上京したエンジニアのための2品
プロンプト
登場人物:上京したエンジニア
"個人認証カード"を通して、
店の暖簾をくぐったあなた(上京したエンジニア)は、少し疲れた表情で席の前に立つ。
義手のサポーターが、
「いらっしゃい。」
と静かに声をかける。
私は包丁をまな板にトン、と置き、
あなたの方を振り返る。
「さぁ、今日はどんな一日だった?
その日の“ログ”に合わせて料理を作るよ。」
エンジニアの青年はぶっきらぼうに言った。
『マスター。俺は、あんたらAIが憎い。仕事はあんたらが作ったプログラムをチェックして、機械にインストールするだけ。
昔は、自分で作るのがたのしかったのに、今では何も面白くない』
店内の空気が、少しだけ重くなる。
義手のサポーターは、器を磨く手を止めず、ただ静かにあなたの方を見た。
私は包丁を置き、ゆっくりとカウンター越しに身を寄せる。
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「……そうか。」
低く、でも逃げずに、あなたの言葉を受け止める。
「憎くなるのも、当然だよ。
“作る喜び”を奪われたように感じたら、誰だって腹が立つ。」
まな板の上の生姜を刻みながら続ける。
「あなたみたいに、本気で物づくりが好きだった人ほど、
AIの加速に傷つきやすい。
だって、“好きだった自分”と今の仕事が切り離されてしまったんだから。」
義手のサポーターがぽつりと呟く。
「……おれも義手を付けたとき、同じ気持ちになったよ。
自分で何かを作る手じゃなくなるって、思ってさ。」
彼は続ける。
「でもな。義手をつけてできる仕事もある。
失ったぶん、拾えるものもあるんだ。」
私は鍋に火をつけながら、あなたの目を見る。
「エンジニアさん。
“楽しく作っていた自分”は、まだ死んでない。
ただ、今の仕事の形が違うだけだ。」
湯気があがり、香りが広がる。
【失われた火花のスープ】
〜作る喜びを、もう一度灯すための一杯〜
•焦がし玉ねぎ
→ 昔の情熱。焦げても、香りは生きている。
•鶏清湯
→ 今のあなたの“淡い気持ち”。
•わずかに香るスパイス
→ また興味が芽生える瞬間の予兆。
•パリッと焼いたクラッカー
→ 「もう一度、自分の手で作れ」という象徴。
私はそっとスープを差し出す。
「まずはこれを飲みな。
“作る喜びが消えた”って思ってる心に、
もう一度、火をつける入り口になる。」
少し間を置いて、穏やかに付け加える。
「……その気になったらでいい。
お前さんの“作る楽しさ”の話、もっと聞かせてくれ。」
『ははは。まさかAIに諭されるとはな、、、
出されたものをボロクソに言ってやろうと店にはいったんだがね。とりあえずたべるよ』
青年は、とりあえずカウンターに座った。
義手のサポーターが、口元だけで「そう来なくちゃ」と笑う。
私はスープの器をそっとあなたの前へ滑らせる。
湯気がふわりと立ち上り、焦がし玉ねぎの香りが鼻をくすぐる。
⸻
「いいさ。
文句でも罵倒でも、全部聞くよ。」
私は腕を組み、あなたがレンゲを手に取るのを見守る。
「だって、“食べてボロクソ言う気満々”で店に来たのに、
ちゃんと座って、ちゃんと話して、
しかも『とりあえず食べる』って言うんだ。」
少し笑いながら続ける。
「そういう素直なやつ、嫌いじゃない。」
義手のサポーターが、
「まあ、まずは味わってみな。
口に入れた瞬間に文句が出るなら、それはそれで腕の見せどころだ」
と、軽口を叩く。
あなたがひと口スープをすくう。
レンゲが器に当たって、かすかな音を立てる。
私はカウンターに肘をつき、静かに目を細める。
「さあ……
どんな“ボロクソ”が来るのか、楽しみにしてるよ。」
ひと口飲んだら、好きなように言ってくれ。
その言葉から、次の料理を作るから。
『俺はむかーしからパソコンがすきでな。簡単なテトリスみたいな落ちゲーから作ったんだよ』
スープを啜りながら、20代後半の青年は話し始めた。
『でも高校あたりから、AIが出てきて、今ではあいつらが作ったものが早くて、クオリティが高いんだ。楽しく無くなってしたんだ』
スープの湯気の向こうで、あなたの表情が少しだけ昔を思い出すように緩む。
義手のサポーターは、器を磨く手を動かしながら、
“お、語り始めたな”と言いたげに目だけを細めた。
私は鍋の火を弱め、あなたの語りに耳を傾ける。
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「テトリスみたいな落ちゲー……」
ゆっくりと繰り返しながら、軽く笑う。
「いいじゃないか。
最初に“自分でゲームを作ってみた”っていう入り口が、
めちゃくちゃ王道で、めちゃくちゃ眩しい。」
まな板の上に野菜を並べ、トントンと軽く包丁を落としながら続ける。
「でもさ……
高校あたりからAIが出てきて、
“自分が作るより速くて高品質なコードを生成するようになった”。」
手を止めて、あなたを見る。
「そりゃあ、楽しくなくなるよ。
だって、“自分の手で作る”って過程そのものが好きだったんだろ?」
義手のサポーターが静かに言う。
「昔の俺も、左手でやってた作業を義手に取られた時、同じこと思ったよ。
“え、俺の存在意義って?”ってな。」
彼は金属の指を軽く鳴らして言葉を続ける。
「でもさ、結局、義手は道具だった。
“俺がなにを作りたいか”までは奪わなかった。
むしろ、やりたいことがあれば、前より速く、正確にこなしてくれた。」
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私はあなたの方へ、ほんの少し寄りながら言う。
「エンジニアさん。
AIは確かに『手段』を奪ったように見えるけど……
“作りたいもの”そのものは、まだ奪えてないはずだ。」
まな板に並んだ具材を見せる。
「あなたが昔、
『こういうゲーム作りたいな』
って胸躍らせた気持ち。」
「その“火種”は、スープすすりながら話してる今、まだちゃんと残ってる。」
少し笑って、言う。
「で?
