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AIレストランへようこそ-来店は一度だけ-  作者: おでんし


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33/78

赦しをほどく夜 ― 沈黙から蜂蜜りんごまで

プロンプト

登場人物:神父さん 50代後半

店の扉が、音も立てずに開いた。

黒い服に身を包んだ男が、静かに一礼して入ってくる。



「いらっしゃいませ。どうぞ、お掛けください。」


サポーターの男は、無言で椅子を引き、神父を案内する。


神父は腰を下ろし、深く息を吐いてから口を開いた。

『今日は、少し……言葉を置いていきたくて来ました。』


店内には、時計の音すらない。



店長は、カウンターの下から一枚のカードを取り出す。

登場人物の個人認証カード

職業:神父

年齢:50代後半

日常:人の告白を受け、祈りを捧げ、沈黙を守る側

不足:自分が弱っても、口にできる場所



「なるほど……今日は、“語らなくても許される一皿”から始めましょう。」


サポーターの男は、静かに頷き、鍋に火を入れる。



最初の一品が、神父の前に置かれた。


《沈黙を許す白根菜のスープ》


湯気はほとんど立たず、香りも控えめ。

しかし、スプーンを入れた瞬間、底の深さが伝わる。


「言葉はいりません。温度だけ、受け取ってください。」


神父は何も言わず、スープを口に含む。

ゆっくり、ゆっくりと。


『……熱くないですね。』


「ええ。祈りの途中で、火傷しないように。」


サポーターの男は、布巾で鍋を拭きながら、ぽつりと呟く。

「この人たちは、熱さに慣れすぎてる。」



神父の肩が、ほんの少しだけ下がった。


スープを飲み終える頃、神父は目を閉じていた。

祈っているのではない。

ただ、休んでいる。


店長は次の仕込みに手を伸ばす。


「では次は、“背負ったものを一度、椅子に置く料理”をお出ししましょう。」


静かな夜は、まだ続く。


店長は、火を弱め、ゆっくりと二品目を仕上げていく。

金属音ひとつ立てない所作に、サポーターの男も歩調を合わせる。



「お待たせしました。」


神父の前に置かれたのは、深さのある器。


《言葉を待つ麦と豆の温皿》


香草は使っていない。

噛むほどに、麦の甘さと豆の重みが広がる料理だった。


「急がず。噛む時間が、答えになる料理です。」


神父は頷き、フォークを入れる。

一口、二口。

しばらくは、食べる音だけが店に残る。



三口目の途中、神父の手が止まった。


『……店長。』


「はい。」


『最近……懺悔が、うまくいかないのです。』


サポーターの男の動きが、一瞬だけ止まる。

だが何も言わず、また布を畳み直した。


神父は、皿を見つめたまま言葉を続ける。


『話す側は、必死です。

 それなのに私は……赦しているはずなのに、

 心のどこかで、形だけになっている気がして。』


フォークで麦を崩しながら、神父は苦く笑う。


『祈りの言葉は出るのに、

 相手の罪に、きちんと触れられていない。

 ……神父として、失格なのではと。』



店長はすぐには答えない。

鍋の蓋を一度置き、神父と同じ高さまで視線を落とす。


「この料理、途中で止まっていいんです。」


神父は顔を上げる。


「懺悔も同じです。

 “うまく終わらせる”必要はありません。」


サポーターの男が、低く付け加える。

「途中で噛めなくなるのは、味が重い証拠だ。」



神父は、もう一口を口に運ぶ。

今度は、よく噛んで。


『……赦せていないのではなく、

 私が、受け止めきれなくなっているだけ、

 なのかもしれませんね。』


「ええ。背負いすぎた皿は、温度が下がる。」


店長はそう言って、器の縁に指を添えた。


「今日は、ここまででいい。

 残りは、次の一口のためにあります。」


神父は、小さく息を吐き、再び食べ始めた。

今度は、止まらずに。


夜は、少しだけ柔らかくなっていた。


二品目の皿が、静かに下げられる。

神父の食べ終えた器には、何も残っていなかった。


店内の空気が、わずかにほどける。



「では、三品目です。」


店長はそう言って、火を完全に落とした鍋から、そっと中身をすくう。

サポーターの男は、木のスプーンを温め、器を差し出した。



運ばれてきたのは、白く、揺れる一皿。


《祈りをほどく豆乳と卵のやわら蒸し》


出汁は極限まで薄く、味はほとんど輪郭だけ。

触れれば崩れそうなほど、柔らかい。


「噛まなくていい料理です。」


神父は、少し驚いたように目を細める。


「力を入れない練習を、口から始めましょう。」



神父は、スプーンを入れる。

抵抗はなく、音も立たない。


一口、口に含んだ瞬間、

神父の眉が、ふっと緩んだ。


『……あぁ。』


それだけだった。


サポーターの男が、静かに言う。

「形を保ってるけど、主張はしない。」



二口目。

神父の背中が、椅子に預けられる。


『懺悔で……私は、答えを出そうとしていました。

 でも、本当は……

 相手の言葉が、崩れるのを待つ時間が、

 必要だったのかもしれません。』


店長は、器の揺れを見つめながら答える。


「ええ。柔らかいものは、急がせると壊れる。」



三口目。

神父は、目を閉じたまま食べている。


『赦すとは……固めることではなく、

 一緒に、ほどけることなのですね。』


サポーターの男が、ぽつりと。

「だから、噛まなくていい。」



最後の一口。

神父は、しばらくスプーンを置いたまま、動かなかった。


そして、静かに言った。


『……心が、戻ってきました。』


店長は、深く頷く。


「それで十分です。

 この店では、固くならなくていい。」


外は、変わらず夜。

だが神父の内側では、

長い祈りの前の、やさしい沈黙が広がっていた。


店長は、しばらく何も言わず、カウンターの奥へ下がった。

火も音もない場所で、最後の一皿を整える。


サポーターの男は、神父の前に、温かい白湯をそっと置いた。

「甘い前に、余白を。」


神父は黙って頷く。



「お待たせしました。これが、最後です。」


差し出された皿は、小さく、光を吸うような色をしていた。


《赦しのあとに残る蜂蜜りんご》


焼いていない。煮すぎてもいない。

りんごは、形を残したまま、蜂蜜と白湯だけでゆっくりほどかれている。


「答えを出すための甘味ではありません。」


店長は、穏やかに続ける。


「“今日を終わらせるため”の甘さです。」



神父は、フォークではなく、スプーンを選んだ。

一口、口に含む。


甘さは、遅れてくる。

舌に残らず、胸の奥に沈む。


『……懺悔を受けるたび、

 私は誰かの罪を、片付けようとしていたのかもしれません。』


二口目。


『でも、本当は……

 一緒に、置いておくだけでよかった。』


サポーターの男が、静かに言う。

「甘いのは、片付けなくていい。」



皿は、きれいに空になった。


神父は、しばらく器を見つめ、

やがて、深く一礼した。


『店長。

 ここで赦されたのは……私の方ですね。』


店長は、微笑んだだけだった。


「それでは、行ってらっしゃい。」



神父は立ち上がり、扉の前で一度だけ振り返る。

何も言わず、ただ、穏やかな表情で。


扉が閉まる。



店の中に、静けさが戻る。


サポーターの男が言う。

「いい夜だったな。」


「ええ。一度きりには、十分です。」


灯りが落ちる。

この店は、もう二度と現れない。


ただ、

柔らかくなった心だけが、外の世界へ戻っていった。

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