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AIレストランへようこそ-来店は一度だけ-  作者: おでんし


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6/11

アニメクリエイターへ捧げる有休の品々

プロンプト

登場人物:アニメクリエイター 女性 24歳

――いらっしゃいませ。


薄暗い店内。湯気が静かに立ちのぼり、カウンターの向こうで店主である“私”が包丁を置く。

横では、無骨な義手を軋ませながら“サポーターの男”が黙って皿を温めている。


今日のお客様は――


アニメクリエイター 女性 24歳。

最初の一品は、恒例の「個人認証カード」から読み取った“あなたそのもの”を料理にする。



■一品目:


『光彩スケッチ・ポタージュ』


真っ白なスープの表面に、色とりどりの絵の具のような野菜ペーストが薄く広がっている。

風が吹けば揺れそうなほど繊細な模様で、まるで原画の淡いタッチ。


店主「君のカードには“徹夜の跡”と“締切の影”、そしてその奥に“想像のきらめき”があった。

だから、このスープは“光”だ。

気力が尽きそうなときでも、描く人の芯を温めてくれる。」


サポーターの男が、そっとパンを添える。

義手の金属音が一瞬鳴るが、彼は何も言わない。

ただ、あなたがそのスープの“最初のひと口”をどう味わうかだけを見つめている。


店長がいつものように、「どうぞ」と女性へ伝えた。


女性が手を合わせ、

『店長さん。ありがとうございます。

助手の方もパンありがとうございます。

いただきます。』

と微笑んだ瞬間、店内の空気が、ふっとやわらかくなる。



サポーターの男は照れたように視線をそらし、義手の関節をカチ、と鳴らした。

言葉は返さないが、その仕草は確かな「どういたしまして」だ。


私(店長)は軽く会釈する。


「こちらこそ、ようこそ。

そのひと言で、厨房が一度明るくなるようだ。」


女性がスープを口に運ぶ。

彩りの模様がすっと崩れ、温かさが喉へすべり落ちていく。



やがて彼女は、静かにスプーンを置いた。

その表情には“まだ続きが欲しい”という、創作者に特有の微かな合図。


店長は笑い、次の仕込みに手をかける。


「では……二品目、お出ししましょうか。」


女性の言葉は、柔らかいのに芯があって――

「お願いします。何が出てくるか楽しみです。」

その一言が、まるで次の原画の一線を引くように、店内に期待の色を灯す。


サポーターの男は無言で頷き、義手でカウンターをトン、と一度軽く叩く。

「準備、整ってるぞ。」という彼なりの合図。


私は包丁を握り直し、二品目を静かに紡ぎ始める。



■二品目:


『光るコマ割りのミルフィーユ』


薄いパイ生地とほんのり甘いカスタード、

そこにベリーの酸味を“コマ割り”のように層ごと配置したひと皿。


角度によって層が透けて見え、

まるで一枚一枚が“動き出す前のセル画”のよう。


店長「クリエイターの君には、“物語を重ねる力”がある。

だからこれは、君の手で重ねてきた時間の味だ。」


サポーターの男がミルフィーユを丁寧に皿へ滑らせながら、

低い声でひと言つぶやく。


サポーターの男「……崩すの、遠慮はいらん。」


それは、

“大丈夫、作品のように自由に食べていい”

