道を走り続けた男に捧ぐ-安全運行プリンの余韻-
プロンプト
登場人物:バス運転手 60代 男性
「いらっしゃいませ。」
店長は、静かに店の扉を開けたバス運転手の男性を迎えた。
サポーターの男は、そっと椅子を引きながら、「どうぞ」と軽く会釈する。
店長は、最初の一品を決めるために、来店した客の“個人認証カード”を手に取った。
そこには——
《バス運転手/60代/勤務歴40年以上/安全運行優良認定》
と記されている。
店長は、そのカードを静かに置き、口を開いた。
「長年、人を乗せて走り続けた方には、“道”そのものを味わっていただきたい。最初の一品は、こちらです。」
《道のりポタージュ ~積み重ねた朝のやさしさ~》
サポーターの男が慎重に運んできた。
白い湯気の中には、じゃがいもの甘みと、玉ねぎの静かな香り。
だがその奥には、隠し味の麦味噌がじんわりとした“深さ”を与えている。
店長は微笑み、「これは、毎朝の出発前の静けさをイメージしました」と伝える。
バス運転手の男性は椅子に腰掛け、両手で器を包みながら、ゆっくりと目を閉じて一口。
『……あぁ……朝の空気みたいだな。』
彼の声は少し震えていた。
男性は、ポタージュを食べすすめていき、語り始めた。
『最初は、就職先がバス運転手しか受からなかったから始めた仕事だったけど、気づいたら定年近くまで働いている事をこのスープで改めて実感したよ。
色んなことがあったけど、今楽しくやれてるのは、乗ってくれたお客さん達がやさしかったからや。
まぁでもたまに怖いお客もいたけど、それでも楽しく今でも働けていて、俺は幸せだ。』
店長は、その言葉を静かに胸に受け止めた。
サポーターの男は、皿の縁についた雫をそっと拭いながら、男性の横顔を優しく見守っている。
店長は一歩前へ出て、深く頷いた。
「あなたの“誇り”……しっかりと伝わりました。
長い道のりの中には、きっと冷たい風も、温かい日差しもあったことでしょう。
それでも、人を運び続けてきたその背中は、とても強く、そして温かい。」
店長は次の料理の準備をサポーターに目で合図しながら、言葉を続けた。
「では、その誇りを形にしましょう。
お客さん達との日々、積み上げてきた時間——
それをひと皿に変えてお出しします。」
サポーターの男が黙って頷き、厨房へ入っていく。
そしてしばらくして、
店長の手によって、テーブルに静かに置かれた。
《誇りの走行記録プレート ~やさしさと強さのミルフィーユ~》
・下層には、人知れず積み重ねてきた努力を象徴する、しっかりとした味わいの根菜ロースト。
・中層には、乗客とのふれあいを思わせる、少し甘いキャロットグラッセ。
・そして最上層には、今もなお走り続けるあなたを表す、軽やかなハーブチキンのソテー。
サポーターの男が静かに告げた。
「これは、あんたが毎日積んできた“キロ数”みたいな料理だ。」
店長は、まっすぐ男性の目を見る。
「どうぞ、“あなたの道のり”を味わってください。」
『へぇ"俺の道のり"か。面白い料理だな。
いただこう。』
男性は、出された料理を食べすすめた。
『ほう。これは、初めての食感だ。いつも日本食ばかり食べていたから、こういった料理は初めてだよ。店長美味いよ。』
店長は、その言葉にふっと微笑んだ。
サポーターの男も、腕を組んで小さく頷きながら、「楽しそうで、何よりだ」とぽつりと漏らす。
男性が食べ進める姿を見て、店長は静かに語りかけた。
「慣れた景色、いつもの道……その中にも必ず“初めて”はあります。
今日のこの料理も、あなたがずっと新しいお客さんを迎えてきたように、
“初めての味わい”として受け止めてもらえたなら、嬉しい限りです。」
男性は箸――いや、カトラリーを動かしながら、どこか少年のような顔で味を確かめている。
『ほんと、こういうのも悪くないな。
なんだか新しい道を走ってるみたいや。』
その言葉に、店長はゆっくりとうなずき、サポーターの男に目で合図した。
「では……最後に、“今のあなた”に寄り添う一皿をお持ちしましょう。」
サポーターの男は「任せろ」と小さく返し、奥へと消えていく。
しばらくして、店長が皿を両手で丁寧に持ち運んできた。
《静かな終点プリン ~今日も無事故でありがとう~》
ほんのり苦いカラメルは、長い一日の“締め”のよう。
なめらかなプリンは、ゆっくりとブレーキを踏むような安心の甘さ。
上には、小さなミントの葉——
これは、明日また走り出すための“新しい風”を象徴している。
店長は男性の前に置き、静かに言った。
「今日まで走ってきたあなたへ。
そして明日も“安全運転のあなた”でありますように。」
サポーターの男が続ける。
「まぁ、一度きりの店やけどな。
その分、特別なプリンや。」
さあ、男性はこの甘やかな“終点”をどう味わうだろうか。
『おうそうだな。安全第一や。
いただきます。
初めて食べるプリンだ。こいつも美味いよ。
いやー出されたもん全部美味かったわ。
店長ありがとうよ。』
店長は、その言葉を聞いた瞬間、静かに目を細めた。
サポーターの男は腕を組んだまま、「そりゃよかった」と、ほんの少し照れた声で返す。
店長はゆっくりと歩み寄り、深く一礼した。
「こちらこそ……長い道を走り続けてきたあなたに、
少しでも“休憩所”のような時間を届けられたのなら、光栄です。」
プリンを食べ終えた男性の表情は、とても穏やかで、
まるで夕暮れのバス停に腰を下ろして、ひと息ついたような安らぎがあった。
サポーターの男が、店の扉のほうを親指で指しながら言う。
「また来れんのが惜しいけどな。次は別の誰かの番や。」
店長は続けた。
「どうか明日も、あなたらしく、安全運転で。
——そして、これからも良き道を。」
男性は立ち上がり、帽子を軽く持ち上げて笑った。
『あぁ、任せとけ。今日はほんま、ええ時間をもろた。
ほな、店長……ありがとうよ。』
その背中は、
何万人もの乗客を運んだ“誇り”そのものだった。
男性は静かに店を後にし、
店の前の道を、次の目的地に向かって歩き出した。




