香さんを誘ってみようかな。初会合で仕事柄いかに肩が凝るか、という話を力いっぱい語っていた桃香さんだから、もしかしたら林先生の所に既に通っているかもしれないけど。
思い立ったら即メール。お昼頃に待ち合わせてランチしたりして、ちょっとお喋りしてから午後イチに診察してもらったらどうかな。こっちに来てからというもの、友達とランチなんて出来ないなぁ、って諦めていたけれど、あの桃香さんとなら。
『桃香さん、ご無沙汰しています。お仕事どうですか?涼しくなってきたことですし、第二回肩こり同盟の会合を林接骨院でしませんか?ちなみに私は秋の新作を作りすぎて肩が岩みたいです』
大げさでなく、本当に肩がカチカチだから、ウソは言っていない。
まぁ、桃香さんは多忙な人だし、今回は都合がつかないということも考えられる。そうしたらまた一人で行けばいいかな。
でも本音はね。
会合のついでに同性の意見を聞いてみたい気がして。お隣の優しいあのひとから貰っている、数々の好意の意味を。第三者から見たら、それってただの親切心なのかな、それともちょっとは自惚れてもいいのかな、なんて。
それから、桃香さんなら花言葉まではわからないまでも、仕事柄花の名前にも、もしかしたら詳しいかもしれないし、できたら教えてもらえないかなぁ、なんて下心もあったりする。種類さえ分かれば花言葉くらいは自分で調べられるし。いや、本来なら最初から自分でネットで調べたらいいと思うんだけど、どうしてもその勇気がないんだもの。
そんな事を考えながら、一人で赤面していると、桃香さんからの返事が思ったより早く来た。
『こちらこそなかなか連絡出来なくてごめんなさい。次の休みは璃青さんのお店の定休日と重なってます。平日だから林さんもやっていると思いますがどうでしょう?何か予定は入ってますか?』
もちろん、予定は何もない。
『私は嬉しいですけど良いんですか? 旦那様とお出かけの予定とかは?』
『旦那さんは普通にお仕事なので大丈夫ですよ~』
『じゃあ、お昼からの予約、入れておきますね♪ 行く前にランチでも御一緒にどうですか?』
『はい、是非に! 楽しみにしてますね^^』
調子に乗ってランチまでお誘いしちゃったけど、大丈夫だったかな。この間、とうてつさんに夜ご飯を食べに行ったら、カウンター席の離れたところから見ても、かなりお疲れのようだったし。あれは食べながら寝てたよね、絶対。
とうてつさんのところの板前さんーー後に桃香さんのご主人だということが判明ーー嗣治さんも心配そうに見ていたし、もしかして仕事が相当キツいのかも。
仕事のことはよくわからないけど、愚痴でも何でもいいから色々聞いてあげたいな。いや、交換条件だなんて、思っていませんよ?でも、わたしも聞いて貰っちゃう訳だし。
………あ。ところでランチ、どこにしよう?
この辺りでランチの出来そうな所……。せっかくだから普段行ったことのないお店がいいんだけど、そうすると駅ビルくらいしか思いつかない。でもそれはちょっと味気ないかな、って気がするし。
悩んでいたところにタイミング良く桃香さんからメールが届いた。
『ランチの件でご提案です!実はちょうど約束の日にうちのマンションの一階に、お好み焼き屋さんがオープンするんです。璃青さん、もし粉モンがお嫌いでなかったら、ランチはそこでいかがです?』
目新しくて楽しそう!……というわけで、速攻でお返事してしまった。
『あ、いいですねぇ! お好み焼き、久しぶりなんですよ♪ 是非そこにしましょう!!』
本当、久しぶり。地元では残念ながら美味しいお店があまりなくて、ここ数年食べてないのよね。
うん、猫舌だけど、大好き。
ところでそこって自分で焼くタイプのお店なのかな?桃香さんとわいわい賑やかにお喋りしながら焼いたら楽しいだろうな。そうしたら、もっと仲良くなれるかな?
あら?肩こり同盟の会合というより、女子会のノリになってきた?
 




