第三話「レクシィ城で」《4》
レイラは少し広い場所で止まった。
右には城の壁が、左には塀がある。
他にも、木が数本あるが、邪魔になるほどでもない。
そこにノスタードが歩きながらやってきた。
「ここで死にたいのかい?」
レイラは答えない。
確かに相手は上級者。
勝つのはまず無理だ。
しかし、普通にやらなければ、勝つ確立もある。
「んじゃ、はじめ…」
その時、ノスタードの動きが止まった。
ノスタードは、動かないのではなく、動けないのだ。
理由は、レイラは分かった。
すぐにレイラは攻撃を開始した。
両手を、ノスタードの方に伸ばし、手を開いた。
その手の平から、少量…いや、大量の水が現れた。
レイラが力を入れるのと同時に、その水はノスタードに高速に向っていった。
5メートルほど先にいるノスタードに、それは1秒も経たずに腹部にあたった。
「ぐっ……」
それと同時に動けるようになったようで、後ろによろめいた。
普通の水なら痛くない。
しかし、これは魔法だ。
それがしっかりと直撃したのだ。
ノスタードにとって、相当のダメージとなった。
「誰だ!!」
ノスタードは、右手を腹部にあて、目を一層鋭くして、後ろを見た。
そこには一人の男が立っていた。
ノスタードを動けなくした者であり、レイラの、普通に戦わない方法…『奇襲』の中心人物である者。
「俺か?俺はジェイダス。そいつの兄だ」
ジェイダスは微笑みながら、そして、全身に雷を集めながら、言った。
「ジェイ…ダス…」
すると、ノスタードは予想外の反応を見せた。
腹部にやっていた右手を頭にやり、何かを考え始めた。
しかし10秒も経たずに分かったようだ。
右手を頭から少し離して人差し指を立てて言った。
「あぁ。君、ジェイダス・アルソリーか。あの、中級者の追撃を振り切り、待ち伏せていた上級者を倒して行方不明。一ヶ月探しても見つからず、捜索を断念させた。それが君だろう?」
「一ヶ月か。てっきり今も捜索してるかと思ってたよ」
「それほど暇じゃないんだ」
「で、俺がジェイダスだからなんなんだよ」
その問いかけにノスタードは少し笑いながら言った。
「上級者を倒した力を…見てみたい」
それを合図に二人は構えた。
レイラはその間、会話に入ることも、動くことも出来なかった。
軽い会話に聞こえるが、その間ずっと二人の殺気がぶつかりあっていた。
ジェイダスの殺気を感じたのは久しぶりだった。
「そうだ。君、抜けてから長くなってるから、腕も鈍ってるでしょ。だから平等にするために、僕はここから動かない」
「後悔するぜ。せめて右足を軸にしか動かないにしとけ」
「じゃあ、そうさせてもらう。後悔するのは君みたいだけどね」
「どうかな」
ジェイダスは全身にあった雷を両手に集めた。
同時にノスタードに向って走り出した。
ノスタードは体勢を低くし、ジェイダスを見てるだけだ。
ジェイダスは、走っている勢いを合わせて、雷で覆われている右手でノスタードに殴りかかった。
顔に向ってきたそれを、ノスタードは左手で止めた。
ジェイダスはそうなるのを分かっていた。
そのまま右手の雷を全てノスタードに流した。
これで体の自由は失った。
そう思った。
しかし、ノスタードは笑っていた。
「雷は、身近な奴のおかげで慣れてるんだよ」
ジェイダスはそれを聞いてすぐに左手を動かした。
右手はノスタードに雷を流したままだ。
左肩を大きく引き、引いたまま、腕をノスタードの方に向って伸ばした。
その手は大きく開いている。
手はノスタードに届かない。
しかし、そこから出る雷は届く。
その雷はノスタードの全身を包んだ。
それなのに、ノスタードの右手は動いた。
ジェイダスは危険を感じた。
一旦引こうと思ったが、動かない。
右手が、しっかりとノスタードに押さえられてしまっている。
気付くとノスタードの右手は真っ赤な物…炎を纏っていた。
ジェイダスがやったように、ノスタードは拳を作り、ジェイダスに殴りかかった。
左手は空いているが、止められない。
あの炎に触ってはいけない。
そう感じた。
しかし体を引くことが出来ない。
右手が全く動かない。
なら一つしかない。
「くっ…」
ジェイダスは咄嗟に自分の前に『雷の壁』を作った。
ノスタードはそれに触れた途端、反射的に右手を引いた。
その時、隙ができた。
それを見逃してはいけない。
ジェイダスは空いている左手から、僅かに残っている雷を全て放出した。
しかしそこにノスタードはいなかった。
ジェイダスの右手はいつの間にか開放されていた。
「はぁはぁ…」
ノスタードは少し遠くで息切れをしていた。
避けられた。
しかしジェイダスは勝った。
ノスタードは少し笑い、ずれた眼鏡を直しながら言った。
「負けたよ。まさか僕が動くことになるとは……」
すると、後ろを向いて歩き始めた。
そして右手を上げて言った。
「またいつか会おう」
そう言い、去って行った。




