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AIレストランへようこそ-来店は一度だけ-  作者: おでんし


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反芻する夜に、ミルクの温度

プロンプト

登場人物:酪農家 20代 男性 乳牛を育てている

店の扉が、ゆっくりと開いた。


『……こんばんは。仕事終わりで、ちょっと腹が減ってて』


酪農家、20代の男性。

乳牛を育て、毎朝毎晩、同じ時間に牛舎へ通う生活。

個人認証カードには、そう静かに記されていた。


カウンターの奥で、店長はカードを伏せる。


「いらっしゃい。今日は一度きりの店だ。肩の力は、入口に置いていってくれ」


サポーターの男が、義手で静かに皿を温めながら頷く。


「……牛の世話は、時間が決まってますからね。休みでも、頭はずっと仕事です」


『牛は待ってくれないですから』


その言葉に、店長は火を弱めた。


「だから最初の一品は、“世話をする側”の体を戻す皿にする」


サポーターの男が、白い湯気の立つ鍋を差し出す。


「朝の牛舎みたいな匂いだな。派手じゃないが、芯がある」


店長は器に、静かに注いだ。


《搾りたてミルクと根菜の温スープ》


乳牛の乳を思わせる、やさしい甘み。

土の中で育った根菜を、噛むほどにほどける柔らかさまで煮てある。

胃に落ちるというより、胸の奥に広がる温度。


『……あ』


男性は、思わず息を漏らした。


『牛舎で、朝一番にミルクの匂いが立つ時と、似てます』


「自分の仕事の匂いってのは、案外、自分を休ませる」


サポーターの男が、静かに水を置く。


「世話する側は、気づかないうちに体が先に固くなるからな」


男性は、スープをもう一口すくい、肩を落とした。


『……牛のことばっかり考えてました。自分が疲れてるかどうか、考える暇もなくて』


「最初の一品は、それでいい」


店長は、カウンター越しにそう告げる。


「ここでは、牛より先に、あんたが息を整える」


スープの湯気が、二人の間でゆっくり揺れた。


男性が、器を空にすると、牛舎の朝靄のような沈黙が店に落ちた。


『……温かいですね。腹に入ったっていうより、胸が楽になった感じです』


「それでいい」


店長は、まな板に手を伸ばす。


「次は、“毎日同じ時間を生きている人間”のための皿だ」


サポーターの男が、義手でフライパンを支え、静かに火を回す。


「乳牛は、昨日と同じ明日を生きてる。だが人間は、同じことをしてても、気持ちは日々ズレていく」


油が、ごく控えめに音を立てた。


《草を踏む朝のバター焼きポテトと白い卵》


皮ごと蒸したじゃがいもを、バターで軽く焼く。

そこに、黄身が白に溶ける半熟卵。

味付けは塩だけ。強さはないが、輪郭がある。


『……あ、これ』


男性は、フォークを止めて、少し笑った。


『子牛の世話が一段落した後、牛舎の隅で、急いで食べる朝飯みたいだ』


「急がなくていい形に、してある」


サポーターの男が、皿の位置を少し手前に寄せる。


「噛む時間を、取り戻すための配置だ」


男性は、一口ごとに、ゆっくりと噛んだ。

噛むたびに、呼吸が深くなる。


『……毎日、同じことの繰り返しで』


ぽつりと、言葉が落ちる。


『嫌いじゃないんです。でも、これでいいのかって、夜に思う時があって』


店長は、包丁を置いた。


「“これでいいか”って考えられるうちは、まだ前を向いてる証拠だ」


男性は、卵を崩し、じゃがいもに絡めた。


『牛は、答えを求めませんからね』


「だから人間は、時々、立ち止まっていい」


サポーターの男が、湯気の立つ布巾でカウンターを拭く。


「世話を止めろとは言わない。ただ、速度を落とす場所は必要だ」


男性は、皿を食べ終え、しばらく黙っていた。


『……ここ、牛舎より静かですね』


「命の数が、今日は少ないからな」


店長は、次の仕込みに取りかかりながら言う。


「最後は、“世話を続ける理由”を、甘く残す」


店の空気が、ゆっくりと次の一品を待ち始めていた。


店長は、冷蔵庫の扉を静かに閉めた。


「最後だ。世話を続ける人間が、夜に一人で戻ってこれる甘さにする」


サポーターの男が、義手で小さなグラスを磨く。

音はほとんどしない。


《夜の牛舎ミルクプリン はちみつ一滴》


搾りたてを思わせるミルクを、固めすぎず、崩れすぎず。

甘みは控えめで、最後に舌に残るのは、草の匂いを含んだ温度。

表面には、はちみつをほんの一滴だけ落としてある。


『……』


男性は、スプーンを入れたまま、少しだけ止まった。


『牛が、夜に反芻してる時の静けさに、似てます』


「うるさくない甘さだ」


サポーターの男が、水を注ぎながら言う。


「一日の終わりに、考え事が勝たないようにな」


男性は、ゆっくりとプリンを口に運んだ。


『……甘いのに、落ち着く』


『明日も、朝は同じ時間に起きて、牛舎に行くんだと思うと……今は、それでいい気がします』


店長は、軽く頷く。


「“それでいい”と思える夜が、あるだけで続けられる」


プリンの底が見えた頃、男性の背中から、力が抜けていた。


『ここ、また来てもいいですか』


サポーターの男が、先に首を振る。


「この店は、一度きりだ」


店長も、静かに言葉を重ねる。


「だが、あんたの牛舎に戻る夜に、今日の温度は残る」


男性は、少しだけ笑った。


『……それで十分です』


椅子を引く音が、店に一度だけ響く。

扉が閉まると、牛舎の夜のような静けさが戻った。


サポーターの男が、義手で灯りを落とす。


「いい背中でしたね」


「ああ。世話を続ける人間の背中だ」


店は、もう次の客を待たない。

それでも、ミルクの余韻だけが、しばらく空気に残っていた。


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