05 欲しいもの
お二人が来てから、乗馬は五人の日課になった。
乗馬から戻った朝食の席。
空腹のわたしは、オムレツを美味しく食べていた。
ふいに、アレクサンダーが言う。
「ミネルバ嬢、欲しいものはありますか」
突然の質問に、わたしは少しだけ戸惑った。
「欲しいもの……ですか?」
夫人がくすりと笑う。
「アレクはよく人にそんなことを聞くのよ」
マーガレットが身を乗り出す。
「ミネルバはきっと本が欲しいと思います!」
わたしは苦笑する。
「本はもう十分持っています」
アレクサンダーが興味深そうに
「では、何が欲しいのですか」
少し考えてから答える。
「……わたし、欲しいものを考えたことが、今まで一度もなかったのかもしれません」
テーブルが少し静かになった。
ローハン様が面白そうに笑う。
「それは珍しいな」
わたしは首をかしげて
「いままで、必要なものは家が決めていましたから」
アレクサンダーがじっとこちらを見る。
「では、これから考えればいい」
青い目が少しだけ笑って、続けた。
「欲しいものを」
欲しいものをこれから考える。欲しいもの。
こんな単純なことをやったことがないって……
だから地味って言われていたのね。と納得した。
「困ったな。商人としては初めての試みだ。欲しいものを考える」
マーガレットが目を輝かせる。
「叔父様の商会にはすごいものがたくさんあるんですよね?」
アレクサンダーが少し笑う。
「まあ、いろいろありますよ。それなりに手広くなってますから」
それから、わたしに視線を戻した。
「宝石でもドレスでもない。では何でしょうか。考えるお手伝いをさせてください」
少しだけ考える。
けれど、うまく言葉が見つからない。
「そうですね……」
パン皿の上に視線を落としながら言う。
「欲しいもの、というより」
少し迷ってから続けた。
「……自分で選んだものを、持ってみたいんです」
マーガレットが首をかしげる。
「ミネルバ、いままで選んでこなかったんですか?」
わたしは苦笑した。
「服も宝石も、だいたい母が決めていましたから」
夫人が静かにうなずく。
「まだまだ、そういう家は多いわね」
アレクサンダーはしばらく黙っていた。
それから、少しだけ楽しそうな顔になる。
アレクサンダーが言う。
「では」
テーブルの上に指を軽く置いた。
「ひとつ、選んでみませんか」
マーガレットがわくわくして、わたしとアレクサンダー様を見ている。
青い目がまっすぐこちらを見る。
「わたしの商会には、いろいろあります」
ローハン様が笑った。
「商売を始めたぞ」
夫人も楽しそうに笑う。
「朝食の席で営業する人を初めて見たわ」
「ミネルバ、選ぶ練習です」
とマーガレットもノリノリだ。
わたしは少し困ってしまったけど、なぜか、嫌な気はしなかった。
自分で選ぶ。
その言葉が、胸の奥で小さく響いた。
「はい」
わたしは少し考えてから言った。
「やってみたいです」
アレクサンダーは、静かにうなずいた。
「ゆっくりでいい」
その声は、なぜか少しだけ嬉しそうだった。
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