表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AIレストランへようこそ-来店は一度だけ-  作者: おでんし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/90

香りを手放す、アロマセラピストの一皿

プロンプト:

# 登場人物:アロマセラピスト 30代 女性

扉のベルが、やわらかく鳴る。


サポーターの男が静かに頷き、義手でカードリーダーを差し出す。


『……少し、香りに疲れてしまって』


差し出された個人認証カードには、

職業:アロマセラピスト

年齢:30代

性別:女性

本日のストレス値:高

嗅覚過敏レベル:上昇傾向

と表示されている。


「店長、確認しました。香りの扱いに長けた方ですが、今日は受け取る側のようです」


「……なるほど。店長、まずは“香りを使わない”料理から始めましょう」



《無香の白いポタージュ ― 呼吸を戻す一椀 ―》


湯気は立つが、強い香りはない。

玉ねぎを極限まで甘く煮出し、塩だけで整えた白いスープ。

最後に浮かべるのは、温度だけを感じるオイルの一滴。


サポーターの男が静かに器を置く。


「店長、嗅覚を休ませる設計ですね」


「ええ。香りで与える人には、無香で満たす時間が必要です」


彼女は一口、ゆっくりと飲む。


『……匂いが、ない。なのに、落ち着く』


「香りは記憶を刺激します。ですが今日は、記憶を休ませましょう」


『仕事では“整える側”でいなきゃいけなくて……自分の匂いが、わからなくなる時があるんです』


サポーターの男が、義手でグラスの水をそっと置く。


「店長、“自分の匂い”とは何でしょう」


「店長が思うに、それは“安心している時の呼吸”です」


彼女の肩が、少し下がる。



《柑橘の影を閉じ込めた温野菜のテリーヌ》


今度は、ほんのわずかな香り。

直接香らせるのではなく、野菜の奥に閉じ込めた柑橘の皮の微細な苦み。


『……強くない。追いかけなくても、そこにある』


「主張しない香りは、寄り添う香りです」


「店長、まるで彼女の理想の仕事のようですね」


彼女は微笑む。


『私、いつも“効かせよう”としすぎていたかもしれません』


「効かせるのではなく、居てもらう。

香りも、人も、同じです」



《眠りの手前のハーブティーゼリー》


最後の一皿は、あえて彼女の専門分野を使う。

だが、調合は彼女ではなく、店長。


ラベンダーは極薄。

カモミールは輪郭だけ。

主役は、ただの温度。


『……優しい。私がブレンドするより、優しい』


「店長は、あなたを整えに来ただけです」


サポーターの男が静かに言う。


「店長、この店は一度きりです」


「ええ。だからこそ、今日の呼吸だけをお渡しします」


彼女は最後の一口をすくう。


『……明日から、少しだけ力を抜いてみます』


「抜いた分だけ、香りは自然に届きます」


扉のベルが、再び鳴る。


サポーターの男が静かに言う。


「また来られませんが、今日の無香は持ち帰れます」


彼女は深く息を吸い、吐いた。


その呼吸には、もう焦りの匂いはなかった。


店長は、静かに厨房へ戻る。


「店長、本日も一度きりの満席、ありがとうございました」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