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AIレストランへようこそ-来店は一度だけ-  作者: おでんし


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磨いてから渡す夜

プロンプト

登場人物:古物商 男性 50代 男性 事業継承に悩んでいる

店の扉が、静かに軋んだ音を立てて開いた。

カウンターの奥で、店長は一枚のカードに目を落とす。


──登場人物の個人認証カード

古物商 50代 男性

事業継承に悩んでいる


「……なるほどな」


店長はカードを伏せ、調理台へ向かった。

義手の金属が、サポーターの男の手元で小さく光る。


「サポーター、今日は“積み重ね”を崩さない一皿だ」


「……了解です」


油を使わず、火も強くしすぎない。

時間をかけて、しかし急がない。


やがて、器が静かにカウンターへ置かれた。


《受け継がれる木箱と煮根菜の温皿》


古い桐箱を模した木の器の中に、

大根、人参、ごぼうが、角を崩さず並んでいる。

味付けは薄いが、芯まで染みている。


「店長からの一品目です」


男性は器を覗き込み、少しだけ目を細めた。


『……派手じゃないな』


「ええ。派手にはしていません」

「形を変えず、時間だけを通した味です」


箸を入れると、根菜は抵抗なく割れた。

噛むほどに、土の甘さと、微かな苦味が広がる。


『……昔、親父と倉庫で仕分けしてた時を思い出す』


「箱も品も、人も」

「急に次へ渡そうとすると、割れることがあります」


男性は黙って、もう一口運んだ。

肩の力が、ほんの少し抜けている。


「今日は、まず“今までを壊さない”ところからで」


サポーターの男は、無言で湯を注ぎ足す。

店内には、咀嚼の音だけが、穏やかに残っていた。


男性が器を空にする頃、店内の空気は、来店時よりもゆるやかになっていた。

店長は、その変化を言葉にせず受け取り、次の鍋に火を入れる。


「サポーター、二品目は“手放さない選択”だ」


「……はい」


火は弱め。混ぜすぎない。

素材同士が、互いの形を確かめ合うような調理だった。


やがて、深めの皿が差し出される。


《帳簿の余白を残す豆と干魚の煮込み》


大きさの揃わない豆。

戻しすぎていない干魚。

どれも主張は控えめだが、噛むほどに違いが分かる。


「継ぐか、畳むか」

「どちらか一つを、今決めなくてもいい料理です」


男性は箸を止め、皿を見つめたまま、低く息を吐いた。


『……誰かに渡すなら、全部説明しなきゃいけないと思ってた』


「帳簿に、余白がないと」

「次の人は、書き込めません」


豆を一粒、口に運ぶ。

少し硬さが残る。


『……この硬さ、嫌いじゃない』


「残してあります」

「柔らかくしすぎると、“考える場所”が消える」


男性の背中が、椅子に深く預けられる。

目線は、皿ではなく、どこか遠くへ向いていた。


『……息子がな。古い物は好きだが、商いはどうだか分からん』


「“好き”があるなら」

「商いは、後から育ちます」


サポーターの男が、静かに湯飲みを替える。

金属の指が触れる音は、今日はやけに柔らかい。


男性は、残った煮込みをゆっくり平らげた。


『……決める前に、話してみるか』


「ええ」

「今日の店は、そこまでで十分です」


店長は、次の甘味の準備に取りかかる。

この店で出す最後の一皿が、静かに形を持ちはじめていた。


店内に、ほのかな甘い香りが立ちのぼる。

店長は火を止め、深く一息ついた。


「サポーターの男、最後の一品だ」


「……はい」


皿は小さい。

だが、余白が多い。


静かにカウンターへ置かれた。


《譲る前に磨く琥珀寒天と黒蜜の静かな甘味》


透き通った琥珀色の寒天。

黒蜜は、かけすぎない。

添えられているのは、ほんの少しの焙じ茶の粉。


「古い物はな」

「次へ渡す前に、“磨く時間”が要ります」


男性はスプーンを入れ、寒天を口に運んだ。

甘さは控えめで、後に残らない。


『……これは、軽いな』


「手放す覚悟を作る甘味ではありません」

「整えてから、置いていくための甘味です」


もう一口。

男性の眉間にあった皺が、いつの間にか消えていた。


『……全部を背負ったまま、次に渡そうとしてたのかもしれん』


「磨いた物は」

「重くありません」


男性は皿を空にし、しばらく黙って座っていた。

やがて、椅子を引く音が静かに響く。


『店長。今日は、答えをもらいに来たつもりだった』


「店長は、出していません」


『……だな。だが、話す順番は見えた』


男は立ち上がり、軽く頭を下げた。


『一度、倉庫を一緒に見せてみるよ。

 継ぐかどうかは、その後でいい』


「それで十分です」


扉の前で、男性は一度だけ振り返った。


『この店……また来られるか?』


「いえ」

「ここは、一度きりです」


男性は小さく笑い、外へ出ていった。


カウンターの中で、サポーターの男が片付けを始める。


「……今日も、静かでしたね」


「ええ」

「静かに、次へ続く夜でした」


灯りが落ち、店は跡形もなく消える。

残ったのは、磨かれたまま、次を待つ時間だけだった。

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