第7話 セレスティア様の危険な誘い
国家間会議は延期することとなった。
それも未知の災害で街が半壊したからだ。
俺はスキル【時間遡行】を使ってすべての被害を修復したのだが、万全を期すために各国の王が警戒態勢を取っている。
思わぬ暇ができた。
「レオン様……その……一緒に街を回りませんか?」
俺は震えていた。
こんな緊急事態の中で、セレスティア様は提案してきたのだ。
俺の力は弱まっている。
これじゃおっぱいどころか、セレスティア様を守れるかも分かったものではない。
だがしかし、セレスティア様の願いは無視してはいけない。
大丈夫だ。
俺は魔法の練習を必死にやっていたから、きっと力はある程度回復したはず。
いざというとき、この命にかえてもセレスティア様を守る所存だ。
ならば。
「喜んでお供いたします」
「……嬉しい、です」
なんという優しきお方。
俺が風邪をうつしていたというのに、まったく俺を責める気配がない。
それどころか、嘘でも『嬉しい』と俺を慰めてくれている。
涙が溢れる。
俺はなんと恵まれているのだろう。
「どうしたのですか? レオン様」
「しくっ……なんでも……ござい゛ま゛てぇん……」
「ふふっ、レオン様って(いつも私を笑わせてくれる)優しい方なのですね」
「どんでも゛ござい゛ま゛てぇん……しくっ……」
いかん。
セレスティア様に余計な気遣いをさせてしまった。
男失格だ。
涙を拭こう。
気を確かにするのだ。
「それじゃ、行きましょうか? レオン様」
石畳の通りには、朝から多くの人々が行き交っている。
荷車を引く商人が声を張り上げ、威勢よく商品を売り込んでいた。
店先では職人が手際よく包丁を振るい、魚を捌いている。
その隣では焼きたてのパンが並び、香ばしい匂いに足を止める人々の姿があった。
橋の上では旅人同士が地図を広げ、行き先を確かめ合っている。
運河沿いでは洗濯物が干され、風に揺れる布の向こうで子どもたちがはしゃいでいた。
水面には小舟を操る船頭の姿があり、慣れた手つきで客を乗せては次の橋へと運んでいく。
通りの端では楽師が弦を弾き、足を止めた人々が小さな輪を作っていた。
異なる言葉が飛び交いながらも、そのすべてがひとつの賑わいとして溶け合っている。
この街には、人が生き、人が働き、人が笑う音が絶えず満ちていた。
だから、危険だ。
こんな人混みの中で、セレスティア様になにかあったら守りきれない。
守り切れる自信がない。
いや、レオン。
お前は誓ったのではないか。
もう二度とセレスティア様のおっぱいを危険に晒さないと。
ならば、覚悟を決めろ。
俺はセレスティア様のおっぱいを中心に【多重結界】を貼った。
俺は閃いていた。
攻撃が来る前に防御すればいいのだと。
これなら問題はない。
大丈夫だ、レオン。
もう失態は繰り返さない。
◇
胸が苦しい。
レオン様と街に出た途端胸が《《なにか》》に押しつぶされそうになる窮屈さを感じる。
それはなぜかは分かっている。
これもレオン様が隣にいるから。
私の歩幅に合わせてくれる優しいレオン様。
彼はずっと私を見つめてくれている。
そう思うと胸の鼓動が早くなった。
まるで《《なにか》》に圧迫されて血流が早くなったような感覚。
あぁ、苦しい。
これも全部レオン様のせい。
レオン様が近くにいるからいけないのだ。
◇
さっきからセレスティア様の様子がおかしい。
苦しそうだ。
それに顔も少し赤い。
やはり風邪が治っていないのだろうか。
あれから一週間経つのに、まだ治らないということは風邪じゃない可能性がある。
新しい疫病?
その可能性は否めない。
ここは各国の人々が集まる街。
異国からの病が伝染している可能性がある。
こうなったら治癒の魔法を使おう。
果たして力の弱まった俺にはそれを治せるのか不安ではあるが、やるしかない。
俺は疫病が街全体に伝染している可能性を考慮し、治癒の魔法を広範囲に渡り行使した。
これならあるいは。
しかし、セレスティア様の容態は改善されなかった。
やはり、俺の力は弱まったのだ。
だが安心してください、セレスティア様。
貴女にもしもの事があれば、私も後を追います。
「串焼きですって、レオン様食べましょう」
「いいですね」
危ない提案だ。
あの串焼き、肉汁が溢れてやがる。
俺は一度身をもって体験している。
スープが溢れた時のセレスティア様のおっぱい。
シミが付いてしまったセレスティア様のおっぱい。
トラウマだ。
もはやセレスティア様になにも食べて欲しくない。
俺が【生命永続】のスキルを発動すれば、食事は不要になる。
しかし、果たしてそれはセレスティア様のためになるのか。
食事というのは、生命を維持するための行為だけではない。
あれは味わうことの楽しみだと俺にも理解している。
いや、冷静になれ。
俺はすでにセレスティア様のおっぱいに【多重結界】を張っている。
ならば、心配は無用……と言いたいところだが、今の俺の力は弱まっている。
念の為、俺はさらにセレスティア様のおっぱいの周りを【絶対結界】で包んだ。
安心してください、セレスティア様。
私は身命を賭して貴女を守ります。
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