01 やっぱり妹ね
午後のサロンは、いつものように静かだった。
丸いテーブルの上には、香りの良い紅茶と小さな焼き菓子。窓の外には、初夏の庭が広がっている。
向かいに座るのは、わたしの婚約者テリウス。そして、その隣には妹のフローラがいた。
この席の並びは、いつからだろう。
最初は偶然だった気がする。
けれど今では、まるでそれが当然のようになっていた。
「お姉さま、このお菓子おいしいですね」
フローラが嬉しそうに言う。
その声は、母によく似ている。柔らかくて、人の気持ちをほどくような声だ。
「そうね」
わたしは紅茶を口に運びながら答える。
テリウス様が笑った。
「フローラ嬢は甘いものが好きなのですね」
「はい。テリウス様は?」
「わたしも好きですよ」
二人の会話は、軽やかに続いていく。
わたしはその様子を眺めながら、カップをそっと置いた。
特に不思議なことではない。
妹が同席する茶会など、社交ではよくあることだ。
それでも、なぜか胸の奥に小さな違和感が残る。
お茶会が半ばを過ぎたころ、フローラが立ち上がった。
「わたし、町に買い物に行きたいので、これで失礼します」
「それなら、わたしが付き添いましょう」
フローラが振り向く。
「買い物ですけど……」
「かまいません。ご婦人の長い買い物には慣れております」
ここでわたしがこう言うのを期待されているのね。
「テリウス様、お願いしてよろしいですか?」
テリウス様は迷いなくうなずいた。
「もちろんです」
フローラはぱっと顔を明るくした。
「ありがとうございます」
わたしはその様子を見ながら、軽くうなずく。
「楽しんできて」
フローラは嬉しそうに手を振った。
そして、テリウス様と並んで部屋を出ていく。
その背中を、わたしはしばらく見送っていた。
夕食に少し遅れてフローラは戻って来た。
フローラは上機嫌だった。
「お姉さま、お土産があります」
そう言って小さな箱を差し出す。
開けると、透明な水晶が付いた銀の髪飾りが入っていた。
「きれいね」
「でしょう?」
フローラが嬉しそうに笑う。
「テリウス様が買ってくださったの」
そのとき、父がふと気づいた。
「フローラ、その首のネックレスは?」
フローラは少しだけ照れた顔をした。
「これもです」
ネックレスは、髪飾りよりずっと豪華だった。
「いつも楽しく過ごせるからって、お礼に買ってくださったの」
母が微笑む。
「まあ、よく似合っているわ」
わたしは髪飾りを箱に戻す。
そして、静かに皿の料理を口に運んだ。
数日後の夜会。
最初のダンスは、もちろん婚約者と踊る。
それは大切な礼儀だ。
音楽が流れ、テリウス様が手を差し出した。
「ミネルバ」
「はい」
わたしは手を重ねる。
踊りは問題なく終わった。
けれど、次の曲が始まるころには、テリウス様はもうフローラの隣にいた。
二人はダンスを終えると、賑やかな一団に囲まれた。
「この前楽しかったね」
「またあの店に行こうよ」
「二人はお似合いなのになぁ」
「ほんと、息ぴったりじゃん」
「だけど、テリウスには婚約者がいる。だから僕にしなよ。優しいよ」
笑い声が広がる。
誰かが大声で言った。
「これが新しい時代だよ!」
彼らは遠巻きにされている。少しだけ冷たい視線で見られているが気が付いてない。
わたしは壁際に立って、その様子を見ていた。
わたしはテリウス様を愛していない。婚約者として大切にしたいと思っていたが、その思いもなくなった。
それでも、胸の奥が静かに冷えていく。
音楽は続き、笑い声も続いた。
そして、次の茶会。
その席には、両家の人間がそろっていた。
父と母。
テリウス様の両親。
空気は妙に静かだった。
テリウス様のお父様が咳払いをした。
「本日は、婚約について話があります」
わたしは背筋を伸ばす。
テリウス様は、ゆっくりと口を開いた。
「ミネルバ嬢との婚約を解消し」
その視線が、フローラへ向く。
「フローラ嬢と婚約したいと思います」
全員がわたしを見ている。
どんな反応を期待しているの?
紅茶の香りが、やけに強く感じられた。
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