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AIレストランへようこそ-来店は一度だけ-  作者: おでんし


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土と笑顔を運ぶ単身赴任営業の三皿

プロンプト

登場人物:商社の営業 取引先は農家さん 30代後半 単身赴任中

店の扉が静かに開き、少し日焼けした顔の男が入ってきた。

単身赴任の気配を、鞄の軽さと肩の重さが同時に語っている。


店長は、カウンター越しに一枚のカードを読み取った。

個人認証カードには、

――商社の営業。取引先は農家さん。30代後半。単身赴任中。

と、簡潔に記されている。


店長は小さく頷き、鍋に火を入れた。


少し煮立てたあと、店長は、鍋の火を少し弱め、具材が暴れないように整えた。

根菜は形を残したまま、静かに煮えている。


「行ったり来たりする仕事ほど、立ち位置が曖昧になります。」

店長は鍋を見つめたまま、そう口にした。


サポーターの男は、土のついたまま届いた野菜を一つずつ洗い、

土が落ちるたびに、指先を止めて確認するようにしている。


《土と往復する営業鍋》


器から立ちのぼる湯気には、

畑の朝と、商談後の夕方が混ざった匂いがあった。


『農家さんの前では、売る人間で。

会社に戻れば、数字を持ってくる人間で……』

男性は、匙を止めたまま続ける。

『どっちも間違ってないはずなのに、

自分がどこに立ってるのか分からなくなるんです。』


根菜を噛むと、外は少し固く、中は柔らかい。

まるで、役割を切り替え続ける身体のようだった。


「土に立っている時も、机に向かっている時も、

あなたは同じ人間です。」

店長は、器を少し手前に寄せた。

「ただ、鍋の中では混ざり切らず、

境目が残っているだけです。」


『境目……ですか。』

男性は、もう一口すすった。

『農家さんに感謝されても、

会社では「もっと取れ」と言われる。

その間にいる自分は、誰にも評価されてない気がして。』


サポーターの男が、ふっと息を吐いた。

「でも、その間がなきゃ、どっちも成立しません。」


店長は頷いた。

「この鍋は、土と数字を行き来して、

どちらにも完全には染まらない味にしています。」

「それは、居場所がないのではなく、

二つをつなぐ場所に立っている味です。」


男性は、最後の一口をゆっくり飲み干した。

『……居場所が無いんじゃなくて、

自分で立ち続けてる場所だったんですね。』


器の底が見えた頃、

男性の背中から、ほんの少し力が抜けていた。


店長は、炊き上がった米の蓋を開け、

一瞬だけ立ちのぼる湯気に手をかざした。


「これは、一人で食べるための米です。」

そう前置きしてから、器によそる。

量は多くないが、粒は揃っている。


サポーターの男は、何も言わず、

茶碗を温めるように両手で支えた。


《単身赴任の夜を支える米皿》


一口目は、味付けを感じないほど素朴だった。

噛むほどに、遅れて甘みが出てくる。


男性は、箸を止め、視線を落とした。


『……家で食べる飯と、全然違いますね。』

少し間を置いて、言葉を探すように続けた。

『向こうでは、子供が先に食べ終わって、

「おかわり!」って騒いでて……

妻がそれを叱りながら、でも笑ってて。』


店長は、何も言わずに続きを待った。


『ここだと、音が無い。

静かすぎて、逆に家の声を思い出すんです。』

男性は、米を噛みしめる。

『会いたいな……って。

ただそれだけなんですけど。』


サポーターの男が、そっと卓に湯飲みを置いた。

湯気が、米の湯気と重なる。


「この米は、冷めても味が落ちません。」

店長は、穏やかに言った。

「すぐに帰れなくても、

想いは冷めないようにしています。」


男性は、小さく笑った。

『営業先では強がれるんですけどね。

夜になると、どうしても……。』


「強がらなくていい時間のための皿です。」

店長は、静かに締めくくる。

「この一杯は、

“帰りたい”気持ちを、無理に押し込めません。」


男性は、最後の一粒まで丁寧に食べた。

器を置いた手は、少し震えていたが、

その表情は、先ほどよりも柔らいでいた。


店長は、甘味の仕上げに時間をかけた。

急げば、もっと甘くできる。

だが、それはしなかった。


サポーターの男は、穀物を軽く煎り、

焦がさないよう、義手の角度を細かく調整している。


《畑の先を思い出す素朴な甘味》


皿に乗っているのは、小さな甘味。

派手さはないが、香りだけで、

畑の風景が立ち上がってくる。


男性は、一口食べて、少し驚いたように目を見開いた。

『……甘いけど、前に出てこない。』


「誰かに見せるための甘さです。」

店長は、そう説明した。

「食べた本人が誇るより、

周りが笑顔になる甘さにしています。」


男性は、ゆっくり噛みしめながら、言葉を探した。


『農家さんがさ……

「今年は、いい出来だ」って言う時の顔、

あれを見るのが好きなんです。』

少し照れたように続ける。

『家でも、子供が「おいしい!」って言うと、

妻がほっとした顔をするでしょう。

……ああいう表情を、また見たい。』


サポーターの男が、静かに頷いた。


「この甘味は、畑の“先”を考えて作っています。」

店長は、器の縁に指を添えた。

「収穫の先、取引の先、

食卓の先にある顔のための味です。」


男性は、最後の一口を大事そうに食べた。

『数字じゃない結果ですね。』


「ええ。」

店長は微笑んだ。

「あなたは、作物を売っているのではなく、

嬉しい表情が生まれる場面を、運んでいる。」


甘味を食べ終えた男性の口元には、

まだ会えていないはずの家族と、

畑に立つ農家さんの笑顔が、

同時に浮かんでいるようだった。


皿が下げられる頃、

その表情は、確かに未来を向いていた。

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