第十三話「悲哀」《5》
雨はさらに強くなっていく。
二人が雨にあたりながら向き合っている中、先に仕掛けたのはサイクスだった。
右手に作った拳を、ファイの顔目掛けて振り下ろした。
『力』の能力をかけているが、もう体力がなく、威力は完全になくなっていた。
ファイは同じく拳を作り、サイクスを殴った。
風を纏わせてるつもりだが、同じく体力がなく、風を纏わせることは出来なかった。
「何故……」
ファイは殴りつつ、呟く。
服に雨が染み込み、体が重い。
「何故お前は、そんな顔をしている!」
ファイは殴った。
とにかく殴った。
一発が効くとは思えない。
ならば数で攻めるしかない。
「お前には……」
サイクスも負けなかった。
殴り返し、しかし殴られ、そして殴り返し……。
「分からないだろうな!!」
サイクスの拳がファイの腹部にあたった。
それがダメージとなり、ファイは数歩よろめいた。
よろめいたが、すぐに体勢を立て直す。
「確かに分からない」
ファイはすぐにサイクスを殴る。
そろそろ体力的に厳しかった。
今もすぐに倒れそうだった。
「ぐっ……」
サイクスは痛みを耐えた。
今にも倒れそう。
それはファイだけでなく、サイクスも一緒だった。
「だがな、お前の目的なら分かるぞ!」
ファイは一旦手を休め、サイクスを見た。
目は合わない。
サイクスがファイを見てないからだ。
「お前はただ」
「言うな!!」
サイクスが殴りかかってきた。
ファイは横に避ける。
「お前は」
ファイは言葉を切り、無防備なサイクスの横っ腹を殴った。
「ぐっ」
「お前は、一人が嫌だったんだろ」
サイクスはよろめきつつ、拳を作り直す。
「お前に何が」
「聞こえたんだよ」
サイクスの目の前には既にファイの拳があった。
殴る前に、殴られたのだ。
しかし倒れない。
気力だけで自分を支えた。
「聞こえたんだ。移動魔法の時に、お前の言葉がな。ひと」
「言うなーー!!」
サイクスは発狂に近い声を発し、殴りかかった。
それは勢いがなかった。
体力がゼロになる一歩手前。
ファイは殴られる前に殴った。
殴られてもなお、サイクスは立っていた。
「『一人は嫌だ』……お前は、確かにそう言ったんだ」
「……」
サイクスは立ったまま動かなかった。
ゼロになる一歩手前。
その一歩が、もう少しで歩まれる。
「!!」
そこで、目が合った。
ファイは視線を逸らしたくなった。
が、逸らさない。
逸らしてはいけないのだ。
「確かにそうなのかもしれない」
ファイは言葉を失う。
「俺は羨ましかった」
その時、一歩が歩まれた。
サイクスの体が、前に傾いた。
「お前は……良いよな」
その言葉と共に、水が飛ぶ音がした。
ファイは言葉を見失ったまま、サイクスを見ていた。




