第三話「レクシィ城で」《5》
ファイはとにかく焦りを悟らせないようにした。
無理だ。不可能だ。勝てるわけない。
その言葉が頭から離れない。
目の前でにやけている男…シュハードは、上級者の中でも強者になるだろう。
最初、何故シントスをゆっくり倒したか。
それは、そのことを考えさせる為だ。
考えさせた隙に、目の前に近づいた。
その時、ファイを殺すことは容易だった。
しかしそれをしなかった。
それはまず、ファイが『反射』を起こすかどうかを確かめる為。
そして、レイラが魔法を使えるか、遠まわしで確かめたのだ。
勝てない…。
またその言葉が頭に浮かんだ。
勝てない、それならどうするか。
生き延びるには一つしかない。
逃げる。
幸い、ノスタードが作った壁の穴は、ファイの後ろにある。
ファイは風を両足に集めた。
スピード。スピードだけなら、シュハードに勝てる。
「シュハード…だったか。お前、いや、お前ら上級者が何故ここにいる。裏切り者の排除は中級者の任務だろ」
ファイは逃げるのを悟らせない為、話を作った。
「駄目か?気分だ。ただ、なんとなくだ」
今しかない。
ファイは、シュハードが言い終わるのと同時に、体を反転しながら、大きく足を動かした。
体を反転し、1歩、足を前に出そうとした。
しかし出来なかった。
「何処行くんだ」
シュハードの声が聞こえたような気がした。
しかし振り返ることが出来ない。
前に進むことも出来ない。
『雷』の魔法だ。
逃げることが分かっていたのか。
それとも反転したのを見てから一瞬で魔法を出していたのか。
どちらにしても、終わった。
そう思った瞬間、痺れが取れた。
しかし、もう力が入らない。
ファイは後ろに倒れた。
全身の力が全て外に流れ出た気がした。
起き上がる力も、首を動かす力も湧かない。
もう終わったのだ。
「じゃ、これで終わりだ」
シュハードはたぶんこう言った。
しかし分からない。
いつの間にか目は閉じていた。
外の、近くの音も、全て消えた気がした。
いや、何か、声が聞こえる。
「…………だ」
何処かで聞いたことがあるような声。
上手く聞き取れない。
「……りわ……だ」
何を言っているのだろうか。
しかしもうどうでも良かった。
もう、死ぬのだから。
しかし、何か起きた気配がしなかった。
ファイは気になり、目を開けようと思った。
いや、思ってはいなかった。
ただ体が勝手に動いた。
「!!」
しかしその目には、予想外のものが映った。
シュハードの姿どころか、今いるのは、レクシィ城ではなかったのだ。
理解が出来ない。
あれから、どうやら時間が経っていたらしい。
いつかと同じように、ベッドの上に寝ていた。
しかし天井が前回と違う。
「あ!!」
どこからか、高い声が聞こえた。
聞いたことが無い声だ。
確認したいが力がまだ入らない。
「起きた?」
そのファイを、覗き込むように、上から女の子が顔を出した。
ピンク色の髪と、赤い瞳を持ったその少女は、明るく微笑んでいた。
この少女がどうやら助けてくれたらしい。
そうすると、この部屋はたぶん、この少女のだろう。
「……」
ファイは言葉に迷った。
そして逃げるように、目を閉じた。
少女はどうしただろうか。
ファイはゆっくりと、眠っていった。




