第十二話「間者」《1》
「ん……」
レインは目を覚ました。
その目には、白くない、黒い雲が映った。
レインは辺りを見回す。
思い出せなかった。
何があったのか。
そして分からなかった。
何が起きたのか。
ケイズ達は倒れていて、自分の傷の出血は止まっている。
誰かに助けられた。
それしかありえなかった。
しかし誰が?
レインには分からなかった。
ケイズ達に、目立った外傷はない。
生きている。
ならば、助けてくれたものは仲間で、それも強者だろう。
ケイズ達を、傷つけずに気絶させるなんて、簡単には出来ない。
「……」
レインは立ち上がった。
痛みはそれほどでもない。
動ける。
さて、迷った。
ケイズ達をどうすればいいか。
消去法で、一つしかないが。
「ごめんなさい」
レインは一言そう言い、そこを離れた。
丁度同じ頃、ラーチャは危険な状態だった。
右手には、既に短剣は消えている。
イルドに弾き飛ばされ、道の端に転がっている。
必死に戦った。
が、無理だった。
もう足も動かない。
逃げても無理だ。
その前に、逃げるという行為さえ出来ない。
だからといって、戦うのも無理だった。
まず、唯一の武器である短剣が手元にない。
取りに行くにしても足が動かない。
「……」
ラーチャは膝を地面に付けた。
目の前には剣を右手に持ち、ラーチャを死んだような目で見てるイルドがいる。
ラーチャは空を見上げる。
イルドの顔なんて、見たくなかった。
これから自分を殺す者の顔なんて。
たとえ彼が、幼い頃からの親友であっても。
たとえ彼が、自分と同じ村の唯一の生き残りであっても。
たとえ彼が、自分の大切な人であっても。
「あれ?……」
ラーチャは独り言を呟く。
イルドの、自分に近づく足音なんて全く耳に入っていない。
そんなことより、と、ラーチャは不思議に思った。
視界が滲んでいるのだ。
頬に、液体が流れているのだ。
胸が、とても苦しいのだ。
目の前にはイルドがいる。
剣を高く持ち上げ、ラーチャに振り下ろそうとしているイルドが。
イルドは、そのまま風を斬る様な速さで振り下ろした。
ラーチャは自然と目は閉じていた。
ただ、自分に来る嫌な感覚を待っていた。
「……?」
が、それは来なかった。
斬られていない。
痛みがない。
ラーチャはゆっくりと目を開ける。
当然目の前にはイルドがいる。
が、そのイルドは止まっていた。
イルドの剣は、イルドの頭上で止まっている。
イルドの目を見るが、やはり死んだような目をしていた。
「……」
何が起こっているのか分からなかった。
分からないまま、イルドは後ろに倒れる。
気絶した。
何故かは分からないが、それが結果だった。
何故こんな状況になっているのか。
それを考えるべきなのかもしれない。
しかしそれよりも。
「イルド君!!」
ラーチャは、親友の下へ駆け寄った。




