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第10話 決意

「ウガァァァァァ!!!」


 俺はアクレスさんの言葉を聞いた瞬間に冒険者ギルドから飛び出し、魔法で足を強化して急いでその異変が起きている場所へ行った。


 良く見てみると、スライムが数十匹と、ゴブリンも数匹、あと奥にさっき大きい呻き声を出した、ちょっとだけ大きいゴブリンが一匹、って感じだな。

 こんなに少ないし、剣も鞘から抜いた感じクロエから貰ったのと同じっぽい。そしてこいつらは魔法を使わないで物理攻撃で来るから防具もあまり意味ないだろう。

 なんだか、新しい武器の晴れ舞台なのに…って感じだな。 ごめんよ。



『リセル!来るぞ!!!』

「わかってる!」



 そう考えてる隙に、ゴブリンが持っている木の棒で素早く振りかかってくる。



 シャキンッッ!!



 まずその木の棒を握っている両手を切り落とす。

 瞬時のことで良くわかってないゴブリンが腰を落とすと、後ろからまたゴブリンが木の棒で振りかかってくる。



 剣がまた刃毀れしそうだけど、俺は木の棒に剣を刺し、そのままくるっと回転して俺の周りにいるゴブリンの顎目がけて木の棒を入れる。



 ドゴォォォ!!



 ちょっと強さが足りなかったかとは思ったが、体が倒れて動けてないからまぁ結果オーライ。

 ゴブリンはこれで殲滅完了。あとはスライムだな。



 一瞬どう倒すかを考え、足をまた強化して、一度スライムがいるこの場所から一歩引く。


 うーん、結構スライムの量多いし、一か八かだけどやってみるか。


 スライムがいる場所をじっくり見て…



 ピュンッッッ!



 草の間とかにある多少の砂を小さく固めて、数十匹いるスライムの魔石にヒットさせる。



 カキンッッッ!!

 ポチャッ



 その瞬間に目の前にいたスライムの魔石は全部破壊され、個体だったスライムは液体化した。



「よいしょっと、あとは、あいつか」



 俺は刺した木の棒を剣から外し、剣を握り直した。

 そして奥にいる、さっきのゴブリンより少しだけ大きいゴブリンに目を付けた。

 なんかこのゴブリン腰引けてね?まぁいいか。


 その瞬間に強化していた足を使ってゴブリンの目の前に素早く行き、そのまま…



 グサッッッ!!!



 胸を貫いた。



 ◇ ◇ ◇



「いやぁ、倒した倒した…」


 俺はスライムの魔石の破片と、ゴブリンの耳、そしてボスっぽいやつだったゴブリンの頭を冒険者ギルドに持って行った。

 そのまま受付のアクレスさんに渡すと、びっくりした表情で「お、お疲れさまでした…」と引かれた。

 ナンダヨ、すぐに向かってくれって言ったのはそっちなのに…

 まぁでも引かれるのも無理はないかぁ、ちょっと悲しい。


 依頼の報酬は受け取って、そのまま俺はゼプトスさんの店に行って飯を食い、そのまま疲れたと言わんばかりに宿に直行した。


 剣はそこら辺に置き、防具はハンガーに掛け、今はベッドに突っ伏している状態である。



 今日は色々と疲れた。

 防具を買って、それを試しに行ったってだけだけど、オーク一体よりかはスライムとゴブリンがどっちも多くいるほうが個人的に疲れる。

 オークと戦ったときは、それこそ折れた剣に魔力を込めて、纏わりつかせて、と、色々と魔力を使うことが多かったからあんな生死を彷徨っていたんだろうけど、剣が折れてなかったり、今日みたいに魔力の総量が多かったらあんま疲れることはなかったかなー

