第十三話「悲哀」《4》
空は黒かった。
今にも雨が降りそうだ。
サイクスは既に笑みは消えていた。
余裕が消えたわけではない。
が、シュハードの雷がダメージとして残ったのは事実。
確実に、体力は削ることが出来たのだ。
「ようやく分かったよ……」
それを発したのは、ファイではない。
しかし、サイクスでもない。
ファイの後ろにいる人物だった。
ファイは分かった。
声だけで、誰なのかが。
ファイは確認するように後ろを見た。
するとやはり、そこには少年……レインが立っていた。
しかし苦しそうだった。
「…………」
ファイは何かが聞こえたような気がした。
サイクスから。
それは小さく、よく聞き取れなかった。
しかしレインには何となく分かった。
自分の考えと、今のサイクスの表情を合わせれば。
「ファイさん……僕の考えなんですけど、サイク」
そこでレインの言葉が切れた。
ファイの横に風が通ったのと同時に。
気付くとレインは空中に浮いていた。
それも遠くに。
すぐ分かる。
サイクスの『風』だ。
レインはそのまま家と家の間に落ちていく。
普通ならここで駆け寄るだろう。
しかしファイはそれをしなかった。
ただ、すっと横に二、三歩ずれた。
するとファイが元々立っていた部分を通って直線に、サイクスに向って家に亀裂が入っていった。
レインの『斬』の能力だ。
レインはぎりぎり、サイクスの攻撃を『空』で耐えたのだ。
それをファイは確認したわけではない。
ただ、空中にいるレインを見たら、勝手に体が動いたのだ。
「ちっ」
サイクスから舌打ちが聞こえた。
ファイは既にサイクスを見ている。
サイクスはレインの攻撃を咄嗟に高く飛び上がって避けた。
ファイはそこで魔法を使った。
サイクスが飛び上がった直後、そう、サイクスがレインの攻撃を避けた直後、ファイの風が襲った。
それをサイクスは避けきれない。
直撃したのだ。
「ぐっ……」
サイクスはそのまま屋根に落ちた。
血がマントに染み込み、また、屋根に赤が飛び散った。
うつ伏せのまま、動かない。
しかし死んだわけではない。
この程度でサイクスは死なない。
「はぁはぁ」
ファイはゆっくりとサイクスに近づく。
レインはどうしたのだろうか。
恐らく、今の攻撃が全力だったのだろう。
それはファイも一緒だった。
今の攻撃に全力を使った。
もう、魔法を使う気力は残っていない。
サイクスには、立ち上がって欲しくなかった。
が、サイクスは立ち上がる。
「お前は……」
サイクスが何かを言いかける。
それと同時に、何か冷たいものがあたった。
雨だ。
遂に降り始めた。
それは次第に強くなっていく。
「お前は」
また、呟いた。
しかし雨の音でかき消される。
それでも、表情くらいは見える。
その表情は、確かに見ることが出来た。
しかしファイは、すぐに視線を逸らしてしまった。
そんな表情なんてまともに見れるわけがなかったのだ。




