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AIレストランへようこそ-来店は一度だけ-  作者: おでんし


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23/81

貼り付けた翼を降ろす夜 ― 着陸後の光

プロンプト

登場人物:CAさん 20代後半 女性 前向きな性格

店の扉が、静かに開いた。


『こんにちは。少し時間ができたので、立ち寄りました。』


店長は、彼女を一目見てうなずく。

サポーターの男は、無言でカウンターを整えた。


「ようこそ。一度きりの店へ。まずは、あなたの個人認証カードから、一品目をお出しします。」


店長は、一品目の皿にそっと手を添え、説明を加えた。



一品目


《雲上の朝焼けプレート》


白い器の中央には、空気を抱き込んだような卵のムース。

その周りに、柑橘とハーブを合わせた明るい香りのソースが、朝焼けのように広がっている。


「あなたは、元気を“作って”いる人ですね。」

「疲れていても、笑顔で立ち続ける。その前向きさは、本物です。」


サポーターの男が、小さく付け足すように言う。

「…でも、元気は消耗品だ。」


店長はうなずいた。


「だからこの一品は、“外に出す元気”ではなく、

内側で自然に湧いてくる元気を意識しています。」


ムースは口に入れるとすぐ消えるが、

後からじんわりと温かさが残る設計。


「勢いだけで飛ばず、ちゃんと自分を保ったまま離陸できるように。」


『……これ、元気なのに、落ち着きます。』

『“よし行こう!”じゃなくて、“大丈夫、行ける”って感じ。』


サポーターの男は、満足そうに一度だけうなずいた。


「それでいい。」

「あなたは、もう十分速い。」


店内には、次の料理を待つ静かな期待が流れていた。


店長は、彼女の表情が柔らいだのを確認してから、二品目の器を差し出した。



二品目


《巡航高度のコンソメ・クリア》


澄み切ったスープは、揺れのない空の色。

湯気はほとんど立たず、静かに温度だけが伝わってくる。


「さっきの一皿で、気持ちはもう走っていません。」

「今のあなたは、“飛んでいる途中で、景色を見る余裕がある状態”です。」


サポーターの男は、低い声で付け加える。

「緊張が抜けた顔だ。」


スープをひと口。


音もなく、体の内側に染みていく。


「この料理は、何も足さない。」

「すでに十分な人に、余計な刺激は要らないですから。」


澄んだ味の奥に、骨と野菜の確かな支え。

前に出ないが、確実にそこにある。


『……静かですね。』

『さっきまで、頭の中で次の仕事を考えてたのに、今は何も浮かばない。』


店長は微笑んだ。


「それが巡航です。」

「急がず、ぶれず、ただ前に進む。」


サポーターの男は、器の置き方をほんの少し整えた。


「落ち着いた人間は、いちばん強い。」


彼女は、最後の一口をゆっくり味わった。

表情には、張り付いた笑顔ではない、自然な安らぎが宿っていた。


店内は、さらに静かになっていた。

彼女の表情には、もう“仕事用の笑顔”はない。


店長は、最後の一品をゆっくりと置いた。



最後の一品


《着陸後の光 パフェ》


グラスの底には、ほろ苦いカラメル。

その上に、やさしい甘さのミルク層。

一番上には、余計な飾りのない果実。


「もう、無理に笑わなくていいですね。」

「今のあなたは、“役割”を降りた状態です。」


サポーターの男は、短く言った。

「素の顔だ。」


スプーンを入れると、層が崩れ、味が混ざる。

甘さは強くない。

ただ、安心する温度だけが残る。


「この一皿は、頑張った人に向けたものじゃありません。」

「頑張る必要がない時間の味です。」


『……美味しい。』

彼女は、それ以上言葉を足さなかった。


しばらくして、ぽつりと。


『こうやって、何も考えずに甘いものを食べるの、久しぶりです。』

『ちゃんと、降りられました。』


店長は、深くうなずいた。


「それで十分です。」

「また空に戻る時は、今日の“光”を思い出してください。」


サポーターの男は、義手でそっとカウンターを拭いた。


彼女は、最後の一口を食べ終え、自然な微笑みで立ち上がる。


『ありがとうございました。』


その笑顔は、もう貼り付いたものではなかった。


彼女は椅子から立ち上がり、ゆっくりとコートを手に取った。

動作に、もう急ぎはない。


『本当に……ありがとうございました。』


店長は、いつものように深くは語らない。


「こちらこそ。」

「今日のあなたは、もう整っています。」


サポーターの男は、義手でドアの取っ手を静かに磨き、道を空けた。


扉の前で、彼女は一度だけ振り返る。

そこにあるのは、仕事のための笑顔ではなく、

誰にも見せなくていい、自然な表情。


『また来たい、って言えないのが残念ですね。』

小さく笑って、そう言った。


「一度きりだから、残るんです。」

「空の上で、ふと思い出せば十分ですよ。」


彼女はうなずき、扉に手をかけた。


開いた瞬間、外の空気が流れ込む。

一歩、外へ。


背筋は伸びているが、力は入っていない。

“役割”を身にまとう前の、素の歩幅。


扉が閉まる音は、驚くほど静かだった。


店内に残ったのは、整えられたカウンターと、

彼女が確かにここにいたという、穏やかな余韻だけ。


サポーターの男が、小さく言った。

「……いい着陸だ。」


店長は、ゆっくりとうなずいた。


「ええ。次の空も、きっと大丈夫です。」



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