 まぁでもどっちにしろ疲れる。だって体を全力に使って戦うんだもん。


 そんなことを思いながらも少しずつ眠気が襲ってくる。

 だが、クロエはそんなのを気にしないで話しかけてくる。


『なぁリセル』

「おいおい今いいところだったのに…」


 そんな嫌な感じで言ったが、俺はクロエとなんとなく話したかった。

 戦ってる最中も最初しかクロエは忠告しなかったからな。

 まぁ多分だけど、俺が後ろにいる敵にも気がついていたから、忠告はしなくてもいいだろうみたいな、そんな感じだろうか。


 クロエは俺が放った溜め息をもろともせずに話し続けた。



『リセル、戦闘で魔法を使えるようになったよな』


 咄嗟の判断でその攻撃がスライムに入るとは思ってなく、あと結構な量のスライムに攻撃を入れたから魔力不足で気絶するかなとも思っていた。

 けど、何回も言うけど、この世界の魔法は「イメージ」が大切だ。

 やりたいことが細部までイメージできて、かつそれ相応の魔力があれば、魔法を繰り出すことができるのだ。

 だから俺が繰り出した魔法がスライムに直撃して倒せたのだろうと、そう思った。


「まぁなんか、ゴブリンを倒したときもそうだけど、一匹一匹剣で斬り殺すことはできても、集団で来られたら流石に剣で一回振り下ろしたとしても倒せないじゃん

 周りに居たゴブリンはまずまず剣で倒してないし

 だから戦闘は、何事にもイメージが大切だと、なんとなく実感してるよ」


 俺が急に真剣に話し始めたからなのか、クロエは「そ、そうか」と続きを話したくならない返答をした。

 俺も眠かったしよかった。このまま寝ようかな………


 その瞬間――




『リセル、旅をしないか?』




 俺がそう考えた瞬間にクロエが言葉を放った。

 まぁクロエは実態がないのだけれど、それだけ「覚悟をした」、みたいな、力強い声で俺に言ってきたのだ。


「旅って、急にどうしたよ」


 俺は「帰るべき場所」が欲しい。

 暖かい空気に包まれていて、疲れが合ったとしても一瞬で吹き飛ぶような、そんな家が欲しいのだ。

 だから旅なんて今まで考えたことがなかったのだ。


 クロエはそのまま説明を続ける。


『リセルは強くなれる見込みがある。 それこそ経験を積んでいって魔力を増やしていったら魔王ももろともしない力が宿るだろう』


「そんな力を持って何になるっていうんだ?」


 クロエには悪いけど、俺は旅なんてしたくない。

 ここアークトでもいろんなことができるし、なおかつ「帰るべき場所」をここで作ったほうが効率がいい気もする。

 防具を買ってお金があんまないかもだけど、このまま行けば冒険者ランクがAに上がるだろうし、お金だってそれ相応の報酬は得られるだろう。

 まぁクロエに「強くなれる見込みがある」とか言われちゃったもんだし、その上を目指そうかなとか思ったり思わなかったり…?



『まぁそれもそうだ

 強い力を持ったところで、魔王を倒したところで、平穏な毎日は変わらないし、逆にリセルを取ろうとする輩はいっぱいいるだろう』


 クロエは俺の考えを肯定した。

 だけど、そのまま説明を続けた。



『でも考えてみろ。 そのリセルの力を使って誰かを幸せにできるとしたらどうする?』



 クロエの言葉にちょっとだけ憧れた。

 こんな強い力を持っていたって、魔王を倒したって、なにも変わらない。

 だったら他のことにその力を使って、誰かを幸せにしようとクロエは言いたいのだろう?