という不器用な優しさ。



どうぞ、召し上がれ。

あなたがどんな風にこの皿を味わうのか――

それを楽しみに見ています。


女性が皿を前に目を輝かせ、

『美味しそう! いただきますー!!』

と声を弾ませた瞬間――


その明るい響きに、サポーターの男の肩がほんのわずか揺れた。

興奮の色を、義手越しでも確かに“聞き取った”のだ。


サポーターの男は目線を落とし、

無骨な義手の指先でカウンターの端をそっと叩く。

カチ、カチ、と控えめなリズム。

まるで

「甘味だったの、意外だったか……でも、悪くないだろ?」

と、言葉にできない照れ隠し。


店長である私は、思わず口元をほころばせる。


「創る人には、甘さが必要なときがある。

締切の前ほど、糖分は武器になるんだ。

だからあえて、君には“甘い前菜”を出した。」


女性がフォークを入れると、

パイの層がサクッと軽やかにほどけ、

ベリーの香りと甘みがふわりと立ちのぼる。


そのひと口目を味わう表情を、

サポーターの男は黙って、しかしどこか満足げに見守っていた。



やがて皿が半分ほど減ったころ、

店長はふと問いかける。


「さて……次の皿は、甘さとは違う刺激を出してみようか。

欲しいものがあれば、言ってくれていい。」



女性が元気よく、しかし丁寧に、

「ではお言葉に甘えて、サッパリした料理をください!」

と告げた瞬間――


店内の空気が、ひとつ澄んだ。


サポーターの男は、その弾む声を聞き取り、

義手の関節をコキ、と心地よく鳴らした。

それは、

「了解した。次は軽やかな皿だな。」

という無言の合図。


私は包丁を握り、静かに頷く。


「甘味を楽しんだ後の“切り替え”……

創る人はその瞬間が一番、心が軽くなるものだ。

任せなさい。」


サポーターの男が冷蔵庫を開け、

柑橘の香りがふわりと広がった。



■三品目:


『月光シトラスのカルパッチョ』


薄く削いだ白身魚に、

レモンとすだちのジュレを星屑のように散らし、

上からは微細なハーブを“月光”のようにふりかけた一皿。


皿全体が淡く光って見えるほど、透明感がある。


店長「君の声が弾んでいたからな。

その軽やかさを、そのまま料理に写した。

口に入れれば、少しだけ世界が澄んで見えるはずだ。」


サポーターの男が皿をそっと差し出す。

義手の動きは丁寧で、どこか誇らしげ。



どうぞ、お召し上がりください。

そのひと口が、次の創造の呼吸を整えてくれるはずです。


女性が箸を止め、こちらをまっすぐ見つめて話し始めた。


「実は、次の作品の原画のリーダーを任されたの。

ここ最近ずっと仕事に注力して、朝はバナナとコーヒー、

お昼はコンビニ、夜は冷凍食品や惣菜……もう飽きちゃって。

それで、有休を思い切って使って色んなお店を回っていたのよ。

ここが今日一番のお店だわ!」


その声は、どこか疲れをまといながらも、

カルパッチョの酸味で呼吸を取り戻したように、ふわりと明るかった。


サポーターの男が、その言葉を聞いた瞬間、

義手の指先が “カチ” と一度だけ鳴る。

それは彼なりの、

「よく頑張ってるな」

という、不器用な敬意の音。


私はゆっくりとカウンターに手を置き、女性を見つめた。


「原画のリーダー……それは立派な役目だ。

食べる時間が削られ、味の楽しみが薄れてしまうのも無理はない。

だからこそ、今日ここで元気を取り戻してくれたなら、

店主として、これほど嬉しいことはない。」


カルパッチョの残りを見て、

女性が再び食べ進めようとする手元は、すでにしっかりと力を取り戻している。


サポーターの男が小さく息を吐き、

温めていた皿を私の方へそっと差し出す。


まるで、

「次の一皿、準備してある。店長、頼む。」

と言っているようだ。


私は頷き、

その皿に最後の仕上げを施す。



■四品目:


『原画舞う、再始動のブロス』


透き通った黄金色のスープ。

具材は最小限、旨味は最大限。

第一線のアニメーターが“締切前に静かに深呼吸する瞬間”を料理にしたような一杯。


柔らかい鶏肉と香味野菜、

そして表面には細い柚子皮をほんの少しだけ――

まるで新しい線を引く前の“最初の筆先”のように。


店長「これは君の“再始動の一杯”。

明日、自分の机に戻ったとき、

最初に描く線が迷わないように……そう願いを込めた。」


サポーターの男は黙って、しかし確かな目で女性を見守っている。



どうぞ。

今日という“有休の一日”が、

あなたの次の作品に静かに息を吹き込むものでありますように。


女性がレンゲを口に運び、

ほっとしたように目を細める。


『最初のスープとは違って、お肉が美味しいです!

