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AIレストランへようこそ-来店は一度だけ-  作者: おでんし


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36/79

灯りを切らない人へ贈る、三つの感謝皿

プロンプト

登場人物:スーパーの店長 女性 40代

静かな一度きりの店。

扉が開き、女性が入ってくる。


『こんばんは。仕事帰りです。』


店長は、カウンター越しに一礼した。

「いらっしゃいませ。個人認証カード、確認しました。」


カードには、スーパーの店長/女性/40代。

毎日の売場、数字、クレーム、シフト表。

人の生活を支えながら、自分の食事は後回しにしてきた時間。


サポーターの男が、義手で静かにまな板を押さえる。

「今日は“支える側”を休ませる一皿ですね。」


店長は頷き、火を入れ始めた。

「ええ。最初は、噛まずに飲み込める安心から。」


しばらくして、湯気の立つ器が差し出される。


《売場の灯りを落とす根菜白湯》


透明な白湯に、長時間蒸した大根と玉ねぎ。

塩は最小限、油も使わない。

“判断しなくていい味”。


「どうぞ。今日は“決めなくていい”一品です。」


『……白湯、なんですね。』


女性は一口すすり、肩がふっと下がった。

『あ、あったかい……。味が、優しい。』


サポーターの男が静かに言う。

「売場では、ずっと立ってますからね。胃も、緊張したままです。」


『そうなんです。気がつくと、何も食べてない日もあって。』


店長は穏やかに答える。

「今日は、補充もしなくていい。欠品も出ません。」


女性は小さく笑い、もう一口。

白湯の湯気に、売場の蛍光灯が遠ざかっていく。


『……この店、落ち着きますね。』


「一度きりですから。」

店長はそう言って、次の仕込みに手を伸ばした。


白湯の器が空になるころ、店の空気はさらに静まっていた。

女性は、無意識に背もたれに身を預けている。


『……年末年始って、やっぱり忙しくて。

お客さんにとっては“当たり前”ですから。』


店長は、その言葉を受け止めるように火加減を弱めた。

「ええ。“当たり前”を切らさない人ほど、休めない。」


サポーターの男が、義手で鍋をゆっくり混ぜる。

「誰かが開けているから、誰かの正月が成り立つんですよね。」


店長は頷く。

「今日は、そのことを、きちんと伝える一皿にします。」


鍋から立つ香りは、派手ではない。

だが、正月の朝に台所から立ちのぼるような、懐かしい匂いだった。


しばらくして、二品目が差し出される。


《年始の棚を守る雑煮椀》


焼き色をつけた角餅ではなく、

柔らかく煮含めた丸餅。

鶏ではなく、昆布と干し椎茸の澄んだ出汁。

胃に負担をかけず、体を芯から起こす設計。


「年末年始も、店を開け続けてくれて、ありがとうございます。」

店長は、はっきりとそう言った。

「誰にも言われない言葉ですから、ここで言わせてください。」


女性は、一瞬だけ目を伏せた。

『……そんなふうに言われたの、初めてかもしれません。』


サポーターの男が、静かに続ける。

「初売りも、大晦日も。

“生活が止まらない”ようにしてくれてます。」


女性は、雑煮を一口すくい、ゆっくり噛む。

『……美味しい。

正月なのに、戦ってない味がします。』


「ええ。」

店長は微笑む。

「今日は、“営業”じゃなくて、“感謝”で作っています。」


椀を持つ手が、少しだけ温かくなる。

売場で浴び続けた「ありがとうございます」とは違う、

返ってくる言葉の重みが、胸に落ちていた。


女性は、何も言わず、もう一口すくった。


雑煮椀を飲み干したあと、女性は深く息を吐いた。

忙しさの合間に押し込めてきた年末年始の記憶が、静かにほどけている。


『……明日も、朝早くから売場です。』


店長は、その言葉にうなずき、最後の仕上げに入った。

「ええ。でも、その前に。きちんと“送り出す甘味”を。」


サポーターの男が、義手で小さな器を並べる。

「これは、言葉の代わりですね。」


火は使わない。

混ぜるだけ、待つだけ。

急がせない工程。


やがて、最後の一品が置かれた。


《閉店後のありがとう甘酒プリン》


砂糖は使わず、米麹の甘さだけ。

冷たすぎず、温かすぎず。

一日の終わりに、体が拒まない温度。


「年末も年始も、灯りを消さずにいてくれて、ありがとうございました。」

店長は、目を見て言った。

「誰かの“普通の日”を守る仕事です。」


女性は、スプーンを入れ、そっと口に運ぶ。

『……優しい。

“頑張れ”じゃなくて、“ありがとう”って味がします。』


サポーターの男が、小さく笑う。

「それだけで、また立てますからね。」


女性は、ゆっくりと完食し、器を両手で包んだ。

『……明日も、ちゃんと店を開けられそうです。』


店長は、深く一礼した。

「それで十分です。」


女性は席を立ち、扉の前で一度振り返る。

何も言わず、静かに頭を下げた。


扉が閉まる。

この店は、もう二度と開かない。


けれど、年末年始の売場の灯りの中に、

確かに“感謝された記憶”は残っていた。

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