第13話 獣人
「お次はウルフさんか…」
もう日が落ちて夜になった今、落ちている木の棒を集めて魔法で火を起こしてそのまま寝落ちしようかと思ったが、クロエの警告で起こされて今に至る。
目の前には五匹いる、俺の身長と互角くらいの大きさのウルフだ。
魔石だろうか。 目が、俺が起こした火の光を反射させてギラギラと輝いている。
「ウルガァ…」
そのウルフたちは俺のことを見つめながらもゆっくりと移動し、最終的に俺のことを囲うことに成功する。
動いているときに攻撃するのでも良かったが、普通にタイミングを見失った。
何やってんだ俺。 まぁでも、このまま一斉に来てもらった方が戦いやすい。
ウルフたちが攻撃するのを待っていると、ひんやりとした風が木を煽った。
その木が壁になってくれているのか知らないが、俺には寒さなんて微塵も感じない。
そして近くにある火もなにも動揺せずにチリチリと燃えている。
そのままウルフたちは一呼吸をし、そして――
「ウルガァァァァァ!!!」
俺に襲い掛かってくる。
「シュンッ!」
「…?」
まぁ流石にそのまま囲まれて一斉に攻撃を受けるというのも俺の体が持たない。
だから魔法で足を強化し、襲いかかってくるときに地面から足が離れたところを逆手に取って、そこから滑って避けた。
そのまま滑って火の横にあった、俺が背もたれにしようとしていた木に足を置いて、同時に――
「ジュッッ!!」
魔法で水を出して火を消した。
戦う前にクロエから話は聞いていた。
ここらへんにはウルフが多いこと。そしてそのウルフらは寝込みを襲って殺そうと考えているやつらが多いらしい。
そして一番の弱点が、光に弱いこと。
一応夜に活発化するから暗いところが好きだったり、得意だったりすることが多い。
けど実際は光を求めて彷徨うっていることが発覚し、だから火の光だとかでどこに人がいるかがわかるらしいのだ。
光には非常に敏感で、数百メートルの距離でも光を見つけることが可能なんだとか。
光を見つけてなにをするのかは知らないし、なんでそういう実験結果と言うか、世紀の大発見みたいなことをクロエが知ってるんですかね…とも思ったが、案外この世界にいる人たちは誰もが知っていることなのだとか。
まぁそんなことは一度置いて戦闘に戻ろう。
火を消したことによって光がなくなったこの状況で、多分ウルフたちはすぐに俺を探して殺そうと考えるだろう。
でも人間の目と同じで、一度明るくて急に暗くなったら明るい方に目が慣れているからすぐさま暗い場所が見えるって言うわけじゃない………と思う。
クロエにはなにも伝えてないし、自分で考えているときにもクロエからなにも指摘がなかったから本当にあってるかどうかはわからないけど。
まぁだから、一応目くらましにはなるということだ。
「ボッッッ」
ウルフたちの目が回復するまでの時間を使って俺は体を立て直し、そしてまた、自分の魔法で火を起こした。
でもさっきみたいに木の棒に付けて燃やすというわけではなく、俺の手の上で燃えているような、そんな感じ。
うん、少しだけ右手が熱いけど火傷するほどでもない。 終わったら治癒魔法でもかけてやる。
「ウルガァァァァァ!!!」
そんなことを考えている隙にウルフたちは「見つけた!」と言わんばかりに俺に襲いかかってくる。
火の光か俺かどっちなのかは考えないとして、俺はジャンプして襲いかかってくるウルフ一匹一匹にその火を”あげて”やった。
「キャオン!!キャオン!!!」
まぁ案の定毛皮が燃え、さっきまでの恐ろしかった声は弱まっている。
「グサッ」
そのまま俺は苦しませないように素早くトドメを刺してやった。
「こんな感じで終わりか…」
『おいリセル、まだ終わってないぞ』
「…?」
そのまままた木の棒に火を付けようと右手を近づけたらクロエがそう言葉を挟んだ。
