第2話 進路調整局
受験に失敗した裕之は、
突然“進路調整局”と名乗る場所へ呼び出される。
そこで告げられる、
彼の「次の進路」とは。
第2話 進路調整局
目の前の男は、書類の束を軽く揃えてこちらを見つめていた。
まるで高校の二者面談のように、
どこか重たい空気が漂っている。
「改めまして、黒野裕之さん。
ここは、高校受験に失敗した方々が転送される
“進路調整局”です」
男は一枚の紙に視線を落とした。
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名前 黒野裕之
年齢 18歳
学年 高校三年生
進路第一希望 一般大学
進路第二希望 就職活動
進路第三希望 特になし
パラメータ 特殊
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淡々と読み上げられる資料。
だが、最後の一行が、なぜか胸の奥に引っかかった。
「……パ、パラメータ?」
思わず口に出た。
「はい。裕之さんが記入された、希望調査表を基に算出されたものです」
男は否定も肯定もせず、事務的に続ける。
「我々は“進路調整局”。
あなたの人生が、この先どこへ進むかを確認し、
必要であれば、再配置を行う所です」
再配置。
その言葉の意味を考える前に、
足元で黒猫が静かに座り直した。
紅いしっぽだけが、ゆっくりと揺れている。
「……再配置って。
俺は……受験に落ちたんですよね?」
喉の奥の違和感を押し殺しながら言う。
「はい。不合格です。
正確には、このパラメータでは適合しなかった、
という判断になります」
合わなかった。
その言葉は、
“不合格”よりも、ずっと冷たく響いた。
「あなたは、安定を選んでいました。
それ自体は、決して間違いではありません」
男はそう前置きしてから、
次の書類をめくる。
「ですが、この世界には、
安定だけでは成立しない領域があります」
机の上に置かれた二枚の紙。
片方には、剣を持つ人影。
もう片方には、玉座に座る影。
「現在、あなたに提示できる進路は二つです」
男は、淡々と告げた。
「 ”勇者”と”魔王” です。」
……は?
言葉が頭に届くまで、数秒かかった。
「ちょっと待て!」
俺は思わず机を指さす。
「なんでいきなり、
そんな極端な話になるんだよ」
「あなたのパラメータが、そう示していますので」
男は即答した。
「ある世界では、勇者が不足しています。
また別の世界では、魔王が不足しています」
不足?魔王が、不足。
意味が分からなすぎて、
逆に冗談にも聞こえなかった。
「……俺が?勇者か、魔王?」
喉が、ひくりと鳴る。
「俺が、そのどっちかに向いてるって?」
男は初めて、俺の目を見た。
「はい。少なくとも……“普通の人生”より、
ずっと“充実した人生”になるでしょう」
その瞬間、胸の奥が、ぎゅっと縮んだ。
普通じゃない。
安定した人生じゃない。
冗談じゃない。そんなの絶対嫌だ。
そんな言葉が、頭の中をぐるぐる回る。
「即答する必要はありません」
男は、変わらない調子で続けた。
「これから面談を行います。
本物の勇者と本物の魔王と。」
……は?
これで何回目の“は?”だろうか。
本物の勇者?冗談じゃない。
俺は、ゆっくりと息を吐いた。
「……はぁ」
視線を落とすと、黒猫がそこにいた。
相変わらず鳴かない。
相変わらず、何も言わない。
「おい、黒猫……どうなってるか。
教えてくれよ……」
問いかけた言葉は、返ってはこない。
黒猫は、ただこちらを見上げている。
まるで、早く答えを出せと。言わんばかりに。
「では次、勇者との面談を」
男は書類に、ポン、と判子を押した。
「黒野 裕之さん。
あなたの次は、勇者との面談です。
“赤の間”へお進みください」
その言葉を聞いたとき、
なぜか分からない不安が、胸を締めつけた。
ここから先は、きっと戻れない。
俺の人生……終わったな。
安定した人生を、普通に送りたかっただけなのに。
勇者と面談だと?
……ありえない冗談だ。
意味が分からないまま、
俺の座る椅子は静かにスライドし始めた。
“赤の間”と書かれた扉まで。
黒猫と共に……。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次回、
勇者との面談。