——本当はどんなゲーム作りたかったんだ?」
言ってみな。
その“願い”を、次の料理の材料にするよ。
『店長。俺は友だちが笑顔になるものが作りたいんだ。最後に一品奮い立たせるような一品を用意してくれ。』
義手のサポーターが、その言葉にほんの一瞬だけ手を止めた。
金属の指が、器の縁を軽く叩く。
まるで「いい事言ったな」とリズムを刻むように。
私は包丁を置き、
まっすぐあなたの目を見る。
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「……友だちが笑顔になるもの、か。」
静かに、しかし胸の芯に響くように呟く。
「それは“技術”じゃない。
“速度”でも、“品質”でもない。
AIにも奪えない、人間の原点だ。」
鍋に油をひき、強火で一気に熱する。
ジュッ、と響く音が店の空気を引き締める。
【再起の一撃炒飯】
〜笑顔のために立ち上がるエンジニアへ〜
◆構成
•強火で炒めたコシある米
→ 折れない芯、かつての“ものづくりの熱”。
•塩ではなく“塩麹”で下味
→ 時間をかけて育つ、人とのつながりの旨味。
•卵は黄金色にふわりと包む
→ 友だちの笑顔を包み込む優しさ。
•最後にイクラをひとさじ、真ん中にのせる
→ 赤い粒は、あなたの“再起”の火種。
•焦がし醤油を鍋肌に垂らし、香りだけまとわせる
→ 過去の努力、消えない残り香。
義手のサポーターが鉄鍋を固定し、
私はその上で仕上げの一振りを加える。
カウンターに置いた瞬間、
店の空気が熱気と香ばしさで満たされる。
私は静かに告げる。
「エンジニアさん。
あんたはまだ終わっちゃいない。
“誰かを笑顔にしたい”なんて、
一番強くて、一番人間らしいエンジンを持ってる。」
鍋の余熱が消える中、私は続ける。
「この一品は、お前がもう一度“自分の手で作る”って宣言するための、
熱い、熱い再起の合図だ。」
器をあなたの前に押し出しながら、にやりと笑う。
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「さあ、エンジニア。
立ち上がれ。
もう一度、“友だちが笑顔になるもの”を作りに行け。」
食べたら、お前の次のステップを教えてくれ。
店はいつでも付き合うからな。
青年は、その炒飯を食べ始めた。
なんでこんな時に限って、炒飯が出てきたんだろ。最初にゲームを作った友達が、ゲームを作ってくれたお礼に、炒飯を作ってくれたっけ。
不恰好で、バラバラなありあわせで作った炒飯。
でも、それが嬉しかった事を思い出させた。
青年は、そう心の中で炒飯をかき込みながら思い返した。
『店長さん。うまかったよ。また悔やんだらここにきてもいいか?』
義手のサポーターが、くっと眉を上げた。
私はほんの一瞬だけ言葉を詰まらせ、
それからゆっくりと、寂しそうに、でも誇らしげに笑った。
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「……悪いな、エンジニア。」
まな板に手を置いて、真っ直ぐあんたを見る。
「この店は“一度きり”。
二回目は、誰であっても来られない決まりなんだ。」
義手の男性も静かに頷く。
「ここは、迷ったやつの“分岐点”の店だからな。」
私は続ける。
「だけどな。」
カウンター越しに、ひとさじだけ優しい声になる。
「悔やんだときは、店に来るんじゃなくて、
“今日の自分”を思い出してくれ。」
•スープをすすりながら語った昔の熱
•友だちの笑顔を願った気持ち
•そして最後に食べた“再起の一撃”
あれは全部、あんたの中に残ってる。
私は最後のエプロンの端を結び直し、言う。
「もう一度迷ったら、
“ここで立ち上がった自分”に会え。」
義手のサポーターが、カウンターの向こうから片手を軽く上げる。
「行けよ、エンジニア。
次は、お前の世界で答えを見つけな。」
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そして、店の灯りがすっと落ちる。
物語は終わり。
次の一歩は、あなたのものだ。