俺は必死に頭を振ってその残っているウルフを探そうとするが、暗くてあまりよく見えない。
右手で前を照らしたり横を照らしたりとか色々とするが、最終的にウルフは残っていない。
俺は殺したウルフたちを一度見てみる。
一匹、二匹、三匹、四匹………確かに、一匹いない。
俺は剣で刺したところから血が流れているウルフに手を当てて、脈が打っているか確認しようとしたその瞬間――
「ウガァァァァァ!!!!」
「!?」
「………いってぇぇぇ!!」
そのまま俺の右腕をウルフが噛んだ。
「くっそ」と、一瞬油断したことに対して怒りを覚えながらも俺は腕を噛んでいるウルフを振り払った。
瞬時に俺は治癒魔法で噛まれたところを治癒し、威嚇しているウルフを見てみる。
『リセル、畳み込むぞ!』
「………いやっ!」
魔法の火で照らしてみると、そこには、さっきのウルフたちとは違う、人間の形をした、でも頭からウルフの耳のようなものがぴょこんと出ているウルフ、いや………
『獣人、か…』
「そうっぽいな…」
一応ウルフと一緒に居て俺に敵対心があるように見える。まぁさっき腕を噛んできたからな。
悪いけど、ここで仕留めさせて………と思いながら剣を構えると――
『待てリセル!』
「!?」
クロエが止めた。
『その獣人、負傷している!このままリセルと戦うと死ぬぞ!』
「は!?なんでそんなこと見て一瞬でわかるんだよ!」
『良く見てみろ!!』
その時、また噛みつこうと俺を目掛けて一瞬で飛び掛かってくる。
「剣が心配だが………!」
歯をチラつかせて噛もうとしているその獣人の前に剣を出した。
でも流石にそのまま噛ませると口の中が傷つくと瞬時に判断できた。 だから、剣をくるっと回転させて持ち手を噛むように仕向けた。
勿論握ったのは刃。
痛いっちゃ痛いがこれくらい治癒魔法で何とかなる。
そして良く体を見てみると…
「………まじか」
折れているのか捻挫なのかは良くわからないが、足首が変な方向に曲がっている。
そして服、というか布で良く見えないが、腕とかも傷だらけだ。
その獣人は口の力を緩ませて地面に立ち、また一瞬にして俺から距離を取る。
俺はその隙に手を治癒で治し、そのまま剣を放り出した。
獣人に言葉が通じるのかがわからないけど、やってみるしかない。
「大丈夫だ!俺は攻撃なんてしない!」
「………?」
俺は両手を上にあげて、獣人に安心してもらおうと言葉を放った。
一瞬頭の上に?を浮かばせるような表情をしたが、すぐに警戒モードに入ってしまう。
ふむ、どうすればいいんだ。
幸いにも襲ってはこない。ずっと警戒しながら俺を見ているが、傷のせいだろうか。
日本の犬のような感じで手なずければいいのか? いや俺犬のこと見たことすらないぞ。
ってか獣人と犬は全然違う生物だろ。なんだか獣人好きの人に「差別」だのなんだの言われそうだ…
と、その瞬間――
「………キャオン」
「バサリ」
その獣人は倒れた。
◇ ◇ ◇
「やっぱだめか」
『流石にもう死んでいるぞ』
俺は倒れた獣人を治癒魔法で治療し、近くにあった湖で寝かせてやった。
すごい傷だった。体中に傷があって、足は捻挫していた。 骨折じゃなかったところが少しだけ安心だけど、どっちにしろ痛いのは変わらない。
また戦闘態勢に入るかもしれないが、流石にこのままだと死ぬ可能性があるし、多分倒れるくらい動いていたなら起きても疲れて体を動かせないだろうと考え、体を全部治癒させてもらった。
あ、体は見てないよ? そりゃ見たかったけどクロエがいるし、なんてったって体に触れなくても治癒はできるからね。
治癒してる時に、今度は「チッ」と舌打ちみたいなのが聞こえたんだけど、多分それも幻聴。うん。
そして今はその獣人を湖で休ませながら、一緒に居たウルフたちも治癒させようと試みた。