 でも俺はそれと同時に不安が押し寄せてくる。


「でもこんな前世でいじめられて、幸せじゃなかったやつが誰かを幸せにさせるなんてできるわけ…」



『できるだろ』



 俺が考えたことを否定するかのように、クロエは続ける。


『リセルは幸せになりたい。 他の人も幸せになりたい。 多少、この世界の住人は幸せな人が多かったとしても、幸せじゃない人も多いと思うのだ

 しかもリセル自身も幸せになりたいと思うなら、目的が一緒だろ?』


 ぐうの音も出ずに食らい続けている俺に対して、クロエはまた話し続ける。


『言っておくが、ここアークトは”通過点”だ

 魔物も狩り尽くされていてスライムやゴブリンしか居ない

 ダンジョンに潜るという方法もあるけど、まだリセルはそこまで戦闘が上達しているわけではないし、アークト近くにダンジョンは無い


 リセルが目指してるランクAも、帰るべき場所も、ここでは作り上げることができない。ということだ』



 はっきりと言われてしまった。

 確かにクロエの言うことも理解できる。アークト近くの森とかは強い魔物だったり強いダンジョンだったりは無い。

 だから今みたいにポンポンとランクが上がるわけではないだろう。 なんだか軽く見ていた。

 ランクを上げるために、その都度たくさん歩いてダンジョンに向かうっていうのも気が引ける。

 まぁランクを上げたいがために冒険者をやっているわけではないけど、実際ランクが上がらないと報酬が安定しない。


 それとして、クロエがこう言うということは、多分この世界には前世の俺と同じ人がいるのかもしれない。

 いじめだとか、前世みたいに学校があるのかはよくわからないけど、それ以外の問題も抱えている人が多そうだ。

 俺の持っているこの強さが、そんな人に使えて、幸せにすることができるのなら。

 この力を極めて、誰かに使って、その誰かを笑顔にさせることができるのなら。

 そう考えたら、俺はここにとどまって自分の幸せを作るためにいるよりも、”みんなと幸せになる”ほうが良いのかな。


「な、なるほど?」


『でも何をするにあたって、あたしがなにか指図して無理やりやらせるということはしない

 あたしの体はリセルの物になったわけだし、なにをするのもリセルの自由だ』


 あんま”物”という言葉で捉えないでほしいと個人的に思ったのだが、それも言えてしまう。

 でも最終的にクロエがこの世界に俺を呼んでくれたんだぞ?クロエにも人権というか、そういう物があるとは思う。


 そんなことを考えてるときにクロエは「もう寝るぞ」と言葉を挟んだ。

「クロエって寝るっていう概念があったんだ」ってさっきの話を振り返らずにそう答えると、「目をつぶってるってだけなんだけどな」と一言言って、そこから返答は途絶えた。


 クロエも疲れてると思うし、俺がなにか思うたびにクロエの睡眠を邪魔してしまうと思ったからそのまま寝ようかと思ったが、やっぱり俺は戸惑っていた。

 別に旅をするのも悪くはなさそうだ。クロエが言うように俺の力を必要とする人がいると思うし、魔王を倒すとかアークトにとどまって自分の力を誰にも振るえないで過ごすとか、そんなのよりも誰かのために振るえる力のほうがよっぽど良い。


「作るより探す。みたいなものなのかな」


 思わず声に出たが多分そういう意味なのだろう。

 勿論作るほうが簡単だし効率もいいが、探すほうは自分だけじゃない、多くの人も幸せになれる可能性がある。

 それか、「探しながらみんなの幸せにする」というのもあるのかもしれない。

 やばいそっちのほうがめっちゃメリットあるじゃん。


 まぁそんな風に戸惑っていた俺だが、最終的に眠気に襲われて眠ってしまったのだった。




 ◇ ◇ ◇




 今日は考え事をしながらぼーっとして、でも依頼を最終的にこなして一日を過ごした。

 そんなこんなで今は、アークト近くの森で腰を落として休憩している。


 綺麗な夕焼け。光が当たってかすかに温かい。

 でもそれと同時に風が体に当たって、寒くも温かくもある、ちょうどいい天気だ。


 依頼は、またゴブリン討伐と、スライム討伐。

 この世界に来た時のように、タイムリミットが迫ってきてると思うのが普通だが、アクレスさんに言ってちょっとだけ時間を増やしてもらった。

 ただでさえモンスターを倒すだけの依頼だし、そこまで早く依頼を終わらせて早く報酬をもらうというのも面倒くさいからな。


 あと戦ってる時に思ってしまった。

 まぁ悪くはないとは思うけど、クロエが言うように強い魔物とは戦えないし、これだとランクも自分の力も伸ばすことができないと自分の体で実感したのだった。



「やっぱ、旅をしたほうがいいのかなぁ」



 別に旅をしたくないわけではない。昨日の夜考えたようにメリットはたくさんある。逆にデメリットを探そうとしても探せないくらいだ。

 あの小説の中の主人公も旅をしながら自分の力を高めていったんだっけか。異世界での旅は醍醐味みたいなものだしな。


 あ、あと武器の話もあったな。

 てんちょーが言うには、ここ、アークトから南に数カ月行って、その間に『メルニス鉱物』というやつが埋まってるからそれを取ってからその鍛冶屋に行けばいいんだっけか。

 まぁクロエには申し訳ないけど、こんな剣じゃ消耗品になりかねないからな。まぁクロエからもらった剣は折れてしまったんだけれども。


 うーん、どうしようか。

 クロエの話を聞く限り、もうどっちでも良くなってきたし、逆に旅をしたほうが良い気もしてきた。

 強くなれない、だとか、俺が望んでる「帰るべき場所」を探す、だとか、「俺の力で幸せになれる人がいるかもしれない」、だとか、それこそ剣だとか。

 いろんな理由があるし、それらは全部メリットだ。

 でもなぁ、なんとなく、その”第一歩”を踏み出すことができない。


 うーん。




 いや、もういいや!なんだか考えるだけでも面倒くさい!


 俺はその瞬間に立ち上がって、落ちていく夕日を見ながらクロエに伝える決意をした。




「クロエ」


『どうした?』



「旅をすることに決めた」



『そっか』



 俺が決意を示したのと同時に、それを全肯定してくれるような甘い声で囁くクロエの姿が、そこにはあった。

 なんだか、前の俺の頭の中にいたクロエと同じ感じみたいな、とにかくかわいい。


 周りから見たら一人で喋って一人で赤くなってという、いかにも変態がやるような行動を繰り返していた俺だが、顔をぶんぶんと横に振って、正気を保つ。


「これから、よろしくな」


 俺がそう言うと、クロエはまた甘い声でこう言う。



『こちらこそっ!ふふふっ!』


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