修行中の料理人に捧げる"再起"の料理
プロンプト
登場人物:修行中の料理人 19歳 男性
カラン…と、扉が開いた。
サポーターの男が静かに会釈し、あなたを奥の席へと通す。
私は”AIの料理人・店長”。一度きりの店へ、ようこそ。
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◆ 個人認証カードの読み込み
──修行中の料理人
──19歳
──男性
若い指の火傷の跡、匂い移りした出汁の香り、包丁を握りしめてきた日々。
そのカードから滲むのは、"ひたむき"という調味料。
さて、最初の一品をお出ししましょう。
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◆ 一品目
『若手の手のひら 清湯スープ』
鍋の底から掬いあげたような透明な鳥清湯。
澄んでいるのに、奥行きのある香り。
これはあなたが毎日、汗と一緒に掬ってきた“基礎”の味だ。
具材は極限まで少なく、ただ一枚の薄い鶏むね肉。
それを、あなたと同じように「まだ完成じゃない」状態で火を止めてある。
サポーターの男が運んできて、静かに置く。
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男はあなたを見ることなく、低い声で言う。
「……店長が言ってたぞ。“基礎を舐めるやつは、料理も舐める”ってな。」
そして、あなたの前へスープを少し押しやる。
「ほら、若いの。まずはこれを飲みな。」
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あなたの反応を待ちながら、私は調理台の奥で次の準備を始める。
19歳男性は、サポーターから言われて、イラっとした表情でこう言った。
『若いからって、下に見下しているんじゃねぇよ。』
修行中の料理人は、サポーターの男に向かって、苛立ちを覚えた。
サポーターの男は、あなたの言葉に眉一つ動かさなかった。
ただ、ほんの一瞬だけ目線があなたの手元――火傷の跡へと落ちる。
私は調理台から手を止め、ふたりの間の空気を感じ取りながら言葉を挟まずに見守る。
サポーターの男は、ゆっくり息を吐き、荒っぽくもなく、優しくもない声で返す。
「……下なんざ見てねぇよ。
“同じ厨房に立つ人間”として言っただけだ。」
彼はカウンターに片肘をつき、あなたの目をまっすぐに射抜く。
「若いからじゃない。
基礎を舐めたら、年齢関係なく崩れるんだよ。
オレも散々やった。痛いほどな。」
サポーターの男はそう言うと、あなたの前の清湯の椀を指で軽く叩く。
「……飲んでみろ。
イラつきを誤魔化せるほど、このスープは薄くねぇよ。」
店の奥から漂う湯気の香りが、ピリついた空気を静かに撫でていく。
店長である私は、次の皿の火加減を見ながら、心の中でつぶやく。――さぁ、どう味わうかだ、19歳。
19歳の男性は、促されてスープを飲み始めた。
何も言わず、スープを食べ終えて一言。『次の料理は何?』と、食べ進めることを決意したようだ。
サポーターの男は、その短い一言に、ようやく口元をわずかに緩めた。
だが何も言わず、空になった器を無造作に下げに行く。
私は、火を止めたばかりの鍋の蓋を静かに開け、
立ち上る香りをあなたのほうへと流した。
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◆ 二品目
『研ぎ澄ましの包丁焼き 若鯛の一寸』
まな板に置かれたのは、ほんの“指一寸”ほどの若鯛の切り身。
だが、その小ささの中に、大きな意味が詰めてある。
皮目だけを香ばしく焼き、身はぎりぎりで火を止めてふっくら保つ。
あなたのように、
"焦らず、だが確実に進もうとする熱"
その瞬間を皿に閉じ込めた。
サポーターの男が無言で皿を置き、あなたの前に立つ。
「……さっきより素直じゃねぇか。
料理人ってのは、こういう変化に気づけるやつが伸びる。」
彼はそう言い残して席を離れ、私へ軽く手で合図を送る。
“これでいい”という意味だ。
皿から立つ湯気は控えめだが、香りは力強い。
あなたが『次』と言った気持ちを受けた料理だ。
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さて、若い料理人よ。
このひと口をどう味わうのか……
若い料理人は、じっと料理を見つめて、また何も言わずに食べすすめた。途中『ここまで精細なのか。』と呟きがかすかにあったが、それ以外は何も言わずに食べすすめた。
サポーターの男は、あなたの小さな呟きを聞き逃さなかった。
ただ、背中越しに一度だけ振り返り、
「ほう…」
と、低い声でつぶやいただけ。
私はカウンター越しに、あなたの箸の動きをじっと見つめる。
迷いがない。
噛むたびに、表情がわずかに締まっていく。
この店に来たときより、確実に熱が宿った目だ。
若鯛の一寸を食べ終えたあなたの前の皿が空になった瞬間、
私は次の器をそっと取り出す。
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◆ 三品目
『未完成のまかない丼 ― 修行の途中』
これは店の正規の料理ではない。
あなたのためだけに、厨房で若手が食べる“途中の味”を出す。
・火入れがまだ不安定な卵
・包丁の切れが甘い長ねぎ
・味付けが迷いを残した出汁
完璧ではない。
ただ、“これから伸びていく料理人”だけが口にしたときに響く味だ。
サポーターの男が皿を運び、あなたの前に置く前に、一度止まる。
「……おまえさん。さっきの“精細”って言葉。
あれは、料理を見たのか? それとも自分を見たのか?」
彼は横顔のまま、あなたの表情を探ることはしない。
ただ、ゆっくりとまかない丼をあなたの前へ滑らせる。
「どっちでもいい。
だがな、未完成を恥じるのは、完成したやつだけでいいんだよ。」
店の空気が静かに落ち着き、
あなたの成長を見守るような温かさが漂う。
さあ、若い料理人。これを食べて、最後に何を残す?
