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第6話 黒猫はただの猫ではない。

選択の前に、

知ってはいけないことを知ってしまう夜。

これは、ただの黒猫と、

ただの高校生の物語りではなくなった日。

第6話 黒猫はただの猫ではない。


目が覚めたのか、

それとも、ずっと起きていたのか。

よく分からないまま、俺は天井を見ていた。


鉄格子の中は、ひどく冷たい。

時間の感覚がない。

昼なのか夜なのかも、分からない。


1196号室。


番号だけが、やけに現実的だった。


「……なあ、クロ」


足元を見ると、

黒猫のクロはベッドの上で丸くなっていた。

赤いしっぽだけが、ゆっくりと揺れている。


「さっきさ……」


喉が少し乾く。


「世界線がどうとかって言ってたよな?」


クロは、すぐには答えなかった。

しっぽの動きが止まる。


「……お前さ、なんか知ってるんだろ?」


沈黙。

そして、低い声がそっと返ってきた。


「知っている」


やっぱりか。

俺は起き上がり、クロを見つめた。


「世界線って何だよ。世界の役割って何だよ。

……なんで、俺なんだよ」


クロは、目を閉じたまま言う。


「お前の選択によって、世界が歪む。

だから違う世界線から…お前を救いに来た」


……は?


意味が分からない。

猫と話している時点で、もう正気じゃないのかもしれない。


「お前……よくそんな嘘を……」


俺が言い終わる前に、クロが口を開いた。


裕之(ひろゆき)。お前は、これから失敗する」


胸が、どくんと鳴った。


「……失敗?」


クロは、俺を見なかった。


「選ばなかった世界。選べなかった世界。

選ばされた世界」


一つずつ、噛みしめるように言う。


「おまえはすべて失敗する選択をする。」


背中が、ぞわりと冷えた。


「……おい、クロ。何を言って…」


「おまえは間違えるんだよ。人生を。」


きっぱりと言われる。


「お前が”また同じ選択”を

しないように”観測”しに来ただけだ。」


クロは、ゆっくりと目を開けた。


その瞳は、猫のものじゃなかった。

人間よりも、ずっと澄んでいて、

そして、ずっと疲れていた。


「なんだ?まだわからないのか?」


「…もう、分からないことだらけだよ…

なぁ、クロ……分かってることがあるなら

ちゃんと、全部教えてくれよ……」


「お前は、これから自分を捨てる。」


心臓が、嫌な音を立てる。

クロは、しばらく俺を見つめてから言った。


「オレは、お前が選んだ未来の姿だ」


頭が、真っ白になった。


……は?


「正確には」


クロは視線を逸らす。


「選んだ事によって、

失敗して、役割を放棄した未来の姿だよ」


言葉が、うまく出てこない。


「それって……」


「勇者にもなれなかった。

魔王にもなれなかった。」


クロの声は、淡々としていた。


「進路調整局の”アイツ”に負けて、

何も決めれなくなったただの器。」


嫌な想像が、頭をよぎる。


「…アイツ?器?クロ…何を言ってるんだ?」


クロは、すぐには答えなかった。

赤いしっぽが、床をなぞる。


「世界は、壊れなかった」


続く言葉で、息が止まる。


「だから、誰も救われなかった」


胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。


「勇者は終われなかった。

魔王も終われなかった」


「世界は、また回り続け、呪いは続いていく。」


クロは、俺を見た。


「お前だけが、唯一、世界を変えられるのに。」


意味を理解するのに、時間がかかった。


「……俺が、世界を?」


「世界の異物、つまり特殊個体として

卒業と同時に世界に排除されてしまった。」


クロは言い直す。


「だから、今おまえはここにいる」


喉が、ひくりと鳴る。


「…じゃあ一体…俺は何者なんだよ」


思わず聞いてしまった。


クロは、首を横に傾げる。


「さぁな。」


「さぁな。って……お前は俺を救いに来たんだろ。」


「……そうだが?」


猫に助けを求める姿は滑稽だ。

俺は…ただ、普通に…


「ただ、普通に暮らしたかっただけなのにな?

えらい目にあったよな、裕之(ひろゆき)。」


一気に、寒くなった。


「もういい。これから、俺はどうすればいい?」


クロは、静かに言う。


「選べば、失う」


一拍。


「でも選ばなければ、お前は、失敗する。」


1196号室が、急に狭く感じた。


俺は、膝を抱える。


「…だから、どうすんだよ。」


「この状況が鍵だ。」


……へ?


クロは、ぴょんと飛び跳ねて

牢屋みたいな部屋をぐるぐるしている。


「少なくとも、三回ループしたけど……」


「こんな牢屋に

入れられたことは、はじめてだぜ?」


沈黙。

やがて、クロが言った。


「世界の分岐が始まった…」


「……。」

俺はただ、

クロを見ながら話しを聞くしか無かった。


「だが、時間がない」


クロは、鉄格子の方を見る。


「もうすぐ、進路調整局の連中は答えを取りに来る」


「お前の選択が、世界を変える。」


赤いしっぽが、ゆっくり揺れた。


「それを忘れるな。」


「クロ……俺は、俺はただ、、」


クロは、目を閉じる。


「その選択が、オレの未来になる」


俺は、息を吐いた。

クロを見つめる。

ただの猫なのに。


「…クロ……。」


「なんだ?」


「お前は俺なんだよな?」


クロは、少しだけ笑った。


「そうだが?」


即答だった。


「迷っててもしかない。

選ぶか、選ばれるか、選ばされるか、」


その言葉が、胸に深く沈んだ。

俺は、天井を見上げる。


1196号室。

ここが、分岐点らしい。


黒猫は、ただの猫ではない。


そして、

俺も、もうただの高校生じゃない。


だから、決めよう。


「クロ、俺は決めたよ。」


クロは笑顔でしっぽを振る。


「あぁ、言ってみろ。」


クロは嬉しそうに、

床に座りながら裕之(ひろゆき)の方を見る。


「俺は……俺は……」


ごくりと息を飲む。


「俺は勇者にも魔王にも、なりたくない!!」


突然、叫んだ声が以外にも大きく響いてしまった。


「ひ、裕之(ひろゆき)!!話を聞いていたのか?」


クロはびっくりしてしっぽが逆立っている。


「決められた役割をこなして、

失敗して口悪猫になるなんて、俺は嫌だ!」


「おぃ!口悪猫ってオレのことか?!」



「お前が俺になるなら、

俺は俺になるのをやめる!!!」





……はぁ??




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


黒猫の正体はまさかのオレ!!


次回は、決断前夜/1196号室

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