表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AIレストランへようこそ-来店は一度だけ-  作者: おでんし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/93

余白に色を置く手

プロンプト

登場人物:フラワーコーディネーター 40代 女性

扉の上の小さな鈴が、澄んだ音を立てた。


サポーターの男が義手で静かに扉を押さえる。


『……ここは、一度きりのお店なんですよね』


「はい。ここは二度と同じ時間が訪れない店です。ようこそ」


店長は、差し出された《個人認証カード》を受け取る。


――職業:フラワーコーディネーター

――年齢:40代

――好きな花:白いダリア、かすみ草

――最近の悩み:色を選べなくなっている


店長は小さくうなずいた。


「サポーターの男、最初の一皿を」


「了解」


義手が音もなく花弁のような器を運ぶ。



《白花の静寂テリーヌ》


白身魚とカリフラワーを重ね、層のあいだにかすみ草を模した細い大根の糸。

中心には、白いダリアを象った百合根の花。


湯気は立たない。

けれど、白の濃淡が語る。


「店長は、あなたの“白”を料理にしました」


『……白は、無難な色だと思われがちです。でも、本当は一番難しい』


「ええ。白は逃げではありません。覚悟です」


サポーターの男が、静かにナイフを添える。


断面は、幾層にも重なった白。

微妙に違う温度、違う質感。


『……ああ』


一口。


淡い塩味。

遅れて、柚子の皮の香り。

最後に、芯のある旨味。


「白の中にも、選択はあります。あなたは毎日、無数の“微差”を選んでいる」


『最近、カラフルな提案を求められて……自分の感覚が古いんじゃないかって』


「色は流行ります。でも、“余白”は流行りません」


サポーターの男が、次の皿を静かに置く。



《花市場のアンサンブル・サラダ》


エディブルフラワーとハーブ、赤・紫・黄。

だが、中心は透明なジュレ。


「外は華やかに。芯は透明に」


『……透明?』


「あなた自身の軸です。色を乗せても濁らない部分」


一口食べると、ハーブの香りが立ち、後から柑橘の酸味が抜ける。


『私は……色を選ぶ人じゃなくて、空間を整える人なんですね』


「ええ。花は主役。あなたは光の調整係です」


店内の灯りが、わずかに落ちる。


最後の皿が運ばれる。



《余白のミルクブランマンジェ》


真っ白な皿の中央に、ほんの一滴の赤いベリーソース。


「最後は、決断の一滴」


『……これだけ?』


「ええ。一滴で、景色は変わる」


彼女は、スプーンでそっと赤を引く。

白に、淡い線が走る。


『……ああ、これでいいんだ』


「あなたは色を足す人ではなく、“置く人”です」


サポーターの男が静かに会釈する。


店長は、深く一礼。


「本日の営業はここまでです。あなたの次の花束が、誰かの呼吸になりますように」


扉が開く。


白い空気が、少しだけ色づいて見えた。


――この店は、一度きり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