06 避暑地のお店
アレクサンダー様が言う。
「それでは、ちょうど良かった。避暑地に店を出そうと思って帰って来たんだ」
ローハン様が眉を上げる。
「ここに?もう店を開けているのか?」
アレクサンダー様が軽くうなずく。
「少し早めですが、開けています。街並みに馴染ませたいと思いまして、暇つぶしの道具が多いですが、気軽な物ばかりです」
それから、こちらを見る。
「よければ、一緒に見に行きませんか」
わたしは思わず夫人の方を見る。
「ミネルバ、行ってらっしゃいな。いつもマーガレットと一緒ですもの。たまにはね」
「ミネルバ行ってきてください。叔父様の店、わたしも気になります!」
わたしは少し戸惑った。
「よろしいですか?」
助けを求めるように三人を見る。
ローハン様も、夫人も、マーガレットも、やさしくうなずいた。
「案内してやりなさい、アレク」
「お任せください。お兄様」
――店は、避暑地の小さな通りにあった。
木の看板に白い壁。
中に入ると、ほのかにコーヒーの香りがした。
「カフェもあるのですね」
「避暑地は時間がゆっくり流れますから、コーヒーを飲みながら、その流れを楽しんでほしくて」
店の中には棚が並び、いろいろな品が並んでいた。
色のついたガラスでできた小さな箱。
見たことのない形の道具は、レースを編むのだそうだ。
思わず棚に近づく。
「かわいい物が多いですね。これは?」
わたしが手に取ったのは、細い木の箱だった。
「東の国の手仕事です。からくりです」
その隣の棚は刺繍した布が蓋に貼ってあった。
蓋を開くと、そこにも丁寧に布が張ってあった。
「思い出を入れると説明されましたが」
アレクサンダーが笑う。
「髪飾りや小物を入れる箱ですね」
「細かい仕事ですね」
思い出。戻ってこないもの……
ふと別の棚に目が止まる。
小さな瓶が並んでいた。
光を受けてきらきらしている。
「これは?」
アレクサンダーが少し楽しそうな顔になる。
アレクサンダーが言う。
「コロル国のインクです」
瓶を一本手に取った。
中の色がゆらりと揺れる。
「いろいろな色が、次から次に出てくるんですよ」
「おぉ、なんと」
思わず声が出た。
瓶を光にかざす。
深い青の中に、少しだけ紫が混ざっているのが見えるが、なにか捉えられない色が見える。
こんなインク、見たことがない。
思わず言ってしまう。
「……これが欲しいものです」
アレクサンダーがうなずいた。
「二種類ありますので、どちらも贈ります」
わたしは驚いて振り向いた。
「え? でも」
アレクサンダーが静かに言う。
「ミネルバ嬢は初めて選ぶということをやりました」
そして、少しだけ笑った。
「次は、欲しい物を贈ってもらう番です」
意味が一瞬わからない。
「贈って……?」
思わず笑ってしまった。そして心から言った。
「ありがとうございます」
インクの瓶をもう一度見つめる。
胸の奥が、少しだけ温かい。
「嬉しいです。早く書いてみたい」
そう言うと、自然に笑顔になっていた。
「見つけて、選べました。わたしも贈ることができました」
アレクサンダーは目を細めた。
◇◆◇◆◇
贈る楽しみを、初めて味わいました。
アレクサンダーは、そう思った。
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