表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AIレストランへようこそ-来店は一度だけ-  作者: おでんし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/86

数字を休ませる -白味噌から未来まで-

プロンプト

登場人物:銀行員 女性 30代 営業担当

店の扉が静かに開く。

カウンターの奥で、私は一礼した。


店長「いらっしゃいませ。こちらは一度きりの店です。どうぞ、肩の力を抜いて」


サポーターの男は、義手でそっと椅子を引き、無言で客を迎える。


女性はバッグから一枚のカードを差し出した。

それは、この店で使われる登場人物の個人認証カードだった。


カウンターに座った女性の指先は、無意識にテーブルを叩いていた。

スマートフォンを握る癖が抜けず、画面を確認していないのに、目だけが落ち着かない。


店長「いらっしゃいませ。……数字が、まだ一緒に入ってきていますね」


『……今月、あと少し足りなくて。

達成率とか、前年差とか、頭の中でずっと回ってて』


サポーターの男は何も言わず、少しだけ照明を落とした。

義手が器に触れた瞬間、かすかな音がして、店の時間が一段階ゆっくりになる。


店長「では最初に、これを」


《数字を整える白味噌と雑穀のスープ》


白味噌の香りは強くない。

だが、雑穀が沈みきらず、浮いたり、揺れたりしている。


店長「雑穀は、あえて均一にしていません。

揃えようとすると、焦りが出るから」


『……私みたいですね』


女性は苦笑しながらも、すぐにスプーンを口へ運んだ。


一口目。

二口目。


呼吸が、少し遅くなる。


『……あれ?

数を数えながら食べてない』


店長「数字を追っていると、味は後回しになります。

このスープは、“計算しないと美味しくならない部分”を、最初から抜いてあります」


サポーターの男「「底に残った雑穀、無理にすくわなくて大丈夫です」」


その言葉に、女性の肩がわずかに落ちた。


『全部飲み切らなくていいんですね……』


店長「はい。

目標達成も、完食も、ここでは義務じゃありません」


女性は最後の一口を、少しだけ間を空けて口にした。

焦りで浅かった呼吸が、ようやく胸まで届いている。


『……数字が、遠くに行きました』


店長「ええ。

次の料理は、“追わなくても減らないもの”をお出しします」


サポーターの男は、静かに次の皿の準備を始めた。


白味噌の器が下げられたあと、女性は背もたれに軽く体を預けていた。

先ほどまで無意識に動いていた指先は、今は静かに膝の上に置かれている。


店長「表情が、変わりましたね」


『……え?

あ、本当だ。

さっきまで“何%”って言葉が頭に浮かんでたのに』


サポーターの男は、義手で皿を支えながら、ゆっくりとカウンターに置いた。

湯気は立つが、急かすような熱ではない。


《積み立てを休ませる根菜と蒸し鶏の温皿》


根菜は切り揃えられていない。

厚みも、形も、調理時間も違うはずなのに、どれも同じ柔らかさで湯気をまとっている。


店長「積み立てって、“毎月同じ”ことが評価されます。

でも人は、毎月同じ状態じゃありません」


『……はい』


女性は、数を数えず、順番も決めず、ただ近くにあった蒸し鶏を口に運んだ。


『……美味しい』


それ以上の言葉は、続かなかった。


サポーターの男「「冷める前に、じゃなくて。

食べたい時にどうぞ」」


女性は小さく笑った。


『営業トークだと、

“今がチャンスです”って、つい言っちゃうんですけどね』


店長「ここでは、“今じゃなくても大丈夫”です」


根菜を一口。

少し間をあけて、また一口。


『……焦らなくても、ちゃんとお腹に入ってきますね』


店長「休ませることで、積み立ては止まりません。

止まるのは、“追い立てる感覚”だけです」


女性は箸を置き、深く息を吐いた。


『数字を考えてない時間って、

こんなに静かなんですね』


サポーターの男は、何も言わず、湯気が消えるまで皿を見守っていた。


温皿が下げられると、店内はさらに静かになった。

女性は背筋を伸ばすでもなく、崩すでもなく、ただ“そこにいる”姿勢で座っている。


サポーターの男は、義手で皿の縁を確かめるように触れ、ゆっくりと差し出した。


《未来を急がない柑橘とミルクの静かなデザート》


柑橘は細かく刻まれていない。

ミルクも、甘さを主張しない。

完成しているのに、“結論”を急がない見た目だった。


店長「これは、急いで評価しなくていいデザートです」


『……評価、ですか』


店長「営業成績も、数字も、

“早く答えを出すほど偉い”空気があります」


女性はスプーンを持つが、すぐには口に運ばない。


店長「でも、この一皿は、

一口目で『美味しい』と言えなくても構いません」


サポーターの男「「溶けません。

待っても、形は崩れません」」


女性は、その言葉を確かめるように、しばらく皿を見つめてから、ゆっくり口に運んだ。


『……あ』


それだけ言って、もう一口。


『……派手じゃないのに、残りますね』


店長「結果は、すぐ出なくてもいい。

“残る感覚”があれば、今日は十分です」


女性の目から、営業用の光が消えている。


『私、

毎月の結果でしか、自分を認めてなかった気がします』


店長「今日のあなたは、

数字を出さなくても、ここに座って、味を感じました」


サポーターの男は、何も言わず、ゆっくり頷いた。


店長「それも、立派な成果です」


女性はスプーンを置き、深く息を吸って、吐いた。


『……今すぐ、何かを変えなくてもいいんですね』


店長「ええ。

未来は、急がせると逃げますから」


最後の一口を食べ終えた時、

女性の表情には、結果を待つ余白が残っていた。


扉の向こうへ向かう背中は、

“達成率”では測れない、静かな重さを持っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