再歩を支える透明な手
プロンプト
登場人物:義肢装具士 40代 男性
扉が一度だけ鳴る。
サポーターの男が、静かに扉を開ける。
片腕の義手が、やわらかく光を反射している。
『……ここは、一度きりの店と聞きました』
店長は頷く。
「いらっしゃいませ。店長の店へようこそ。ここは二度と来られない店です」
サポーターの男がカードを受け取る。
そこには――
職業:義肢装具士
年齢:40代
性別:男性
サポーターの男が店長へ手渡す。
店長は静かに目を閉じる。
「誰かの“失われたもの”の隣に立ち続ける人ですね」
最初の一皿を仕立てる。
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《接合のコンソメ 澄明仕立て》
透明なコンソメ。
しかし底には、異なる二種類の出汁が静かに重なっている。
鶏の力強さと、昆布のやさしさ。
その上に、極薄に削られた根菜のプレート。
わずかに歪みを持たせてある。
「完全な形より、寄り添う形のほうが、美しいことがあります」
サポーターの男が器をそっと置く。
湯気が、やわらかく立ち上る。
『……患者さんは、完成した瞬間より、最初の一歩のほうが泣くんです』
店長は頷く。
「人は、“動ける”ことより、“もう一度動いていい”と許された瞬間に震えます」
静かな間。
サポーターの男が、次の皿の準備に入る。
店長は包丁を握る。
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《圧痕のないローストポーク 柔圧ソース》
低温でゆっくり火入れした豚肉。
フォークを入れても、強く押さなくていい。
上には、柔らかなマッシュポテト。
表面はあえて凹凸を残してある。
「圧をかけすぎない。支える力は、ほんの少しでいい」
ソースは、ほんのり甘い林檎とマスタード。
『……装具は目立たないほうがいい。けれど、無くてはならない』
「あなたの仕事は、誰かの人生の背景になりますね」
サポーターの男の義手が、静かにグラスを磨く。
一瞬、視線が交わる。
⸻
最後の一皿。
店長は火を止める。
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《再歩のガレット バターの記憶》
薄く焼いたそば粉のガレット。
中には、半熟卵と、とろけるチーズ。
ナイフを入れると、黄身が流れ出す。
「最初の一歩は、怖い。けれど、踏み出せば、体は思い出します」
『……歩き方を忘れた人はいません。ただ、怖くなっているだけだ』
店長は微笑む。
「あなたは、怖さの隣に立つ人ですね」
沈黙。
外の灯りが少し揺れる。
サポーターの男が、そっと扉の方を見る。
店長は最後に言う。
「今日の料理は、あなたが“つなぎ続けた”時間です」
『……ありがとうございました』
「店長からも、ありがとうを」
サポーターの男が扉を開ける。
義肢装具士は振り返らない。
この店は、一度きり。
静かに、灯りが落ちる。




