わたし、“ゆうれい”なんです。
誰もいない教室。
わたしは一人、黄昏る。
それは寂しく、悲しかった。
だけど、もう仕方ないこと。
「……はぁ」
溜め息ひとつも吐きたくなる。
窓の外は茜色の夕暮れの下でカラスが鳴いている。
「カラスが鳴くからかーえろー」
一人呟き歌う。
その声は教室に響くことはなく、無残に消え去る。
頬杖付いてボーッとして視線をゆっくりと泳がせる。
なにもすることがない。
「……せめて鏡に映らないかなー」
そんな有り得ない文句を言う。
いや、普通なら映るんだろうけど。
「……わたし、ゆーれいなんだよな~」
そう。わたし、ゆうれいなんです。
ゆうれいは幽霊と表記するけど、わたし的にはひらがなの方が好きなんですよ。はい。
「ゆうれいは一人ぼっちで友達なしー」
ぼっちなんて言ってみたら、余計に虚しくなってきた。
人生は世知辛い。
「……運命のばっきゃろー」
無気力に机の上に突っ伏す。
「……えっと、あれ、教室間違えたかな」
声がした方向に顔を向けると、このクラスの男の子が一旦教室から出てクラス確認をする。
「ここ、ぼくのクラスだよね?」
男の子は確認するかのようにこっちに向かってしゃべった。
「ん?」
わたしは自分に指差して確かめる。
「……そう。君に訊ねてるんだけど……そこ、ぼくの席だよね?」
わたしは席と男の子を交互見る。
「そうですね」
「よかった。間違ってたらどうしようかと」
苦笑しながら近付いて来る。
あれ、あれれ?
「君、みない顔だね。どこのクラス?」
「……ここだけど」
「え?そうだった?ごめん、ぼく覚えてなくて」
申し訳なさそうに謝るが、覚えていないのも当然、だって、わたし死んでるもの。
「……君、わたしが“視える”の?」
「うん?当たり前でしょ?人間だもの」
「……」
彼の言葉にわたしはまばたきを必要以上にして驚いた。
わたし、ゆうれいなんです。
もう一度言います。
わたし、ゆうれいなんです。
大事なことなので二回言いました。
これがわたし、ゆうれいとして生活して2年、初めての人間からの認識でした。