だが、流石に獣人を湖で運ぶのに時間を使い過ぎたのかもう死んでいて、治癒はできなかった。
ナイツのネスもこういう状況に陥らせたが、あの時はまだ死ぬ寸前だったから治癒できたのだ。
あのまま放置していたら確実に死んでいただろう。
っと、説明はここまでにして、俺も獣人と同じように寝ましょうかね。
今日は色々なことがあって疲れた。 しかも旅ということもあってめっちゃ歩いたし。
まぁそれも醍醐味みたいなものだけど、やはり疲れるものは疲れる。
いったん休憩………
俺はそのまま就寝した。
が、獣人が起きるのは結構早かったようで………
「ん、重い」
『おいリセル!早く起きろ!!』
「…なんだよクロエ、もうちょっと寝かせろ………」
『いいから起きろって!!』
俺が目を開けるとそこには、まぁなんと美しい顔があり、赤い短髪、ショートかな?が流れていた。
んでなんということに、俺の体の上に乗っかっている。
「ん………」
一瞬見て、耐えられるわけもなく………
「うわぁぁ!!!」
俺はその獣人を吹っ飛ばした。
◇ ◇ ◇
「おかわり!」
「おぉおぉもっと食え食え!」
『はぁ…』
俺はアイテムボックスに入れてあるゼプトスさんからもらった飯を、魔力で温めてこの獣人にあげる。
そうしたら、その手で、さっきまで俺の腕を噛んでいた口で、その飯を食っていく。
うんうん、良い食べっぷりだ。見てるこっちも気分がいい…
「って、どういうことだよ!!!」
「…?」
この獣人が目を覚ました時、俺の上に乗っかってる時に、お腹が空いたと言わんばかりに「ぐぅー」と腹の虫を鳴らした。
寝ぼけているのか良くわからないが、何も躊躇いなく普通にアイテムボックスからゼプトスさんに貰った飯をその獣人にあげてしまった。
そしたら案外この獣人、結構良い食べっぷりするからつい三杯程度あげてしまっていた…
その行動を思い返し、「俺の貴重な飯………」と思いながら、俺もアイテムボックスからその飯を取って魔力で温めて、その獣人と一緒に口に運ぶ。
「まぁ別に一人で食べるよりかはいいか…」
『一応毎回一人ではないがな…』
うん、普通に美味い。 そう思いながら味を噛みしめ、飯を頬張っていると…
「うっんっっ、」
その獣人が喉を詰まらせたのだ。
「…ふ、はははっ!!」
俺はその光景に耐えられなくて、吹き出してしまった。
「そんな急いで食わなくても、飯は逃げていかないよ」
「で、でも…」
「大丈夫、まだたくさんあるから」
俺が微笑みながらそう獣人に水とまたゼプトスさんの飯を渡すと、パァっと顔が明るくなってまた食い始めた。
「お前、名前は?」
「…」
「ラティア、ね。 わかった
俺の名前はリセルだ」
◇ ◇ ◇
「お前、このあとどうするんだ?」
飯が食い終わってひと段落したときに、俺はそうラティアに聞いた。
一応あの傷のことも聞きたいけど…多分ラティアが獣人だから、もう大体の理由はわかる。
だから、まず自分がどうしたいのかを聞きたい。
「私…は………」
沈黙してしまった。
まぁこれからのことなんてわからないよな、今までウルフたちに…って………
「そ、そういえば…」
「…?」
くそう、修羅場になるのが目に浮かぶ…
聞いた方がいいのか?聞かない方がいいのか?…いやでも気づいてないから自覚させた方がいいのか…?
と、俺が悩んでいるとクロエが口を挟んだ。
『多分だが、聞いても大丈夫だと思うぞ』
『…?なんでよ』
『まぁ説明するのも面倒くさい、聞け』
『えぇぇぇ…』
なんだよ言っといて面倒くさいって…
まぁいいや、クロエの言葉、信じるぞ!
「えーっと、あの一緒に居たウルフたち…って、一体何者だったの…?」
一体何者ってなんだよ一体何者って。
親以外に何もないよな?そうに決まってるよな?
もう最悪だよ………
ラティア!煮るなり焼くなりしてくれ!!!
「あぁ、あのウルフたち?
