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第5話 俺はどうしたらいい?

勇者と魔王、二つの道を示された裕之。


選ばなければならない世界。

選べば、何かを失う。

迷いの中で、初めて「選ぶこと」

そのものと向き合う。

第5話 俺はどうしたらいい?


青の間を出てから、

どれくらい時間が経ったのか分からない。


進路調整局の廊下は、

相変わらず長く、静かだった。


病院みたいで、役所みたいで、

どこか現実に近い。


ただ、椅子と床だけが動いている……。


俺は、魔王と話した。

頭の中が、ぐちゃぐちゃだ。


先輩たちが、勇者と魔王。

どちらも、知っていた人物で……


選ばされる人生。選ぶ人生。

どれも、俺の知っている「進路」じゃない。


椅子が止まり、

いつの間にか最初の部屋に戻っていた。

書類の山。スーツ姿の男。

進路調整局。


「……で?」


男はペンを回しながら、淡々と聞いてきた。


「お気持ちは、整理できましたか?」


できるわけがない。


「勇者になれば、世界を救える。

魔王になれば、世界を滅ぼせます」


男は、まるで商品の説明みたいに言う。


「どちらも、あなたに適性があります」


適性。

その言葉に、少し苛立った。


「……俺は」


声が、思ったより低かった。


「俺は、ただ普通に生きたかっただけなんです」


男は、何も言わない。


「大学に行って、就職して、

失敗しないよう、目立たないように

生きたかったんです。」


そう言うと、胸の奥が痛んだ。


「それって、そんなにダメなんですか」


男は、少しだけ考えてから答えた。


「ダメではありません」


でも、と続く。


「あなたには、それ以上が“できてしまう”」


それ以上?

それ以上できてしまう?


こんなにも重たい言葉だとは思わなかった。


足元で、クロが静かに座っている。


「クロ……」


名前を呼ぶと、赤いしっぽが揺れた。


「黒猫?あなたのペットですか?」


男はクロに気づき、少し眉をひそめる。


「……クロは……」


(ペットだと言え)


クロが、静かに言った。


「はい。俺のペットです。

なんだか、一緒に連れてきちゃったみたいで。

あはは……」


男はため息をついた。


「ここはペット禁止なんですがね……

まあ、あなたは特殊ですから」


(だから特殊は困るんだ……)


小声で何か言っていたが、よく聞こえなかった。


「害がなければ構いません。

最後まで、きちんと連れて行ってくださいね。

……ここに居座られても困りますし」


「ミャ〜おーん……」


鈍い声を出すクロに、思わず笑いそうになる。


(笑ってんじゃねぇぞ、裕之(ひろゆき)


低い声が頭に響いた。

しばらく沈黙してから、男が話を戻す。


「特殊のあなたは、勇者か魔王。

どちらかの二択しかありません。

早く決めるといい」


俺は、ぽつりと呟いた。


「なんで、勇者と魔王しか選択肢がないんですか?」


クロは俺の膝に飛び乗り、丸くなった。


「勇者とも魔王とも面談しました。

役割を果たし続ける限り、終わらない。

そんな人生が待っていると分かっていて、

誰がその道を選ぶんですか?」


男は、また、ため息をついた。


「あなたは特殊で、世界の異物です。

何にでもなれる存在は、危険なんですよ」


俺は、言い返した。


「俺が選んだら、誰かの人生が終わるんだろ?」


勇者を選べば、魔王は終われない。

魔王を選べば、勇者は終われない。

どっちを選んでも、誰かを踏み越える。


「世界の役割がどうとか……

俺には関係ないじゃないか……」


裕之(ひろゆき)、やめろ)


クロの声は冷たかった。


(この状況じゃ、前と同じだ。

また、やり直しになる)


何を言ってるんだ?


クロの言葉の意味が、分からない。


「世界は、誰かの選択で成り立っています」


男は静かに言った。


「私も…誰かが代わってくれれば、

役割を果たしたことになる。」


沈黙。


「あなたには、

特殊という才能があります。何にでもなれる」


男は視線を伏せる。


「そんな存在が、世界に何人もいたら……

世界は壊れてしまう」


「何人も……?」


男は咳払いをして、話題を切った。


「話しすぎました。

とにかく、黒野裕之(くろのひろゆき)くん。

勇者か魔王か、選んでください」


(だから、あいつらが…あの世界に…)


頭の中が、うまく整理できない。

クロもなんだかソワソワ、もごもごと囁いている。


男が、急に慌ただしくなった。


「と、とりあえず、今夜は部屋を用意します。

明日までに決めてください」


「え、ちょっと——」


「PAN!PAN!お部屋へご移動、レッツゴー!」


次の瞬間、椅子が動き出した。


「うぉぉぉ!早くない!?」


俺はクロを抱きしめる。

(にゃああ、苦しぃぃ!離せ!)


進路調整局は広い。

病院なのか、学校なのか分からない。

だけど、誰にも会わない。

俺だけしかいないのか?


高速で進んだ椅子は止まり、

鉄格子の前で停止した。


「1196番のお部屋です」


男の声が、アナウンスの用に上から流れてくる。


クロが、俺を見た。


(よし……世界線が変わってる)


俺は、部屋と言う牢屋を前で、たたずむ。


「部屋って…これじゃ、牢屋じゃないか」


次の瞬間、椅子が急に動き、

俺とクロを中に放り投げて去っていった。


「痛ってぇ……椅子のやつ、優しくしろよ」


いつの間にか、

スーツの男が鉄格子の前に立つ。


「最終判断は、明日までです」


紙が一枚、投げ込まれた。


勇者 魔王


たった二文字。なのに、重い。


「丸を付けて、そこのポストへ。それでは」


男は去っていった。

長い廊下。

足音が、遠ざかる。


俺は、ベッドに倒れ込んだ。


「……なあ、クロ」


(なんだ)


「俺はさ……俺をやめた方がいいと思う?」


クロは、少し間を置いた。

赤いしっぽが、ゆっくり揺れる。


(それは……お前が決めるんだ)


その言葉が、今までで一番、重かった。


俺は……


俺は、どうしたらいい?

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


答えは、まだ出ていません。

けれど、選ばないままでは進めない。


次は、黒猫はただの猫ではない。

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