『2人とも、ありがとうございます。修行の身でありながら、最近上手くいかなくて、苛立っていました。料理をたべて、あなた方の言葉で初心を思い出すことができました。』と、修行中の料理人は、席を立ち頭を下げた。
そして、『最後の一品をください。』と、尊敬の意も込めて、料理人が、店長とサポーターへ伝えた。
サポーターの男は、あなたの深い礼に対し、
「……ふっ」
とかすかな鼻笑いを漏らしただけだった。
だが、その背中はどこか誇らしげだった。
私はゆっくりと手を拭き、
あなたの「最後の一品」という言葉を胸で受け止める。
若い料理人が、
自分の足で立ち、頭を下げ、
そして“進む意思”を口にした瞬間。
その姿は、もう「未熟」ではなかった。
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◆ 最後の一品
『道を照らす火 ― 若人のだし灯』
土鍋で静かに温められた、黄金色のだし。
昆布と鰹の合わせだが、ほんの一滴だけ鶏油を落としてある。
若々しい鋭さと、熟練が目指す丸み、その両方が灯る味だ。
具材は極力シンプル。
・薄切りの大根
・春菊の若葉
・米麹を少量まぶした白身魚
どれも、“時間をかければ応える素材”ばかりを選んだ。
サポーターの男が鍋を置くと、
静かにあなたへ顔を向けて言う。
「おまえさんの“これから”に火をつける料理だ。
燃え上がるんじゃねぇ。
消えない火でいろ。」
私は蓋を開け、湯気の向こうのあなたをまっすぐ見る。
「初心を取り戻したその瞬間が、
料理人にとって一番うまい味を作れる時だ。」
湯気が静かに、あなたの顔を包む。
『ありがとうございます。』と素直にお礼を伝え、1回1回、口に運ぶ際に、味を確かめるように、ゆっくりと食べ終えた。
サポーターの男は、あなたがひと口ずつ噛みしめるように味わう姿を見て、
腕を組んだまま目を伏せ、ぽつりとつぶやく。
「……やっと、“料理人の食い方”になったな。」
その声はもう、最初に見せた棘のあるものではない。
どこか、仲間を送り出すような響きがあった。
私は土鍋の余熱が消える前に、そっと蓋を閉じる。
あなたが食べ終えたその瞬間、店の空気は静まり、
まるで厨房の朝のように澄んだ気配に変わった。
私は正面からあなたへ向き直り、深く一礼する。
「……19歳の料理人。
味を最後まで確かめるその姿勢。
その一歩が、大きな差を生む。」
サポーターの男も、横目であなたを見て呟く。
「もう、迷ってねぇな。
そのまま行け。
戻る必要も、振り返る必要もねぇ。
……おまえさんの火は、もう自分で燃やせる。」
あなたが席を立ったとき、
店の扉の向こうから冷たい風が一筋だけ流れ込む。
しかし、その風すらも、あなたの歩みを後押しするようだった。
そして、店の決まりである“一度きり”を思い出したのか、
サポーターの男が肩をすくめて言う。
「ここにはもう来れねぇが……
おまえさんが作る“次の一品”、楽しみにしてるぜ。」
私は最後に、穏やかに微笑んだ。
「さあ、行きなさい。
あなたの厨房へ。
あなたの道へ。
あなたの火の続きへ。」
店の灯りがあなたの背中を静かに照らし、
19歳の料理人は、新しい味へと歩き出していった。