あいつらは、ご飯になる獲物を狩る思ったからついてったけど…」
「あ、え?」
「私、あんなに傷ついてたけど戦えたからね
リセルがいなくて獲物を普通に捕まえていたら私が全部倒してたよ?」
あ、ほえー、そうなんですか。
いや、俺の躊躇いを返せよ。 減るもんじゃないけどさ…
俺はため息をついて、魔法で水を生成してそれを飲む。
全部飲んだら一息つき、またラティアに聞く。
「それで、どうするんだ?」
「………」
ラティアはまた沈黙する。
と、その瞬間に湖から出てくるような形で太陽が出てきた。
元々そこが明るくなっていて、また歩かないといけないから休むことはできないなとは思っていたが、こんなに早く夜明けが来るとは。
一応休むことも選択肢の中にはあるが、ラティアにも食べさせた通りご飯が少ない。
多分早く行かないと持たないだろう。
まぁそんな感じで、非常に都合が良い。
俺は「よいしょっと」と言いながら重たい腰を上げて、ラティアに言い聞かせるように話す。
「一応言っておくが、俺は、”今”、ラティアを助けるようなことはしない
しないと言うか、できないのだ
今は助けたが、多分ラティアが考えているよりも、遥かに難しい願いだと思う」
なんだか、この状況前にも見たな。
まぁあの時は「自分で解決しろ」と言ったが、多分今回はできないだろう。
あの時も「できない」と思って言ったけど、今回はまた別。
しかも一人。獣人族みんなで手を合わせたって、できない可能性のほうが高い。
あまり無責任なことも言いたくないからな。 まぁ今までは普通に言ってきたんだけどよ。
「ラティアには多分、俺が自分より強い存在だと見えているはずだ
だから、こいつにはできるのかもしれない、とも思っているはずだ
でも俺はそんな膨大な力を持っていないわけだし、頼れる存在もない
悪い」
ラティアにそう伝えると、しょぼんとした顔で地面を見つめている。
「でも、助けたいとは思っている」
「…えっ?」
俺はそんなラティアの前に行き、説明を続けた。
「俺が旅に出た理由は、誰かを守るため、誰かを幸せにするためなんだ
ラティアのように、理不尽に自分の故郷を、自分の大切なものを取られたりとかされたら、流石に話を聞いている俺でも腹が立ってくる
まぁ最も、ラティアは何も話してないんだけどさ」
ラティアはそのまま俺を見ながら、真剣に話を聞いてくれていた。
そのまま俺は続ける。
「でも誰かを幸せにするということはまだやったことなくてさ、経験不足なんだよ
確かに俺はラティアより強い。 けど強さだけが幸せを掴めるわけじゃないと思うんだ
だから、”今”は、助けることができないんだ」
「うんうん」と頷きながら俺の目を見つめてくるラティア。 めっちゃ可愛いけど、口には出さずにまた続ける。
「…まぁ、奴隷だったのなら街の情報だとかは知らないと思うし、一度街に行ってみることにするよ
最初から行く予定だったけどね」
「わかっ………わかりました」
また少しだけ沈黙するが、俺はアイテムボックスから金貨三枚程度を取り出し、ラティアに渡した。
「ここからずっとあっちに行ったら街があるから、そこで冒険者ギルドと言う場所を探して、そこで受付嬢をしてる人に『リセルお兄さんの知り合いです』と伝えて、えーっと…」
俺はそこら辺に生えている草に魔法で文字を書いた。
書くというよりも、文字が浮かび上がるようにそこを燃やしただけだが。
それを半分に折り、手に持ちやすいようにさせて、ラティアの手に持たせた。
「これを渡してくれ」
「…?、わかりました」
少しだけ戸惑った表情をしたラティアだが、まぁ理解してくれた。
そのまま下ろしていた腰を起こし、
「リセルおにーさん、ありがとうございました!」
と、言いながら俺が指差した方向に向かっていった。
『良かったのか?助けると宣言してしまったけど』
「実際、ラティアみたいな人を助けるために旅を始めたんだ
後押しと言うか、『誰かのためにならないか』と提案したのはクロエだろ?」
『まぁ、それもそうだな』
絶対助けるという確証はないが、全力を尽くしたい。
街のことなんて行ったことないからわからないし、どんな理由があって獣人の街を攻めたのかも知らない。
だから、そこらへんも含めて知る必要がある。
頑張らないとなぁ、と、自分の中で言い聞かせるような感じになった。
また一つ、前に進んだ気がした。
ラティアの背中が、森の奥に小さくなっていく。
俺はしばらく、その場から動けなかった。
『……行くのか?』
「行くよ」
そう答えた自分の声が、思ったより低かった。




