就活青年に捧げる心の原点炎を取り戻す品々
プロンプト
登場人物:就職活動中の大学生 20代男性
「いらっしゃいませ……。」
扉の鈴が静かに鳴り、就職活動中の20代男性が一歩、店に入ってくる。
店長である私は、彼の差し出した“個人認証カード”をそっと受け取り、その情報を読み取る。
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◆個人認証カードの情報
・20代・男子大学生
・就職活動中
・最近、エントリーシートと面接準備に追われ、
“自分は何がしたいのか”が少し見えなくなっている……そんな揺らぎが見えた。
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私はその情報をもとに、最初の一品を決める。
「サポーターの男、準備を頼む。」
「了解だ店長。若い奴には、まず腹と心の芯を整えるやつだな。」
サポーターの男が静かに調理台へ向かった。
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◆最初の一皿
《芯灯のコンソメ》
黄金色の澄んだコンソメ。
だが中央には、ひとつだけ光を反射する白い球体のような“卵”が沈んでいる。
フォークで触れると、薄い膜が破れ、
とろりと白いスープがコンソメに溶けて、全体が柔らかく白金色に変わる。
「こいつは“芯の場所”を探す料理だ。
迷ったときに、どれが自分の光なのか思い出させる味だぜ。」
私は静かに、一歩前に出る。
「さぁ……最初の一品です。ゆっくり、どうぞ。」
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男性が椅子に腰を下ろし、皿を手元へ。
彼は小さく息を吸って、ひと口含む。
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『……優しい……けど、なんか奥が熱い。
面接前、ずっと不安だったけど……少し落ち着きますね。』
スープを飲みながら、彼の肩の力がほどけていく。
胸の奥にあった“焦り”が、少しずつ溶けていくようだった。
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次のひと言を、彼は少し照れながら言った。
『店長……次の料理も、お願いしていいですか?』
「……ふむ。」
大学生の言葉には前向きさがあった。
だが、その奥にまだ “不安の影” が、かすかに揺れているのを私は見逃さなかった。
面接で落ちた記憶、周りと比べてしまう焦り、
“正解を選ばないといけない”と思い込んでいる硬い心――
そんなものが、胸の奥でまだ丸まっている。
私はサポーターの男に目で合図を送る。
「サポーター。次は、あれを。」
「あぁ店長、わかってる。
胸ん中の冷えを溶かして、息を深く吸えるようにする一皿だな。」
サポーターの男は義手を軽く鳴らしながら、奥の厨房へ消えていった。
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◆二品目
《不安融解ミルクパスタ》
真っ白な皿に、白いミルクパスタ。
しかし、ただのクリーム系ではない。
中心には 薄い琥珀色の“安心オイル” がひと滴、静かに浮いている。
その一滴がパスタ全体に淡く広がり、
香りは温かく、鼻の奥がゆっくり落ち着くような柔らかさを持っている。
サポーターの男が皿を運びながら言う。
「こいつはな、不安ってやつを“無理に忘れさせる”んじゃねぇ。
丸くして、抱えられる形にしてくれるやつだ。」
私は学生の前に皿を置き、静かに言った。
「緊張して当たり前だ。
ただ……その緊張と不安が、味方につく瞬間もある。
まずは、その第一歩を口にしてみてくれ。」
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学生はそっとフォークを取り、
琥珀色が溶けたパスタをゆっくり口に運ぶ。
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『……あ……なんか……胸が温かい……。
さっきより、息がしやすい……気がします。
面接のこと考えると、ずっと苦しかったんですけど……少し……楽かも……。』
彼の目の奥で、固く結ばれていた糸が一本、ふっと緩くなった。
私は静かに頷く。
「いい表情になったじゃないか。
もう少し、“本来の自分”を思い出す料理……用意してある。」
サポーターの男も腕を組みながら、にやっと笑う。
「あとは自分の足で立てるようにする一皿だな。
店長、仕上げは任せたぜ。」
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次の料理に向けて、私は厨房へと歩き出した。
