第4話 海洋都市ヴェナス
海洋都市ヴェナスは、広大な海の中央に築かれた、水と交易の都である。
幾つもの運河と白亜の建造物が織りなすその景観は、人類が誇る叡智の結晶とも言われている。
そしてこの地は、ただの美しき都市ではない。
四年に一度、各国の王や代表者が一堂に会し、人類の未来を決定する国家間会議が開かれる、世界の中枢でもある。
戦争か、共存か。繁栄か、滅びか。
そのすべてが、この海に浮かぶ都市ヴェナスで決まるのだ。
そして、この国の代表者となったのは、聖女セレスティア様だ。
そこで、俺はセレスティア様の護衛として、いま船に乗ってヴェナスに向かっている。
「私も同行してよろしかったのでしょうか……」
セレスティア様のメイド、リリアが呟く。
「もちろんよ、リリア。貴女がいなければ私が寂しいもの」
「ならいいのですが……」
このメイドは俺を軽蔑している。
理由はおおよそ見当がつく。
俺が二度もセレスティア様のおっぱいを守れなかったからなのだろう。
それもそのはず。
勇者ともあろうものが、たかがおっぱいなのに無様な姿を晒したことをこのメイドはきっとがっかりしているのだ。
許しを乞うつもりはない。
俺が未熟だからだ。
かつてエンシェントドラゴンの咆哮から王都を守った俺だが、今回ばかりはだいぶ驕っていたようだ。
未知数。
この一言に尽きる。
セレスティア様のおっぱいはなにもかも俺の想像の上を行っていたのだ。
大きさといい、柔らかさといい、俺が今まで見てきた女性の比ではなかった。
例えるならアリと象。
それほど存在感に差があった。
もちろん、セレスティア様以外の女性のおっぱいに触れたことはないが、任命式の日に感じたあの柔らかさは常人では到底到達できない領域のはず。
だがしかし、俺はもう二度とセレスティア様のおっぱいを危険にさらさないと誓った身。
言い訳はしない。
ゆえにこれから身を引き締めなければならない。
「私、ヴェナスは初めてなので、すごく楽しみです」
「そうなのですか?」
「はい、四年前の国家間会議に出席したのはお母様ですもの。その時、イカという食べ物の土産話をされてすごく羨ましかった記憶があります」
「それは残念でし――ッ!?」
なんだいまの揺れは!?
セレスティア様のおっぱいがぷるんぷるん揺れよった!!
いけない。
会話を楽しんだばかりに、またしてもセレスティア様のおっぱいに傷を負わせてしまった。
俺としたことが――ッ!?
殺気!?
このメイド、俺に殺気を向けているのか?
やはりセレスティア様の騎士としておっぱいを守れなかったことを怒っているのだろうか。
不甲斐ない。
誓ったばかりだというのに、俺はまた失敗してしまった……。
「大丈夫ですか? レオン様。もしかして船酔いでしょうか……?」
「いいえ、なんでもございまちぇん……」
「まちぇん?」
「お気になさらず、ちょっとしたジョークです」
俺としたことが。
悔しさのあまり唇を噛み締めていたら、またしても呂律が回らなかった。
「ならいいのですが……」
「心配してくださり、ありがとうございます」
「そりゃそうでしょう。だって、レオン様は、その……私の大事な騎士様ですもの……」
ふふっ。
こんな情けない俺をまだ騎士と呼ぶのか。
いや、これはきっと二度ならず、三度もセレスティア様のおっぱいを守れなかった俺を、慰めてくれてるのだろう。
なんという心優しきお方。
俺は一生貴女に忠誠を誓います。
「見えてきましたね!」
セレスティア様の視線の向こうに、白き都市が姿を現した。
海の上に築かれたその街は、まるで大地そのものが浮かび上がったかのような威容を誇っている。
幾重にも巡らされた運河と橋は複雑に絡み合い、一つの巨大な城塞のようにも見えた。
白亜の建造物は陽光を受けて眩しく輝き、その光景は、これまで数多の戦場を渡り歩いてきた俺でさえ、一瞬言葉を失うほどだ。
港には各国の船が集い、掲げられた旗はそれぞれの誇りと威信を示している。
なるほど。
ここが、人類の未来を決める地――海洋都市ヴェナスか。
どうやら並の覚悟で足を踏み入れていい場所ではないようだ。
しかし、それより――
セレスティア様のおっぱいが揺れよる。
テンションが上がったのか、無意識に体を小刻みに揺らすセレスティア様のおっぱいは重力に反して高らかに踊った。
いかん。
なんだこのめまいは。
鼻がムズムズする。
風邪か?
この極寒の地でアイスドラゴンと対峙したことのある俺が風邪をひくとは、ますます気が緩んでおる。
「ご心配なく、かならずこのレオン・ヴァルディスが貴女様をお守りいたします」
「……ッ!?」
それは俺自身に言い聞かせる言葉でもあった。
こころなしか、セレスティア様の顔が赤い。
やはり俺の風邪がうつったのか。
情けない。
セレスティア様の騎士だというのに、俺はセレスティア様に迷惑をかけてばかりだ。
だめだ。
ネガティブな思考はやめよ。
ここから何ができるのかを考えるんだ。
俺はセレスティア様に気づかれずに、精力増強の魔法を施した。
これなら明日にでも風邪が治るだろう。
しかし、次の日、セレスティア様の顔はますます赤くなっていた。
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