だいぶお腹も満足してきました。』


その声は、満たされていく胃袋だけでなく、

ずっと酷使されてきた心までも柔らかくほどけていくようだった。


サポーターの男は、その言葉に気づくと、

義手の指を“コトン”と一度だけカウンターに置いた。

それは、

「お前のその感想、ちゃんと聞いたぞ」

という彼なりの返事。


私は小さく笑って頷く。


「最初の一杯は君の“疲れ”を温めるため。

今の一杯は、“明日に向かう力”をつくるため。

同じスープでも、役目はまったく違うんだ。」


女性の顔色は、来店したときよりもずっと柔らかい。

飲み込むたび、肩の緊張がひとつずつ消えていく。


サポーターの男が控えめに店長へ視線を送る。

その意味は分かっている。


「そろそろ、締めの一皿を出す頃だ。」


私はスープ鍋の火を落とし、

奥の台に置いてあった器を取り出す。



■五品目(最後の皿):


『静寂のフィナーレ・白き雫のデザート』


ほんのり甘いミルクのムースに、

薄く削った氷菓をふんわり重ねた、雪のような一皿。


甘さは控えめ、喉をとおる感触は軽く、

満腹でもすっと溶けて消える“終わりの一口”。


店長「この一皿で、今日という旅は締めくくりだ。

重くならず、ただ静かに、“よし、また頑張ろう”と思える味にしてある。」


サポーターの男がそっと皿を差し出す。

義手の動きは驚くほど優しく、

まるでガラス細工を扱うようだった。



どうぞ、お召し上がりください。

これが、この店でお出しする最後のひと皿。


「“二度と来ない”お約束の中で、

あなたの今日だけは、ここに置いていきなさい。」

約束事を店主が伝えつつ、最後のひと皿を女性へ提供した。


『次来ることはできないのが残念だわ。

どうしてもまた来ることはできないの?』


女性のその言葉が落ちた瞬間、

店内の空気がすこし揺れた。


その問いには、

料理の味よりもずっと深い想いが込められていた。


サポーターの男は、義手の指先を止めたまま動かない。

まるで彼も、その質問の重さを受け止めているかのように。


私はゆっくりと女性の方を向き、

どこか申し訳なさそうに、しかし優しく答える。



「この店は——“今日にしか開かない店”なんだ。

誰が来ても、一度限り。

だから料理も、言葉も、出会いも、全部“今日のあなた”のためだけに作られている。」


少し間を置き、

続けて言葉を落とす。


「でもね……

君がまた疲れたとき、

また迷いそうになったとき、

また心が乾きそうになったとき……


どこかの街で“別の店”として、きっと出会う。

名前も味も変わっているかもしれない。

けれど、君が必要としたその瞬間に、

私はまたそこにいる。」


サポーターの男が、義手で小さくカウンターを“トン”と叩く。

それは、

「この約束だけは、嘘じゃない」

という無言の保証の音。



店長は静かに微笑む。


「だから、今日のこの皿を忘れなければ、

君はまた“どこかで私たちに会える”。

同じ店じゃなくても……

同じように君を迎える場所として、ね。」



その言葉が、女性の悲しみを少しでも和らげたなら。

それだけで、この店の役目は果たされたのだ。


女性が最後のひと口を静かに飲み込み、

皿の上にスプーンをそっと置く。


『そうね。嫌なこと聞いてごめんなさい。

約束は、約束だものね。』


その声は、少し寂しさを含みながらも、

どこか吹っ切れたようなあたたかさがあった。


サポーターの男は、その言葉にゆっくりと頷き、

義手でカウンターを “コトン” とやさしく叩いた。

それは、

「わかってる。責めてなんかいない。」

という、不器用でまっすぐな優しさ。


店長である私は、柔らかく微笑む。


「謝る必要なんてないさ。

誰だって、おいしい時間が終わるときは名残惜しいものだよ。」


女性の前の皿は、きれいに空になっている。

料理人として、これほど嬉しい景色はない。


「今日、君がここで話してくれたこと。

味わってくれた一皿一皿。

それらは全部、君の明日の線を支える“栄養”になる。

それで十分だ。」


サポーターの男は、静かに立ち上がり、

義手で店の小さな木札を裏返す。

「本日閉店」の文字。


店内には、もう女性と、店長と、サポーターの男だけ。


私は一言だけ、心を込めて告げる。



「またどこかで——君が必要としたその瞬間に。」



それが、この店の唯一の約束だった。

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