第十一話「深夜二時」《4》
ケミア……偽ケミアは、つい先刻とは別人のようだった。
他の二人が、気絶しているふりをしてからだ。
偽ケミアは、ジェイダスよりも一枚も二枚も上手、いや、比べられないほど強かった。
見る見るうちに、ジェイダスの体力を削っていった。
しかし、殺そうというそぶりは見えなかった。
それはそれで良かった。
が、誤算があった。
偽ケミアが、強すぎるのだ。
予想では、同じ魔法が使える者同士、体力を削り合うはずだった。
が、削られているのはジェイダスただ一人だ。
隙なんてなかった。
力を抜いているのは分かる。
が、油断しているわけではなかった。
二人がタイミングを窺っていると、ついにジェイダスの体力が尽きた。
白い壁に背中を強打し、そのまま前に倒れた。
偽ケミアは、ジェイダスの前に立ち、止まる。
丁度その時、二人は偽ケミアの後ろをとった。
それに、偽ケミアは油断している。
今しかなかった。
今以上のチャンスはないと思った。
二人は目を合わせずに同時に動いた。
右手の袖に隠してあった銃をすぐに取り出し、偽ケミアに向って撃った。
狙いは両足。
完璧だった。
偽ケミアが気付く間もなく撃った。
それは完全に偽ケミアの両足に直撃した。
「……」
しかし二人は喜べなかった。
予想と違った。
偽ケミアに弾が当たった直後、偽ケミアは変わった。
水に。
初めて見た。
人が水に変わる瞬間を。
初めてでも分かる。
これが魔法だということに。
二人はすぐに立ち上がり、辺りを見渡す。
不思議でしかたがなかった。
気付かれなかったはずだった。
避ける暇なんてなかったはずだった。
それに、偽ケミアが消えた。
気配も当然無い。
しかし、数秒待っても何の変化もない。
二人は心配だった。
自分達の命が。
隊長達が。
そのころ、サードは全く別の場所にいた。
二人が考えもしない所。
サードは、このスレイタウンにすらいなかったのだ。
「気付かれてたのか……やはり」
暗闇の中、サードが独り言を言った。
「ここで何をしている」
その後ろには、男が立っていた。
「どうしてここに?」
サードは振り返らなかった。
声だけで誰かは分かる。
つい最近会った者、ガレストだ。
サードはもう自分の姿に戻っていた。
しかし常にフードを被っているため、それほど変わらない。
「偽者役を見に行ったら、その偽者役が、偽者だった」
「ばれたか」
「ふざけるな!」
ガレストは強く言った。
先程の偽ケミア……それはサードではなく、サードが作り出した水のケミアだったのだ。
ガレストはそれに怒りを感じていた。
自分が言い出したことを、まともにやらないのだ。
我慢も限界だった。
「俺は今、気分が良いんだ。良かったな」
「何が言いたっ……」
ガレストは黙った。
サードの、振り返った時の姿を見て。
先程の言葉。
すぐに分かる。その意味を。
ガレストは心配だった。
いつかサードが裏切るのではないかと。
「じゃあな」
サードはガレストの顔を見て、鼻で笑い、暗闇の中を進んで行った。
二人がいるこの場所。
それは、スレイタウンの人々がいる、レクシィ城だった。