サポーターの男の言葉――
「本来の自分を思い出す一皿だな」
その一言が、私の中にすっと芯を立てた。
「……本来の自分、か。」
大学生の胸の奥には、
“本来の自分”がいるのに、就活という鎧で隠れてしまっている。
それをそっと引き出す料理が必要だ。
私は静かにサポーターへ指示を出す。
「サポーター。あの、まだ誰にも出したことのない“原点の皿”だ。」
サポーターの男はわずかに目を見開き、
すぐに口角を上げ、義手を軽く鳴らした。
「店長……ついにアレを出すのか。
あれなら、どんな奴でも“自分の声”を思い出す。よし、任せとけ。」
厨房に緊張感が走る。
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◆三品目
《原点呼び戻しリゾット》
穏やかな香りの湯気が立つ、淡いクリーム色のリゾット。
だが、ひとつだけ異質なのは――
中央に、透明度の高い“思考結晶”が沈んでいること。
レンゲですくうと、その結晶が微かに光を放ち、
リゾットの中へ静かに溶け込んでいく。
溶けた瞬間、
香りがまるで“幼い頃の安心”のように変わり、
味は“初めて夢を語った日の気持ち”を思い出させる穏やかさへと変わる。
サポーターの男が学生の前に皿を置きながら言う。
「なぁ、就活ってのは強く見せるんじゃなくてさ。
自分がどんな奴で、何を大事にしてるか……そこに戻ればいいんだよ。」
私は横で静かに付け加えた。
「この料理は、忘れかけていた“原点の声”が、
ひと口ごとに戻ってくるように仕上げてある。
ゆっくり味わってくれ。」
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学生はレンゲを持ち、少し迷いながら一口食べる。
そして、驚いたように目を見開いた。
『……あ……
小さい頃、よく父さんに言われてたんです。
“人の話をよく聞けるのが、お前のいいところだ”って……。
忘れてました……。
面接のことで頭いっぱいになって……。』
胸からすっと何かがほどけていく。
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私は学生の言葉を聞き、そっと微笑む。
「人に言われて心に残った言葉は、
お前の“原点”に近いところにあるもんだ。
そこを思い出せたなら……もう一歩前へ進めるはずだ。」
サポーターの男も腕を組んで頷く。
「店長、後はあれだな。
こいつが“自分の足で前を向く”料理だ。」
私は静かに、次の一皿の準備へ向かった。
「そうですね。最後は前を向いてもらいましょう。
そんな料理を……つくります。」
私はゆっくりと息を吸い、
これまでの三皿で整えた彼の心の流れを思い浮かべる。
不安をほぐし、原点を思い出し、
残るは――前を向くための“背中を押す一皿”。
サポーターの男が義手を軽く鳴らしながら、
にやっと笑って言う。
「店長。それ、あの火を使うやつだろ?」
私は頷く。
「あぁ……あの炎で仕上げる一品だ。」
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◆最終皿
《前途焔カルパッチョ》
薄く削いだ白身魚が、円のように美しく並ぶ皿。
その中心には小さなガラスの器。
器の中には、揺らぐ“橙の焔ソース”。
サポーターの男が、その器を静かに傾けると――
薄い炎がふわりと立ち上がり、
魚の表面をほんのわずかに照らしながら香りを引き出していく。
焦がさず、怯まず、ただ穏やかに前を照らす火。
完成した皿を、ゆっくりと学生の前に置いた。
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「これは……“前へ進む勇気”を灯す一皿です。
炎は大きくなくていい。
自分の進む先を、少しだけ照らせればそれでいい。」
サポーターの男も、炎の消えた皿を見つめながら言う。
「就活ってのはよ、迷うもんだ。
でもな、前を向ける火があれば……歩ける。
お前なら大丈夫だよ。」
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学生はしばらく皿を見つめ、
迷いを飲み込んでからそっとひと口食べた。
そして、小さく、しかし力強く言う。
『……前に、進みます。
次の面接……もう少し自分を信じて行ってみます。
店長……サポーターさん……ありがとう。』
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私は静かに頭を下げる。
「こちらこそ……あなたの原点と向き合う時間を、いただきました。」
サポーターの男も、柔らかく片手を上げる。
「じゃあ、行ってこい。
今日の火、忘れんなよ。」
学生は深く、深く頭を下げ、
そのまま前を向いて店の扉へ向かった。
もう振り返らずに。




