第四話「理由」《5》
「……」
しばらく、沈黙が続いた。
レインは下を向いて動かない。
がその後、レインが先に動き出した。
「ファイさん……僕は……」
「俺を殺しに来たのか?」
「……」
レインはようやくファイを見た。
しかしその目は、とても苦しそうだった。
「僕は……ファイさんに、ただ話があるだけです」
「……。なら、聞こう。なんだ?」
ファイはまだレインへの警戒を解いていない。
レインからは殺気が全く感じられない。
しかし念の為だ。
「ここじゃ……あれなんで」
レインはイルドをちらりと見た。
ファイはそれで理解した。
「イルド。悪いが」
「俺はお前がいなくても関係ないんでね」
イルドも気付いていたようだった。
ファイは立ち上がり、森の中に入っていった。
イルドにも、声が聞こえないほど歩いたところで二人は止まった。
まだ二人の距離は遠い。
念の為だ。
「で?話とは?」
「ファイさん。上級者の者が来ませんでしたか?」
「え?あ、あぁ、来たが……」
レインの意外な質問にファイは驚いた。
しかしレインの目を見て重要だということはすぐ分かる。
「何故……だと思いますか?」
「何故って、俺を……」
そこで言葉が止まった。
裏切り者の排除は、上級者レベル、複数同時の場合意外は、中級レベルの任務のはずだ。
「理由は分からないと思います。絶対に」
「……」
「SIKS……」
「え?……」
ファイは最初、レインが何を言ったか分からなかった。
「通称サイクス。その中の〇二二号。省略して言うとこれが理由です」
「さい……ぜろ……なんだって?」
途切れ途切れでしか聞こえなかった。
「シリアス・インペクト。そう。僕達のリーダー」
「ま、待て。どういうことだ?」
シリアス・インペクト。
シャラジューマのリーダー。創設者だ。
それが何故今名前が出たのか、ファイには全く分からなかった。
「シリアス……全ての能力が使える唯一の人物。どう思いますか?人から向上心は消えない。そう、作った。シリアスを。それがサイクス」
「……」
ファイは理解が出来なかった。
サイクスがシリアス。
そんなことを言っていた。
「シリアスのコピー。分かりましたか?SIKSの名の由来。そう、シリアス・インペクトのコピー達」
「……」
ファイはようやくレインの言いたいことが分かってきた。
しかし分からないことがある。
「それと俺。何の関係があるんだ?」
「人口頭脳までもある者『サイクス』。しかし彼らは人型ではないんです。ゼリー状の物体。人型には、最高二回まで真似をすることが出来ます」
「真似?」
「はい。その人にしか変形出来ないんです。一回目は当然シリアス。しかし今まで一回も成功したことが無いんです。形が良ければ能力が欠け、能力が良ければ形が欠ける。毎回、その後にゼリー状に戻し、壊す」
そこで一旦切った。
ファイはまだ分からない。
「ただ一年前。〇二二号が、逃げ出したんです。……そしてある人の姿をコピーし、脱走した」
ファイはようやく自分との繋がりに気付いた。
「それが……俺か」
「はい。それで、何故上級レベルが狙いに来たか、もう分かりますよね」
「あぁ」
ファイはもう分かった。
その理由を、レインが自分の口で言わない訳も。
「俺の体を持つサイクスは、俺が死ぬと、連動して消滅する……か?」
「……」
レインは小さく頷いた。
「ならまさか、俺が裏切り者になって、消される理由が作られるのを待っていたのか?」
「いえ、これが分かったのはつい最近なんです」
ファイはそこで新たな疑問が生まれた。
「何故、サイクスとかいう奴を、消滅させなきゃいけないんだ?」
「暴走です……」
レインは小さく呟いた。
「この付近で、連続してサイクスの暴走があったんです」
そこで一旦きった。
そして続ける。
「だからそれを止める為に」
「!!」
ファイは身動きが取れなかった。
目の前に、レインがいたのだ。剣を抜いている。
その先はファイを捕らえていた。
「……」
ファイは油断していた。
完全に警戒を解いていた。
しかしレインの殺気も無かったのだ。
ついさっきまでは。
「でも……」
レインが呟く。
ファイからは、剣を右手に持ち、下を向いて手をただ前に伸ばしているレインが見える。
「僕は……」
途切れ途切れに呟いている。
ファイは声が出せなかった。
「僕は……」
レインは震えた声で言う。
「ファイさんを……殺せません」
ファイから血は出ていない。
レインの持っている剣の先は、ファイのすぐ右にあったのだ。




