第18話 封印されし力
大祈祷祭。
聖女を中心として行われる、国家規模の祈祷儀式。
国内のみならず、周辺諸国からも信徒や使節が集うため、その規模は極めて大きい。
参加者は数万。
場合によっては、それ以上。
王都の中央広場を埋め尽くすほどの人員が一斉に祈りを捧げる。
そのすべての信仰が、セレスティア様へと収束する構造。
祈祷の目的は三つ。
第一に、国土全域に展開されている結界の維持と強化。
第二に、外敵の侵入や災害の予防。
第三に、作物の生育や疫病の抑制といった生活基盤の安定。
これらはすべて、セレスティア様の聖力を媒介として実現される。
俺はいま騎士としてセレスティア様の傍に控えている。
これもすべて不測の事態に備えるため。
先日の超遠距離攻撃魔法。
セレスティア様の結界によって無効化されたとはいえ、暗殺者がいるという事実は変わらない。
まして、今は数万人が集まっている場。
何があるか分かったものではない。
俺は【万能感知】を中央広場全域に展開させる。
一人一人の挙動を把握するためだ。
今の俺の力は回復している。
ならばもはや問題はない。
「セレスティア様、始めましょう」
「《《分かりました》》、レオン様」
◇
さよなら、セレスティア様。
そして、さよなら、レオン・ヴァルディス様。
わたしは旅に出るわ。
あなたたちのそばにいるとわたしは自分を見失うから。
どうやらわたしは欲望がないと生きていけないみたい。
今は虚無そのもの。
毎日がつまらない。
幸福感もいつのまにか退屈に塗りつぶされていた。
だから、セレスティア様とレオン・ヴァルディス様が祭壇の上にいるこの時を選んだ。
今なら見つからずに離れることができる。
結局わたしは魔族。
人間とは相容れぬ存在。
楽しかった。
レオン・ヴァルディス様の愛。
いつかまた会えればぜひまたわたしを見つめて欲しい。
さよな――
「―――――――――ッ!?」
身体が熱い!!!!!
まるで《《なにか》》(神聖な力)に焼かれているみたいだ。
なにがあった。
一体どうしてこんなに身体が熱いの。
ああ、分かったわ。
これもきっとレオン・ヴァルディス様のせい。
わたしの身体はレオン・ヴァルディス様から離れることを拒んでいるのね。
苦しい。
熱い。
痛い。
でもそれが――
きもちぃぃ……!!!!!
ああ、この感覚だ。
身体が満たされていく。
薄れていた欲望が呼び起こされる。
これだ。
これがほしかったのよ!!
だめ……!
(かつて魔族を滅亡の淵に追い込んだ)わたしの父に封印された《《あの力》》が目覚める……!!
もうだめだ……!!
あぁ、どうか止めてくれ…… レオン・ヴァルディス様。
◇
なんだ。
このざわめき。
観衆の動きがおかしい。
なぜみんな自分の股間をさすっているのだ。
まさか。
あの男。
ここにいるのか。
俺にかけた呪詛をここにいる観衆にもばら蒔いたのか。
なんと卑劣な。
セレスティア様を暗〇するために観衆を巻き込むなんて。
認めよう。
俺は油断していた。
あの男に勝ったくらいで慢心していた。
なんと執念深い男。
ここまでやるのか。
大規模無差別呪詛。
俺ですら無力化できない呪い。
あれは厄介だ。
股間がむずむずして膨らむという。
拷問のようなものだ。
どうしたらいい。
どうしたらいいんだ。
俺には神聖魔法が使えない。
ゆえに解呪はできない。
しかし。
セレスティア様は今は祈りの最中。
邪魔するわけにはいかない。
一時しのぎのつもりで、俺は観衆全員に反転の魔法をかけた。
◇
俺の名前はナル。
田舎で畑を耕しているただの農民だ。
今日は年に一度の大祈祷祭。
だから、俺は新しい聖女様を一目見るために王都にやってきた。
ああ、なんと美しいお方。
さすがは聖女。
金色の髪に、白い肌。
神聖な雰囲気を纏っている絶世の美少女。
聖女様は祈りを始めた。
その姿はなんと神々しい。
ローブの下にわずかに見える聖女様の足首。
それを見た瞬間。
勃った。
そう、俺のあそこはありえないくらい大きくなっていた。
なんということか、俺は聖女様に欲情していたのだ。
周りを見てみると、みんな同じように膨らんでいる。
女性ですら下半身をさすっていた。
ああ、分かった。
分かったのだ。
これも全部聖女様の(魅力の)せい。
気が付けば、俺も我慢できずに股間に手を伸ばす。
耐えられなかったのだ。
今までと違って、我慢できないほどの強烈な欲望が俺のあそこを襲う。
どんだけ慰めようとも一向に鎮まる気配がないのだ。
なんという魅力的なお方。
その身は純白のローブに包まれているというのに、見たものを魅了するという。
さすがは聖女。
この国を守る至高の存在。
ああ、人々を狂わせる力を持っているのだな。
もう、もう無理だ。
どれだけさすっても全然イけそうにない。
これほど俺の欲望は強くなっているのか。
妻にすらこんなになったことがないというのに。
俺はなんと罪深い男。
妻に愛を誓ったはずなのに、こんなになるなんて。
たった一人の伴侶。
俺たちはずっと連れ添ってきた。
その愛は本物だと思っていた。
妻とは小さい頃で出会―――ッ!?
どうしてだ。
気のせいだと言ってくれ。
俺は指で確かめる。
そして確信した。
ない……。
そう、俺の息子はなくなっていたのだ。
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