掌圧の余白に灯る湯気
プロンプト
登場人物:整体師 50代 男性
扉の鈴が、一度だけ鳴る。
この店は一度きり。二度目はない。
五十代の整体師の男性が、静かに入ってくる。
白衣の匂いが、ほんのりと残っている。
カウンターに、個人認証カードが差し出された。
――
職業:整体師
年齢:50代
性別:男性
長年の施術歴あり
口数少なめ
――
「店長、読み取り完了です」
サポーターの男が、義手でカードを滑らせる。
「ありがとう。店長、この方の“手”を料理にします」
整体師は椅子に腰掛ける。
『ここは……食事をするだけの場所か?』
「はい。ですが、店長は身体の奥の“こわばり”も、ほどく料理を出します」
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《掌圧の白味噌ポタージュ》
白味噌をベースに、ゆっくりと圧をかけるように裏ごしした里芋。
低温で蒸した鶏ささみを、繊維に沿ってほぐし、静かに沈める。
仕上げに黒胡椒を、指圧の点のように三粒。
「店長、この一皿は“長年の手”です。強く押さず、でも芯に届く温度で」
サポーターの男が、湯気を確かめる。
整体師は、スプーンを持つ。
『……柔らかいな。だが、芯がある』
「あなたの施術のように」
湯気が、ゆっくり立ちのぼる。
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しばらくして、店長は次の皿を出す。
《骨格標本の香草ロースト》
骨の形に整えたレンコン。
ローズマリーとタイムで香りを立て、オーブンで静かに焼く。
添えるのは、ほうれん草のピュレ。身体の土台を支える緑。
「店長、骨は支えるもの。でも、固めすぎると動けません」
『……患者も、無理をする。痛みを我慢する』
「店長、この皿は“余白”です。レンコンの穴は、呼吸のため」
サポーターの男が、小さくうなずく。
整体師は、ゆっくり噛む。
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最後の一皿。
《緩解の黒胡麻プリン》
黒胡麻を丁寧にすり、蜂蜜で角を取る。
固めすぎず、揺れる程度の柔らかさ。
「店長、あなたは毎日、人を整える。ですが、ご自身は整っていますか?」
整体師は、少しだけ目を伏せる。
『……整える側は、後回しだ』
サポーターの男が、義手を静かにテーブルに置く。
「店長も同じです。支える者は、時に誰かに支えられるべきです」
黒胡麻プリンが、静かに揺れる。
整体師は、最後の一口を飲み込む。
『……身体が、軽い』
「それは胃袋だけではありません」
店の灯りが、少しだけ柔らかくなる。
整体師は立ち上がる。
『ここは、もう来られないのだな』
「はい。この店は一度きりです」
『……それでいい』
扉の鈴が鳴る。
店長は静かに皿を下げる。
「店長、今日も一人、整いました」
サポーターの男が微笑む。
「次の一度きりを、待ちましょう」
湯気だけが、まだ残っている。




